米政府、気候危機に取り組む次世代を養成

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バイデン米大統領は就任以降、気候危機やクリーンエネルギー、環境保全、環境正義に関して米国史上で最も意欲的な目標を掲げて取り組みを進めてきた。そのなかには、気候危機対策において最大規模の投資となるインフレ削減法の成立や、主要な連邦投資から得られる利益の40%を不利な条件に置かれている地域・集団に投じる「ジャスティス40」の推進が含まれる。そして今、同政権は次の段階に目を向けている。クリーンエネルギーや環境保全、気候レジリエンスな(気候危機の緩和に努めると同時に、被害に対して回復力のある)分野で活躍し、気候危機対策を推進する次世代の若者たちを養成しようとしている。(翻訳・編集=小松はるか)

バイデン大統領は、米国内への投資を推進する成長戦略「インベスティング・イン・アメリカ(Investing in America、アメリカへの投資)」の取り組みの一環として、「アメリカン・クライメート・コー(American Climate Corps、米国気候部隊)」を立ち上げた。

アメリカン・クライメート・コーは、より多くの若者たちが、クリーンエネルギーや気候レジリエンスな経済のなかで働くことを目的とし、高収入を得るために必要となるスキル取得を支援する人材養成と社会奉仕のための取り組みだ。アメリカン・クライメート・コーでは、多様な世代から2万人以上の若者を集める方針を打ち出している。若者に米国の陸・水域の保全や回復、地域社会のレジリエンスの強化、クリーンエネルギーの配備、エネルギー効率の高い技術の実践、環境正義の推進に取り組んでもらう狙いがある。有給の養成プログラムを修了した後には、公共・民間の両部門において、クリーンエネルギーや気候レジリエンスに関わる高品質で高賃金な仕事に就けるよう道筋をつけようとしている。

民間・公共セクターの重大な行動ギャップを埋める

地球を住みやすくするためには、企業戦略の迅速な転換や自然資本の保全の優先、再生可能エネルギー・技術の利用が必要なことは明確だ。だが、世界の民間・公共両セクターは窮地に陥っている。変革のために支援すると大々的に宣言しながらも、実行に移せていないからだ。

インフラの領域では、エネルギー供給網に必要な変化を起こし、求められている技術を構築・維持できる人材を確保するための投資が非常に少ない。一方、ビジネスの領域でも、一部の世界的大企業でサステナビリティに積極的に取り組む経営者らが、ネットゼロ達成のための最大の障壁の一つとして、気候危機対策に必要な人材が業務レベルでも取締役会レベルでも不足していると報告している。アメリカン・クライメート・コーの立ち上げは、この2つの領域が適切な方向に進むための重要な一歩となる。

アメリカン・クライメート・コーが注力するのは公正と環境正義の実現だ。歴史的に機会が平等に与えられてこなかった有色人種や「ジャスティス40」の目標達成を支援する事業を優先する。さらに、バイデン大統領は、気候危機の目標達成に必要な労働力を確保することを目的に、部族政府や州政府、地方自治体、労働組合、非営利組織、民間セクター、慈善活動団体に対して、技術習得に必要な訓練を行うための連携を拡大するべく、連邦政府と協力するよう求めている。

実際に、全国規模の取り組みの立ち上げにあわせて、すでに州独自のクライメート・コーを発足していたカリフォルニア州やコロラド州、ミシガン州、メイン州、ワシントン州に加え、アリゾナ州やノースカロライナ州、ミネソタ州、メリーランド州、ユタ州の5つの州が新たにクライメート・コーを立ち上げた。これにより、2021年以降で独自にクライメート・コーを立ち上げた州の数は10州となった。

アメリカン・クライメート・コーが目指すこと

1. クリーンエネルギー、環境保全、気候レジリエンスに関するスキルを身につけるために若い世代を養成する。ここでいうスキルとは、例えば、「沿岸湿地を保全して高潮・洪水などから地域を守ること」「クリーンエネルギーを配備すること」「森林の健全性を改善して壊滅的な山火事を防ぐために森林を管理すること」「家庭の電気料金を削減するためにエネルギー効率の高い解決策を実行する」などのために必要となるものだ。すべての研修プログラムは有給で受けることができる。また、どのプログラムも基準が一定に保たれ、官民の両セクターで質の高い雇用を得るための道筋をつける。ほとんどの募集で職務経験は必要ない。アメリカン・クライメート・コーを通じて、連邦政府関係の省や機関は、すべての若者がこうした機会に参加するチャンスをつくれるようにしていく。

2. 募集は連邦政府の制度を通じて行う。連邦政府は数カ月以内に、専用の求人サイトを立ち上げる予定だ。参加希望者はサイトを通じて、自らの地域でどのような募集があるのかについて情報を得て、応募することが可能だ。一方、各組織はアメリカン・クライメート・コーの若者たちとどう連携できるかを知ることができる。さらに、各機関が連携してアメリカン・クライメート・コーを確実に実行に移すために、労働省や内務省、農務省、海洋大気庁、エネルギー省、アメリコー(国内の社会的課題に取り組む連邦政府によるボランティア団体)は、新たな取り組みを正式なものにするべく合意文書に署名するだろう。アメリコーは、アメリカン・クライメート・コーを支援する「アメリカン・クライメート・コー・ハブ」を新たに立ち上げる計画だ。

