ハマス奇襲攻撃を予言したトランプ、評価が急上昇|石井陽子 ハマスによるイスラエル奇襲攻撃を巡って米共和党強硬派の間で大激論が交わされている。そんな中、あの男の発言に注目が集まっている――。

「とどめをさせ、ネタニヤフ!」

「とどめをさせ、ネタニヤフ首相!終わらせろ!」「彼らは地獄のような代償を払うべきだ」――パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム過激派組織ハマスが10月7日にガザ地区からイスラエル南部への奇襲攻撃を仕掛け、イスラエル人数百人と音楽祭に海外から訪れていた数十人が死亡した件を受けて、即座にFoxニュースのインタビューに応じ、そう強硬に繰り返したのは米大統領選共和党候補者のニッキー・ヘイリー氏だ。

インド系女性候補者である彼女は、トランプ前政権下で2017年から2018年まで米国の国連大使を務めた。イスラエルの揺るぎない友人であり、イランの熾烈な反対者である立場をこれまでも取ってきた。これまで候補者としてあまり目立っていなかったが、ハマスの「終焉」とイランを含むイスラエルの敵への積極的な攻撃を呼びかけ、共和党の伝統的保守派を代表する人物として急浮上している。

10月8日に出演したNBCの「Meet The Press」という番組の中でヘイリーは、ハマスによるイスラエル攻撃が単にイスラエルに向けられたものではなく、「アメリカへの攻撃でもある」と宣言した。「アメリカに入る最も簡単な方法は南部国境からだとイランが言っていることを私はひどく心配している」「我々の国境は解放されている。人々が入国してきている。その人々は審査されていない。もはや次の9.11を待つまでもないのだ」と彼女は強い懸念を示した。ヘイリーの見方では、イスラエルはアメリカの「防衛最前線」なのだ。

ハマスをテロ集団認定できない国連

ヘイリーは、10月15日、X(旧Twitter)にこう投稿した。

「私は2018年に国連で、ハマスが血に飢えたテロリスト集団であると非難した。 世界は当時、耳を傾けようとはしなかったが、今こそ耳を傾ける必要がある」

その力強い投稿には「フラッシュバック: ヘイリー、2018年の国連演説で、ハマスの国境突破とその後の『自制』要求に警告」との記事がリンクされている。その記事によると、2018年5月の国連安全保障理事会での演説で、ヘイリー国連大使(当時)はなんと、(まさに10月7日に起きたように)ハマスのテロリストがイスラエルとガザの国境フェンスを突破し、イスラエル南部の町を制圧する可能性に注意を喚起していたのだ。

同演説の中で彼女はまた、イスラエルが自衛のために動く際、国連加盟国が自制して行動するよう促していることを非難し、その上で、「この議場にいるどの国も、イスラエルほど自制して行動することはないだろう」「実際、今日ここにいる数カ国の記録を見る限り、イスラエルより遥かに自制的ではないでしょう」と訴えていたのだ。普段自制をしているイスラエルが攻撃を受けた際に自衛をするのを非難するのはおかしいという、今にも通じる五年前の発言なのだ。

続いてヘイリーは、2018年6月には国連安全保障理事会でハマスをテロ組織として非難する決議案を提出した。ハマスには、ISISやアルカイダとは異なり、国連安全保障理事会によるテロ集団としての認定も制裁もない。これへの賛成はアメリカだけで、他の国は棄権するか反対票を投じたので不採択となった。イランを支持するロシアは安保理で拒否権を持っている。安保理はいまだにハマスに制裁を加えることも、ハマスをテロ集団と認定することもできていないのだ。

さらに同年、ヘイリーは、国連総会でハマスを非難し、イスラエルに対するロケット弾攻撃を非難する投票を推し進め、投票に漕ぎ着けた。修正案が過半数をわずかながら超えたが、3分の2以上の賛成を必要とするルールへの変更に伴い否決されてしまった。

このように、ヘイリーは、国連が総会や安全保障理事会だけでなく、様々な機関が反イスラエル的なバイアスを抱える中で果敢に一貫して挑んできたわけである。

「イランが背後にいることはご存じでしょう」と断言

ヘイリーは今、バイデン政権は「イスラエルの支援、ハマスの排除、アメリカ人を帰国させること」に集中するよう訴えている。尚、イスラエルの武装化、既に強固な諜報機関の強化、紛争に巻き込まれた場合の周辺政府への威嚇、「ハマスの味方」であるパレスチナの団体や国連が支援する団体への米国からの資金提供の停止、バイデン政権が人道支援を目的とした60億ドル(およそ8,990億円)へのイランのアクセス凍結といった具体的な政策も訴えている。

