「見出しモデル」の限界〜ノアドットの現在と今後③

前回の記事では、ノアドットが目指す「情報流通の分散化」が起こらなかった原因としての「キュレーションが発見されない」という問題について、日本固有のメディア環境にも触れながら詳述しました。

続いては、当社サービスの「キュレーション」にまつわる、そのほかの課題について触れていきます。

「見出ししか使えない」ことによる課題

課題❶見出しのみでは検索流入を増やせない

「キュレーションが発見されない」という問題を解決する方法は、「記事の多くが検索エンジン経由で発見される」という日本で特に強い特徴からすぐに思い付きます。キュレーターが、見出しと本文冒頭50文字などを掲載した「中間ページを設け、そこへの検索流入を促すというものです。実際、このような取り組みをしてきたキュレーターもいます。しかし、キュレーターに掲載が許されている本文冒頭50文字程度ではSEOの効果が低く、検索エンジンでのキュレーションの発見は効果的な規模では起こりません。

課題❷コンテンツホルダーのオリジナルサイトへの流入を阻害する

また、前項の課題❶の解法「キュレーションへの検索流入をはかる」をコンテンツホルダー側から見ると、別の課題となります。たとえ利用約款を通じて許諾している本文冒頭50文字の利用であっても、それによってキュレーターがSEOをはかってしまうことは、オリジナルサイトへの検索流入が減少するリスクとなるのです。この観点からは、検索エンジンを利用したキュレーションの発見が一定の規模で起こること自体がむしろ問題となります。

課題❸ユーザー体験が損なわれる

また、キュレーターにとっては「見出し(本文も最大で冒頭50文字まで)しか使えない」というノアドットの基本ルールが、キュレーションでの読者獲得の足枷になっている可能性があります。

キュレーターのサイトを訪問した読者は、最大でも本文の冒頭50文字までしか読めません。読者が全文を読むには続きを読むをタップし、nordot.app ドメインに画面遷移する必要があるため、ブラウザで読み込み時間がかかったり、見出しページと記事ページでユーザーインタフェースがまったく異なるために一貫性のあるユーザー体験にならなかったりするという問題があります。このような体験は、記事全文を同じインタフェースで即座に表示できるYahoo!ニュース等のアプリと比較して著しく劣る印象を読者に与えてしまいます。

収益の課題

課題❹キュレーターによる収益獲得が正当性を損ないつつある

見出しを掲載しているキュレーターのサイトのトップページやカテゴリページ、中間ページで発生する収益がコンテンツホルダーおよびノアドットに還元されないという課題があります。これは、キュレーターのサイトに読者が訪れたものの、見出しのみで満足して nordot.app ドメインに遷移しない場合に起こります。

もちろん、当社はこうしたリスクを初めから認識のうえで、あえてこのように設計しています。それだけキュレーターにインセンティブ(動機づけ)を与えてでも、「コンテンツホルダーへの還元レートが十分に高い」新しい流通を育てることで、IT大手中心の現在の流通を変化させ、コンテンツホルダーが何倍も大きな対価を得られるようになる、と考えたからです。

しかし、前回記事の「キュレーションが発見されない」問題を含めて、この流通改革が機能せず、コンテンツホルダーの収益が拡大しないのであれば、この設計が正しいとは必ずしも言えなくなります。キュレーターはコンテンツホルダーの見出しを利用することで中間ページでの収益を得られますが、コンテンツホルダーやノアドットにはほとんど価値を返すことができません。

例えば、キュレーションによってメディアが利用するデータを配信するサーバーコスト等はノアドットが負担しています。こうした負担についても、nordot.app ドメインへの画面遷移と広告収益の発生が十分な規模で起こらないと採算が合わないため、結果的にノアドットが機能拡充などを積極的に進めることが難しくなっています。

システムの課題

課題❺更新・削除連携が不十分である

コンテンツホルダーが記事の更新・削除を行った際に、キュレーター側で正確にその変更が反映されず、見出し・本文・画像などが古いまま表示されることがあります。

このような問題が起こらないよう、ノアドットでは正確迅速な連携を行うことを利用約款でキュレーターに義務づけ、そのための自動連携システムを用意しています。しかし実際には、連携の実装が難しいキュレーターもおり、コンテンツホルダーが都度CMS(管理画面)から操作して更新・削除アラートを送ることでキュレーターに連携依頼をするか、ノアドットを通して更新や削除を依頼しなければなりません。結果的に三者それぞれに余計なコミュニケーションコストが発生しています。

課題❻キュレーションや違反の捕捉が不十分である

現在のサービスでは、見出しを掲載しているキュレーターの個々のページのURLすべてを捕捉することが技術的に不可能です。そのため、コンテンツホルダーから見たときに、「自分たちの記事の見出しがどのページに掲載されているか把握しきれない」という問題が発生しています。ノアドットにとっても、キュレーターによる利用約款違反をシステムで完全に把握することが難しいという課題があります。

もちろん、記事見出し(URL)は一般にインターネット上に自由に共有され、遍在しているもので、完全な捕捉は元より不可能です。そのため、この問題もノアドットが新たに引き起こしたものではありません。とはいえ「売上はすべてを癒す」ではありませんが、収益拡大が起こってこそ、こうした問題はコンテンツホルダーの皆様から見ても相対的に小さく見えるようになるものです。流通改革や収益拡大が起こらないのであれば問題が大きく感じられるもので、現在はそのような「問題が目立つ」状況にあると考えています。

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