3. アメリコーの修了者に与えている奨学金の給付を拡大する。バイデン政権はアメリコーのCEOを務めるマイケルD・スミス氏に対して、奨学金の枠を、同じく国に奉仕するアメリカン・クライメート・コーの参加者にも拡大するよう働きかけている。同奨学金(Segal AmeriCorps Education Award)は、中等後教育・研修の支払いや学生ローンを支援するためにアメリコーの修了者に授与されるものだ。

4. 官公庁に就職するまでの道筋を合理化する。人事管理部は、アメリカン・クライメート・コーを含む連邦政府が支援する国や州、地方、部族の事業制度のために、連邦政府業務に就くまでの過程から無駄を省き、合理化する規則制定案を発表した。

バイデン政権が5億ドルを投資して取り組む

アメリカン・クライメート・コーの設立は、バイデン大統領・ハリス副大統領の政権が投資する約5億ドル(約745億9000万円)を活用して行われる。この投資は、クリーンエネルギーや、そのほかの気候危機に特化した養成訓練・事前養成訓練プログラムに優先的に取り組むことで、高賃金で労働組合のある雇用への道筋を拡大するためのものだ。計画を持続させるために、政権は以下に取り組む。

労働省を通じて、養成訓練・事前養成訓練プログラムに投資

今年初めに、労働省のユース・ビルド・プログラム(高等教育を修了せずに退学した16~24歳の若者に、職業訓練や教育サービスを提供するプログラム)は、気候変動に特化した取り組みにおいて若者を教育・訓練する事前養成訓練の支援などを行うために、9000万ドル(約134億2800万円)を対象者に授与した。

また、労働省は非営利団体トレイズフューチャーズ(TradesFutures)と2000万ドル(約29億8500万円)規模の協力協定を締結。同団体は、建設業界において公正な機会を促進するために養成訓練準備プログラムの開発や促進、向上に取り組んでいる。トレイズフューチャーズは、準備プログラムに1万3000人以上が参加することを目指しており、参加者に実践的な学習の経験、技能開発の機会を提供する考えだ。そして、そのうちの少なくとも7000人が建築業界の養成訓練に参加すると見込んでいる。

エネルギー省を通して養成訓練プログラムに投資

学生たちは、エネルギー効率の高い建設技術を導入するための業界関連資格を得ることを目指して授業を受けたり、職業技能訓練プログラムを受けている。エネルギー省の職業技能訓練プログラムは、連邦政府が負担する1000万ドル(14億9200万円)を助成すると発表している。

さらに、同省は今月、「21世紀のエネルギー人材に関する諮問委員会(21st Century Energy Workforce Advisory Board)」の設立総会を開催した。同諮問委員会は、エネルギー省が技能のあるエネルギー人材を支援・育成するための戦略を立てる上で、エネルギー省の長官にアドバイスを行う役割を担っている。戦略には、社会から軽視されてきた集団や社会・経済的に不利な状況におかれている個人を対象とした、効果的な教育や職業訓練などが含まれている。

森林火災の危機管理戦略を進めるためにナショナル・サービス(社会奉仕活動)を拡大

アメリコーと米国森林局は、合宿形式のフルタイムのボランティア活動「アメリコーNCCC」の森林部隊を立ち上げた。アメリカン・クライメート・コーの下で5年間に1500万ドル(約22億3800万円)を拠出することに合意し、初めての主要省庁間パートナーシップが成立した。プログラムは2024年の夏に開始する。18~26歳の80人の若者が米国森林局の山火事の危機管理戦略や森林再生戦略を後押しするために、原野火災の防止や森林再生、自然・文化資源管理事業に従事する計画だ。

さらに、バイデン大統領がアメリコーの生活費手当を増やすよう求めたことにより、森林部隊の参加者は、宿泊や交通費、衣服、生活費、医療サービスを含め時給15ドル相当(約2200円)の報酬を受け取る見込みだ。参加者は、米国森林局やそのほかの組織において、自然資源管理や森林の健全性、気候レジリエンスなどの分野で将来のキャリアに必要となる幅広い訓練や実務経験、リーダーシップスキルを身につけられるだろう。

先住民の若者たちが参加する奉仕部隊を拡大

米国内務省は、先住民の若者たちが参加する社会奉仕部隊(Indian Youth Service Corps)と、自然保護や気候変動対策に取り組む次世代の支援プログラムを拡大するために、インベスティング・イン・アメリカの一環として1500万ドル(約22億3800万円)を拠出すると発表した。この取り組みは、2022年のホワイトハウス先住民族サミットの期間中に設立した戦略パートナーシップ部門との共同で促進される。内務省はインフレ削減法から資金を拠出し、行政サービスが行き届いていないコミュニティを支援する部隊の規模とプロジェクトを3割拡大し、5000人以上の若者が参加できるようにする。拡大計画は、ハワイの先住民コミュニティや米国全土の都市コミュニティを支援するプログラムと同じように、連邦政府が公認する部族と部族組織と共に進められる。

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