ちなみに、この「60億ドル」とは、アメリカとイランのそれぞれの国で拘束されていた5人ずつを両国の合意に基づき同時に解放した囚人交換の際のアメリカからの見返りのことだ。ハマスによる奇襲攻撃の19日前にあたる9月18日、アメリカ政府は、イラン人5人を釈放し、イランが韓国で保有する60億ドルの資産の凍結を解除した。その60億ドルは食料品や医薬品の購入など人道目的での使用に限られ、アメリカ財務省が使い道などを監視していくとされていたものの、ハマスによる奇襲へのイランの関与の可能性を巡って、党派を超えた批判が高まっている。そこでバイデン政権の当局者は、その60億ドルを再凍結する可能性に含みを持たせている。

ヘイリーは、「ハマスがやったのだから、イランが背後にいることはご存じでしょう」と断言している。

ヘイリーの「経験」を揶揄する38歳の大統領選候補者

このように単刀直入に鋭く強硬姿勢を見せるヘイリーに、ここで待ったをかけた共和党候補者がいる。前回の拙稿「イーロン・マスクが激奨する38歳の米大統領選候補者」で紹介した同じくインド系のビベック・ラマスワミ氏である。ヘイリーの主張についてラマスワミはXにこんな辛辣な投稿をした。

「『とどめをさせ!』と狂暴に叫んでも、複雑な問題に対する首尾一貫した解決策にはならない。これは現実の世界であり、ビデオゲームではない。ニッキー・ヘイリーには外交政策の『経験』があり、それが表れている(筆者注:8月の第一回共和党候補者討論会中でのヘイリーからラマスワミに対する『あなたには外交政策の経験がないし、それが表れている』という発言を揶揄している)」

ラマスワミの別の長文投稿では、ヘイリーはハマスの奇襲を「アメリカへの攻撃」だと無責任に呼び、熱狂的に繰り返し叫んでいるだけで、現実的な道筋を提示していないとして、「失望し、深く懸念している」と述べ、本来こう考えるべきだと言わんばかりに自身の政策を次のように示した。

「米国はイスラエルに対し、外交支援、情報共有、そして自国防衛に必要な軍需品を提供すべきであり、その一方で、米国の国益を向上させないような、より広範な中東地域での戦争を避けるよう、特別な注意を払うべきである。1. イスラエルに強力な情報支援を提供し、売却と譲渡の両方を通じて追加の軍事物資を提供するよう備える。2. 空席となっているエジプト、リビア、オマーンの各大使館を順次即座に補充する。3. イランの核開発計画の完全な段階的停止と、サウジアラビアと核技術を共有するというバイデンの破滅的な計画の即時終了を含め、中東におけるこれ以上の核拡散をすべて終わらせること。4. ハマスまたはパレスチナ・イスラム聖戦に従軍したことのある在留外国人の国外退去を急ぐこと。適切な場合には、イスラエルの拘置所への引き渡しも含む。5. イスラエルと協力して、ハマスの圧力から逃れることを望む平和的なパレスチナ人を受け入れてくれる国を特定し、彼らの移住を促進する。6. 国連に対し、イスラエルとそれを標的とするテロリストとの間に誤った同等性を引き出そうとするその歴史的パターンがもたらす結果について警告すること」

ラマスワミはこの同文を繰り返しXに投稿している。

ラマスワミ砲炸裂!

「ホワイトハウスには、一族を金持ちにするために外交政策を売り渡した一族が既にいる」
「ニッキー・ヘイリーは政府時代に莫大な利益を得て、彼女に報酬を支払った人々に繰り返し報いた。なぜエスタブリッシュメント側が彼女を支持し、彼女のスーパーPACの傀儡たちが今また彼女のサービスに入札しているのか、不思議でならない」
\- 2004年の初当選後、最初の5年間で彼女の世帯収入は「3倍」になった
\- 知事時代に数十万ドルの贈与を受けた
\- 彼女に自家用ジェット機を貸した企業に数百万ドルの国家契約を与えた
\- ボーイング社にサウスカロライナ州での1億2,000万ドルの優遇措置を与え、公務員を辞めた後はボーイング社の役員に就任した(筆者注:ヘイリーはサウスカロライナ州の元知事)
\- 家族の軍事請負事業も含め、国連後の人生で800万ドル以上を稼いだ
\- 「大統領選に出馬しながら」、取締役会から企業の自社株購入権付与を集めるという恥ずべき行為をしている

