多様性、包摂性を実践できる人を増やす――企業向け「D&I検定」が運用開始

「D&I検定3級」の教材動画の中で、「無意識のうちに人を見かけだけで判断し、その人の出身地や国籍に偏ったイメージを持っていないだろうか?」と訴えかけるワイン エリカ氏

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に関して本質的な理解を深め、「自分ごと」として実践できる人を増やしていくことを目的に、D&Iに特化したコンサルティングを手掛けるJobRainbow(ジョブレインボー、東京・渋谷)が独自の「D&I検定」制度を開発し、企業向けに運用を開始している。多様性や公平性、包摂性という言葉の基礎に始まり、無意識のうちに誰もが持っている偏見、そしてLGBTQ +や外国にルーツのある人たちが現実にどのような差別に直面しているかを当事者の声を通じて学び、どうすれば誰もが生きやすい社会にしていくことができるかを考えてもらう内容だ。約2時間半の動画コンテンツを視聴後に理解度を判定するテストに合格した人には認定証が送られる。(廣末智子)

「D&I検定」の補助教材の表紙

2016年創業のJobRainbowは、LGBTQ +の就活生や転職者に対象を絞った求人情報サイトの運営や、企業のダイバーシティ研修などを通じて、500社以上からD&Iを推進する上での課題を聞いてきた。その中で、D&Iは、社内研修を行うにもインセンティブ設計が難しく、表面的な理解にとどまってしまいがちで、担当者自身もD&Iを体系的に学ぶ機会が少ないという共通項が浮かび上がったという。

そこで、「D&Iの包括的かつ本質的な理解・自分ごと化を促進し、社会のD&Iを加速させる」として開発したのが「D&I検定制度」で、まずは企業で「これから働く人」も含めたすべての人に向けたベーシックコースとなる「3級」をリリースし、約2時間半の動画コンテンツを提供している(人事部や管理職などマネジメント層向けの2級と、DEI推進担当者レベル向けの1級については開発中)。

当事者らが「知識×経験談×アクションプラン」を講義

「D&I検定3級」の教材動画のメーンパーソナリティを務める大木優紀氏(左)と星賢人氏。動画はすべて、読みやすい文字で字幕が付けられている

3級の動画コンテンツは、大まかにいうと、「知識×経験談×アクションプラン」で構成され、自身、ゲイ当事者でJobRainbow代表取締役の星賢人氏と、スタートアップの旅行会社の執行役員、大木優紀氏が掛け合いで進行する。

さらに当事者の立場から、マルチレイシャル(複数の人種的ルーツを持つ人のこと)のワイン エリカ氏(ニューピースCorporate Office /HR 、DEIBプロジェクトオーナー)、ノンバイナリーの松本伸氏(JobRainbow D&Iラボコンサルタント)、育児や介護と仕事との両立に向け、「男性のケア参画」を推進する古山陽一氏(国際医療福祉大学成田看護学部専任講師)、大学でジェンダー学や性教育などを学び、企業で女性を支援する活動を行う栗崎詩菜氏(広告代理店)、「日本障がい者ファッション協会」のCKOとしてユニバーサルデザインのファッション開発に取り組む小川修史氏(兵庫教育大学大学院学校教育研究科 准教授)が登場し、各分野での講義を受け持つ。

基礎知識としてはダイバーシティとインクルージョン、エクイティ(公平性)という言葉の持つ意味について改めて解説。最初の一歩として自分を含め誰しもが多様性を持っていること、その多様性が排除されず、誰もが力を発揮できる環境をつくることの重要性に気づいてもらう。

また、障がいを「心身の状態と社会環境との齟齬(そご)から起きる」と捉える考え方や、意識的か否かにかかわらず、日常で起こっている差別的言動を指す「マイクロアグレッション」、無意識の偏見を指す「アンコンシャス・バイアス」についても具体的な事例を挙げながら詳しく説明。受講者自身や、受講者を取り巻く周囲に存在する偏見や差別的言動について今一度振り返ると同時に、どうすればそうした偏見に基づく言動をなくすことができるのかを考えていく。

「D&I検定3級」の教材動画より

その上で、ワイン氏や松本氏らが、1人ずつ登壇し、外国にルーツがある人や、LGBTQ +の人たちが具体的にどのような困難にさらされて日常生活を送っているのか、悪意のあるなしに関わらず、周囲の人たちの言動に傷つき、持てる力を発揮することができずに苦しんできたかを、個人のストーリーも交えた説得力のある言葉で語りかける。

自分自身や周囲の偏見を実感を持って知る機会に

約2時間半の動画をすべて見終われば、D&Iに関して、これまで意識していなかった具体的な事例が明確になり、自身が知らず知らずのうちに持っていた偏見や、職場などで目にする光景が当事者にどのように受け止められていたのかを実感をもって知ることができる。その上で、個々人や会社がどのようなアクションにつなげていけばいいのかを「自分ごと」として考え、実際に行動を起こしてもらうのが検定の狙いだ。

動画を視聴後は、講座のポイントを理解できているかどうかを確かめる一部記述式のテストを受け、28点満点中22点以上を獲得した人には「D&I検定3級」の認定証が送られる。JobRainbowによると、認定証を得ることで、企業にとっては、「通常のダイバーシティ研修に比べて、個人の受講動機を高めることができる」「D&Iについてより詳しい人を人事やD&I推進担当者に任命することも可能になり、会社全体のD&I推進を加速させることができる」といったメリットがあるという。

同社は本質的なダイバーシティ&インクルージョンの理解促進と社会の変容に向け、検定のミッションを「D&Iの学びの潮流をつくる」と位置付ける。まずは3級の普及に力を入れているところで、法人単位でのテスト受検も受付中だ。

検定の開発にも携わった同社D&I検定事務局の鈴木美帆氏は、「D&I検定3級」について、「検定は受けて終わりではなく、受検を始まりの一つにしてもらいたい。ぜひ受検後に、自社の今の課題や自社でできることを受検者どうしで話し合うなど、次のアクションにつなげてもらえたら。D&I検定を通じて、D&I推進のアクションを起こす『D&Iプレイヤー』を社会に増やしていきたい」と話している。

© 株式会社博展