【西村英丈の次世代人事コラム】第1回 多様な社会で「実現したい未来」を目指すインタープレナー

SDGs時代をリードする!新たな価値観「インタープレナーシップ」

サステナブルな世界を創り出す人材として、「インタープレナー(越境人材)」が注目され始めています。アントレプレナー(起業家)でもなく、イントレプレナー(社内起業家)でもないインタープレナーは今、新たな価値観として、ビジネスパーソンの働き方に大きな影響を与えようとしています。
社会の変革=未来に向けてどのような働き方・生き方をし、自分の才能を輝かせるのか。そのためには、これまでのような“ただのキャリア論”ではない新しい何かが必要なようです。
長年企業の人事業務に携わり、HR版SDGsを策定するなど人的資本の分野で活躍する西村英丈氏に、5回にわたって「インタープレナーシップ」を解説していただきます。

ラナプラザの崩壊事故が原体験

私が共同代表を務めるOne HRは、企業と個人の持続的な成長の実現を目指し、企業人事、HR事業者、個人を中心とした約1300人のコミュニティメンバーで構成される有志団体です。 2017 年3月に発足し、これまでに「経産省 × 企業人事の対話」や「イノベーションのための副業・兼業」など多様なテーマでイベントやワークショップを開催してきました。

今でこそ、人的資本というキーワードとともに、組織と個人のエンゲージメントやサステナブルな働き方はSDGsとセットで議論されるようになってきましたが、我々は、業界として一早く、SDGsを実行する上では組織と個人のサステナブルな関係が必要不可欠であると声をあげ、危機感をもって、経産省や企業の人事部門担当者、大学の先生と産官学でHR版SDGsを策定しました。

当時の私の問いはこうでした。

「地球の持続可能性を考えSDGsを実行する上で、社会を構成する組織と個人の関係が、そもそもサステナブルな状態であることが求められるのではないか」

「現在に至るまで、SDGsとHRとの関係性はあまりに希薄だったのではないだろうか」

そう思った背景には、これまで現場の最前線で人事業務を遂行してきた時の思いがありました。
2009年から2014年までアジア地域を統括する会社でシンガポールに駐在。バングラデシュやベトナム等に出張し現場を見て、人事担当者として組織全体の観点から経営をサポートしてきました。当時、バングラデシュで史上最悪の労働災害と言われたラナプラザの崩壊事故が起こり、いかに持続可能なビジネスが必要であるかを痛感したことが、私の原体験となりました。

また、シンガポールという国は、ジョブホッパーは多いのですが、“シンガポール株式会社”にいるかのごとく持続可能な社会を目指して、顧客・社会(地域)・社員が三位一体となり、国として成長している光景がありました。そのような原体験から、ビジネスを構成する組織と個人が、サステナブルな関係になっていることが求められる時代なのだと確信し、2019年にあらゆる企業のミドル世代の人事担当者や経産省の同世代メンバーで、次世代人事モデル策定プロジェクトを立ち上げました。

現在では、パーパス経営、ウェルビーイング経営、人的資本経営など、あらゆる社会的な情勢が後押ししてくれ、会社としての推進体制や統合報告書は整ってきました。むしろ、整い過ぎたくらいです。

しかし、日々携わっている既存事業では、社会課題を解決しているとは言い難いビジネス形態になっているのも事実でしょう。今日においては時代の過渡期でもあり、致し方ない部分はありますが、「理念と利益」のある意味ダブルスタンダードな世界があります。言い方を変えると、企業には新規事業と既存事業があるなか、新入社員がみな、SDGsに関連した新規事業に配属されるかといえば、そうではない現状があります。

インタープレナー(越境人材)の理想の姿・行動

インタープレナーとは、組織や所属の壁を越えて対話を行い、社会起点の目的を特定し、自らが動かせるアセットを動かしながら共創を通じて価値創造を行っていく、新しいタイプの自律した「社会人」のことです。SUNDREDでは実際の新産業共創プロジェクトを通じて、インタープレナーの理想の姿・行動を下記の通り定義しています。

1. 様々な社会の単位において、多様なメンバーとの対話を通じて社会起点の目的・課題を特定する。
2. 特定した目的や課題を実現・解決するための仕組みを構想する。
3. 課題解決や目的の実現のために、共感で繋がって一緒に動いていくチームを組成する。
4. 所属する組織など自分が動かせるアセットを自在に動かす。
5. 目的の実現・課題の解決をやり切って、それに応じた適切なインセンティブ、報酬を獲得する。
6. 学びや繋がり、新たな興味・関心をベースに、次の目的・課題に取り組み、自由に社会と価値交換して生きていく。

21世紀型社会に求められるインタープレナー(越境人材)について初の実態調査を実施 より

これからは、インタープレナーシップを持った働き方、暮らし方が大切になります。その先に、サステナブル、さらにはそれを超えたリジェネラティブな社会が構築されていくものだと考えています。そこで各個人が得られるものがウェルビーイングです。

次回以降、インタープレナーシップについて、その要素(コンピテンシー)や活躍するインタープレナー人材の実例や育成方法、また組織としての評価などをご紹介しながら、ひも解いていきます。

【西村英丈氏のコラム】
僕たちがつくる、次世代の人事モデル2023.10.24SB-J コラムニスト・西村 英丈

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