関連して、Foxニュースの有名司会者であるショーン・ハニティ氏は、番組のゲストにラマスワミを呼んだ。その中でラマスワミは、共和党がスーパーPACによって動かされるのは「共和党らしくない」と批判した。するとハニティはすかさず、ラマスワミが前回の大統領選では共和党支持者でもなかった点や、政府や防衛産業ではなく民間企業で働いてきたアウトサイダーである点で彼を攻撃した。彼が共和党のあり方に口を出す立場ではないとの旨を暗に示したのだ。

X上でその映像を見た保守派の市民からは「トランプが民間企業出身であることを忘れたのか」とのツッコミや、ハニティがRINO(名ばかりの共和党)やネオコンだとの猛批判が出た。そして、ラマスワミはヘイリーを批判しながらこう投稿した。

「何年も、 ショーン・ハニティは『フェイクニュース』を非難してきたが、フェイクニュースになっちゃったんだな。(中略)このインタビューのスポンサーはニッキー・ヘイリーだ [爆笑する絵文字]」

「あなたの話を聞く度に、少し頭が悪くなる気がする」―討論会で大激論

さて、ヘイリーとラマスワミだが、実はこの2名は8月に行われた共和党の第1回候補者討論会で、大激論をしている。例えば、動画共有アプリ「TikTok」は親会社と中国政府との関係を懸念され、米政府機関のデバイスでの使用が禁止されているにもかかわらず、実はラマスワミはTikTokを使用している。その理由について司会者から質問されたラマスワミは、選挙に勝つためには次世代の若いアメリカ人に接触すべきだからだと答えた。

それを聞いたヘイリーは、「あなたの話を聞く度に、少し頭が悪くなる気がする」と怒りを抑える表情で割り込んだ。「私たち全員にとって危険なこのSNSに、子供たちが参加することを望んでいるのですか?」「1億5000万人がTikTokを利用している。つまり、彼らはあなたの連絡先を知ることができ、あなたの金融情報を知ることができ、あなたの電子メールを知ることができ、あなたのテキストメッセージを知ることができる。中国は、何をしているかを正確に知っている」と声を荒げ、「私たちはあなたを信用できない!」とヘイリーは大声で繰り返した。

ヘイリーがトランプ政権下で実務を積み、国際情勢も熟知したベテランである一方、ラマスワミが若者を取り込む戦略を持つミレニアル世代のアウトサイダーであり外交の素人であるという背景の違いが如実に表れた。同討論会では、トランプ政権で副大統領を務めたマイク・ペンス候補も、ラマスワミを「新人」と呼び、「OJT(体験学習、実地訓練)の時間ではない」と批判した。

また、ロシアのウクライナ侵攻についても、ウクライナ支援を継続しないという意思表示を当時壇上で行なった唯一の候補者であるラマスワミが「プーチンは邪悪な独裁者だが、だからと言ってウクライナが良いというわけではない」と発言した折、ヘイリーは即座に「ロシアの勝利は、中国の勝利だ」と呆れた表情で割り込み、繰り返した。発言の順番を待てと言うラマスワミに更に割り込み、「あなたが中国を好きだったのを忘れていたわ」と捨て台詞を吐いた彼女は、「彼(ラマスワミ)はウクライナをロシアに渡そうとし、中国に台湾を食べさせようとし、イスラエルへの資金援助を止めようとしている」「友達にそんなことはしない。代わりにすることは、友達の背中を押すことだ」と力強く述べた。

ヘイリーはまた、ラマスワミが政界入りする程影響を受けた「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大にする)を文字って、You will「Make America Less Safe」(あなたはアメリカの安全を脅かす)と壇上で彼の目を見て断言した。

ハマス奇襲攻撃以降、高まるトランプの存在感

今やバイデン政権率いるアメリカのリーダーシップの下、世界秩序は乱れている。しかし、それ故、特にハマスによる奇襲攻撃以降、トランプの存在感も再び強まっている。なぜなら、トランプ政権の外交が世界に安定をもたらしていたとして再評価が始まっているからだ。

例えば、トランプが2017年に中国の習近平国家主席と初めて会談し、フロリダ州パームビーチにある「マー・アー・ラゴ」で食事をした時のことを思い出して欲しい。トランプの言うところの「美しいチョコレートケーキ」をデザートとして楽しみながら、彼は米軍が59発のトマホーク巡航ミサイルを撃ち、シリアの軍用飛行場を爆撃したことを習近平に伝えた。これはシリアのアサド大統領が23人の子供を含む77人の自国民を毒殺したことに対する罰であり、また習近平がこれらの殺人に対する国連の非難を阻止したことに対する罰でもあった。

