働きがいとは何か(荒川陽子)

荒川 陽子(あらかわ・ようこ) Great Place To Work® Institute Japan 代表▶2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を一社でも増やすための活動をしている。著書に「働きたくなる職場のつくり方」(かんき出版)。

今、多くの企業が働きがいを高めることに関心を持ち始めています。私自身これまで、働きがいを強く実感したこともあれば、その逆もありました。例えば、信頼し合える仲間と、権限と責任を与えてくれる上司がいて、時にぶつかり合いながらも目的に向けて一致団結し、組織として驚くほどの結果をたたき出したこともありました。一方で、何をしても上司から認められず、気軽に相談することもできず、転職を考えた日々もありました。そうした経験から、すべての働く人がこの会社で働いていてよかったと、「働きがい」を実感できる会社を増やしたいと考えるようになりました。

私たちGreat Place To Work®(GPTW)は、世界約150カ国で毎年1万社の働きがいを調査し、各国で優れた会社を認定し、ランキングを発表しています。この活動を通じて働きがいとは何か、どうしたらそれを高められるかを研究しています。GPTW Japanでは働きがいを「働きやすさ」×「やりがい」としており、「働きやすさ」も「やりがい」も高い、「いきいき職場」を目指すことを推奨しています(図)。しかし、現在の日本企業に最も多く見られるタイプはぬるま湯職場だと考えています。安心して快適に働けることは重要ですが、それだけでは「ぬるま湯」になってしまいます。仕事に意味や価値を感じ、仲間と働くことに喜びを感じられる「やりがい」も必要なのです。


日本において、上場企業に人的資本を開示することが義務化されたことを受けて、今年の6月以降に多くの企業が人的資本の状況を開示しました。その中で、各社が自社の働きがい(従業員エンゲージメント)を調査して数値として公表し、数年後の目標値を公開しています。働きがいは財務指標と相関があることがわかっており、優秀な人材を獲得し、活躍してもらうためにも、働きがいを高めることは重要です。

では、どうしたら働きがいを高められるのか。唯一無二の正解はありませんが、働くことに対して従業員一人ひとりが正面から向き合うことで、自社らしいやり方で働きがいを高めていくことは可能です。日本企業は働き方改革の推進で働きやすさを進展させることに成功しました。次のステップとして、やりがいを高めることで「いきいき職場」を目指す働きがい改革を始めませんか。

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