当時、北朝鮮や中国、イラン、イスラム国など多くの外交上の問題に直面していたトランプ政権のこの比較的素早い対応は、友好国や敵対国に対し、必要なら武力行使をいとわない決意を見せる意図があったとされる。これについて安倍晋三首相(当時)も、「化学兵器の拡散と使用は絶対に許さないとの米国政府の決意を日本政府は支持する」と記者団に語っている。「強いアメリカ」のあり方の意義を感じる一件であるが、この件についての評価を含めた「世界はドナルド・トランプ政権下でより安全だった」と題されたオピニオン記事が、10月20日付けで『The Hill』というアメリカの政治専門誌のネット版に掲載されている。

記事内では、トランプ前政権とバイデン現政権の比較と共に、CNBCの新しい世論調査でバイデンの外交政策への対応を支持する回答者がわずか31%であることや、ジョージ・W・ブッシュとオバマの両ホワイトハウスで働いたロバート・ゲーツ元国防長官が米国の新興メディア『アクシオス』の取材に対し、米国は「78年前に第二次世界大戦が終わって以来、最も多くの危機に直面している」と語ったことが紹介されている。

ゲーツはバイデンが「過去40年間、ほぼすべての主要な外交政策と国家安全保障問題で間違っていた 」と断言している人物である。バイデン政権の外交がいかに国際秩序を乱しており、危険であるかが指摘されているのだ。

「私が大統領であれば、イスラエル攻撃はなかった」

トランプの先見性も再評価されている。様々な例があるが、一番話題なのは、世界同時多発テロ記念日である9月11日、つまりハマスによる奇襲攻撃の約一ヶ月前にトランプが自身のSNSアプリ「Truth Social」においてその奇襲を予言していたことだ。それにはこう綴られている。

「ペテン師ジョー・バイデンがイランのテロリスト政権に60億ドルもの資金を提供するなんて信じられるか?その金は中東全域、いや世界中のテロリズムに使われる。この無能な愚か者(※大文字で強調)は、アメリカをまさに破壊している。彼は9月11日の今日、大胆にもこの恐ろしい取引を発表したのだ。人質に金を払うことは、世界中のアメリカ人に対する誘拐、身代金、恐喝につながる。私は、様々な非友好的な国から何十人もの国民を解放したが、一銭も払ったことはない!」

このように見通していたトランプは、ハマスの奇襲直後に声明の中でこう述べた。「(イスラエルは)自国を防衛する権利がある」「悲しいことに、アメリカの税金がこれらの攻撃の資金源となった。我々はアブラハム合意を通じて中東に多くの平和をもたらしたが、バイデンがそれを、誰も考えもしなかったような速いスピードで削り取るのを見ただけだ。また始まった」「私は、イスラエルを安全に保っていた!他の誰もしないし、他の誰にもできない!そして私はプレイヤー(※筆者注:重要人物たち)を全て知っている!」

また、10月11日にフロリダ州で開いた支持者向けの集会では、「私が大統領であれば、イスラエルを攻撃する者など決していなかっただろう」と強調し、バイデン政権の「弱腰」が紛争抑止の失敗に繋がっていると主張した。

トランプは大統領就任中、イスラエルを重視した。2017日5月22日、米国の現職大統領として初めて、エルサレム旧市街にあるユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪問したのは象徴的であった。フロリダ州の共和党下院議員であるバイロン・ドナルズ氏はXにこう書いている。

「イスラエルはホワイトハウスにおいて、トランプ政権以上の盟友を得たことはなく、彼のユダヤ人に対するコミットメントは決して揺らぐことはなかった。我々はトランプをホワイトハウスに戻す必要がある」

他にも、保守系の有名論客で元ニューヨーク州判事のジェニーン・ピロ氏はFoxニュースの番組の中でトランプについてこう述べている。

\- トランプは私たちにアブラハム合意を与えた
\- トランプはイランへの制裁を実施した
\- ドナルド・トランプは、オバマがイランにラブレターを送っていた時に、イラン核合意から撤退させた
\- トランプが大統領だったときに斬首はなかった
\- 彼が大統領だったときにカリフ制国家(筆者注:ISIL/イラク・レバントのイスラム国)は破壊された
\- バイデン演説、世界の舞台で大失敗!

保守系の弁護士で評論家のマーク・レヴィン氏はそれらの観点に加え、こう訴える。

「バイデンはパレスチナ人やイランへの資金援助を含め、すべてを覆しただけでなく、ことあるごとにネタニヤフ首相を貶め、会談を拒否し、イスラエルがパレスチナ人にもっと譲歩するよう要求した。宥和政策と悪化には結果が伴う」

このように、トランプ政権は、強いアメリカ路線で戦略的に中東を押さえていたが、それを弱腰で融和的なバイデン政権がひっくり返していっているという見方が、トランプ自身とその支持者の間での共通理解となっている。

共和党の政策は孤立主義へと変わるのか

アメリカには今、中国との世界覇権の争い、ロシア・ウクライナ戦争、台湾有事、中東問題、アメリカの南北の国境問題、と対応しなければならない前線が多数存在する。その中で、共和党の政策が今後孤立主義へと変わっていくのかという疑問が様々なところで見受けられる。

例えば、AP通信は10月16日に「イスラエルとハマスの戦争は、共和党の孤立主義シフトを試している」という記事を出し、その中で「共和党のホワイトハウス候補者たちは、長らく国内の台所事情が中心であった大統領選が突然海外に焦点を移し、外交政策上の課題が山積する中、相反するメッセージを発信している」とバイデン政権の外交に対する批判で説得力が弱まる恐れを指摘した上で、「ドナルド・トランプ前大統領の指導の下、共和党は長年支持してきた強硬な外交政策から急激に遠ざかっている」とし、「共和党候補の有権者の56%が、米国は世界情勢においてあまり積極的な役割を担うべきでない」と回答した『AP VoteCast』による昨秋の中間選挙の世論調査を紹介している。

同記事は、(本稿の冒頭でも触れたが)ヘイリーをハマスの「終焉」とイランを含むイスラエルの敵への積極的な対応を呼びかける共和党の守旧派の代表者として浮上中とし、元Foxニュース司会者で独自の人気保守メディアを持つタッカー・カールソンが支援するデサンティスとラマスワミは、より慎重な「アメリカ第一主義」のアプローチを支持しているとし、そして「共和党予備選のトップランナーであるトランプは、個人的な不満に煽られた一貫性のないメッセージで問題を混乱させている」と厳しく位置付けた。

首謀者は中国

共和党の中でも政策が分かれているが、例えばヘイリーはネオコン的だとよく批判対象となるものの、日本の保守から見れば、心強いのが実情だ。彼女は10月17日に「目を覚ませ、アメリカ: 我々の敵は、世界中で我々の弱みにつけ込む邪悪な同盟だ」と題した記事を『ニューヨーク・ポスト』で発表している。

その中で彼女は現在の国際情勢について、「ハマスがイランの言いなりになっているのと同じように、イランは共産中国とプーチンのロシアのジュニアパートナーである」と位置付けている。中国が首謀者ではあるが、アメリカは中国、ロシア、イランという3つの頭を持つ邪悪な怪物と戦っており、その3つの政権は全て同じチームであることや、それらがアメリカの友好国や同盟国を脅かす理由はアメリカへの憎悪を声高に宣言して最終的にアメリカを崩壊させるという同じ目標を共有していることであることなどを指摘している。

イスラエル攻撃もウクライナ侵攻もそのアジェンダの一部であり、その三カ国はアメリカの決意を試すために、あらゆる手段を講じているとの位置付けだ。

そこで、アメリカは台湾、日本、韓国、オーストラリア、そして太平洋のすべての友好国と同盟国を、中国から守ることができるが、「強いアメリカがいなければ、世界は混沌に陥り、私たちの自由が危険にさらされる」と訴えている。

中国との覇権争いの意識も強く、自発的に同盟国・友好国を重視している点を打ち出すところが他候補には見られない特徴だ。国際舞台で実績を積んできた威厳と重みが感じられる。

一方で、ディサンティスやラマスワミは国内問題で支援を獲得する傾向にあり、国益次第では同盟国・友好国を切り捨てることにも含みを持たせている印象さえ抱く。

日本にとっての理想像とは

日本にとってより望ましいアメリカのパートナーとはどのようなものだろうか。ラマスワミは(メキシコとの南部の)国境問題を常に強調している。「国境、国境」と繰り返している印象だ。アメリカファーストである。ロシア・ウクライナ戦争では、ロシアへの「勝利」ではなく、ロシアを中国から引き離す戦略を提唱している。

一方ヘイリーは、中国、ロシア、イランとの対決を重視している。アメリカの覇権を脅かす敵への断固たる姿勢に揺るぎがない。伝統的な保守派そのものと言っていいだろう。いわゆる「保守派」といってもかくも違うのだ。明日のアメリカの政治がどう転んでも、受け止められる状態を日本は作っておかなければならない。同時に、白熱する米国内の大激論を見習い、我が国の中でもしっかり議論していきたいものだ。

石井陽子

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