ディンキネシュは二重小惑星だった! NASA探査機ルーシーのフライバイ探査で判明

こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」に搭載されている望遠カメラ「L’LORRI」で撮影された小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」の姿です。LucyによるDinkineshのフライバイ探査が行われた日本時間2023年11月2日、小惑星から約430kmの最接近点を探査機が通過した1分後の1時55分に撮影されました。

【▲ 小惑星Dinkinesh(ディンキネシュ)とその衛星。アメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機Lucy(ルーシー)の望遠カメラ「L’LORRI」で撮影(Credit: NASA/Goddard/SwRI/Johns Hopkins APL/NOAO)】

Dinkineshの右下を見ると“こぶ”のようなものが写っていますが、これはDinkineshを周回する衛星です。Lucyによる今回のフライバイ探査によって、Dinkineshが二重小惑星だったことが初めて明らかになりました。NASAによると、今はまだフライバイ探査を終えたばかりのLucyから送信され始めた画像の予備的な分析が行われている段階ですが、Dinkineshは幅約790m、衛星は幅約220mと推定されています。

次に掲載するアニメーション画像は、フライバイ時に小惑星を追尾するためのカメラ「末端追尾カメラ(T2CAM)」を使って13秒間隔で撮影された5枚の画像から作成されたものです。2つの小惑星は近接して周回しており、衛星は1分弱の間に公転軌道の4分の1程度を移動しているように見えます。

【▲ 小惑星Dinkinesh(ディンキネシュ)を衛星が公転する様子を捉えたアニメーション画像。小惑星探査機Lucy(ルーシー)の末端追尾カメラ(T2CAM)を使用し13秒間隔で撮影された画像をもとに作成(Credit: NASA/Goddard/SwRI/ASU)】

2021年10月に探査機が打ち上げられたLucyは「木星のトロヤ群」に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションです。ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間で、その間に小惑星帯を公転しているものも含めて合計10個の小惑星を訪問する予定でしたが、今回Dinkineshの衛星が見つかったことで探査対象の小惑星は合計11個になりました。

木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、Lucyの探査機は小惑星を周回する軌道には入らず、小惑星の近くを通過しながら観測するフライバイ探査を繰り返し行います。

【▲ Lucyのミッション期間における水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するグループと後続するグループに分かれている(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))】

木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。

DinkineshはLucyの打ち上げ時点では探査対象リストに含まれていませんでしたが、打ち上げ後に小惑星帯で正確な軌道が判明している50万個の小惑星を詳しく調べたところ、近くを通過することが判明したために10個目の探査対象として追加されました。追加が発表された2023年1月の時点ではまだ仮符号の「1999 VD57」と呼ばれていましたが、運用チームが化石人骨であるルーシーのエチオピア名にちなんだ名前を提案し、国際天文学連合(IAU)に承認されたことで正式にDinkineshと命名されています。

NASAによれば、Dinkineshとはアムハラ語で「あなたは素晴らしい(you are marvelous)」を意味する言葉です。Lucyミッションの主任研究員を務めるサウスウエスト研究所(SwRI)のHal Levisonさんは、Dinkineshが二重小惑星であることを明確に示すこれらの画像を公開したNASAのプレスリリースに「Dinkineshは本当にその名前に恥じませんでした」とコメントを寄せています。

【▲ 小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」をフライバイ探査するアメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」の想像図(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)】

今回実施されたDinkineshのフライバイ探査は、今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストに位置付けられていました。L’LORRIをはじめ、Lucyに搭載されている熱放射分光器「L'TES」や、可視光カラーカメラ「MVIC」と赤外線撮像分光器「LEISA」で構成される「L'Ralph」といった装置による観測も行われましたが、特に焦点が当てられていたのはフライバイ中に小惑星の位置を自律的に特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自動追尾システムです。例えば、Dinkineshのフライバイ探査ではLucyは毎秒4.5kmという相対速度で小惑星の近くを通過するため、途切れなく観測を行うには視野の中を素早く移動していく小惑星を追尾し続けなければなりません。

Lucyのカメラは今回のフライバイ探査の2か月前となる2023年9月上旬からDinkineshを捉えてきました。Dinkineshの明るさが時間とともに変化している様子から、運用チームはフライバイの数週間前からDinkineshが二重小惑星かもしれないと予想していたといいますが、本当にそうだと確認できたのはフライバイ時に撮影された画像が届いてからでした。Lucy探査機を製造したロッキード・マーティンのエンジニアであるTom Kennedyさんは「これら一連の素晴らしい画像は、宇宙から予想よりも困難な目標を突きつけられたとしても、自動追尾システムが意図した通りに働いたことを示しています」とコメントしています。

【▲ 小惑星探査機Lucy(ルーシー)による小惑星Dinkinesh(ディンキネシュ)のフライバイ中の機体姿勢の変化を示した図。探査機の飛行方向は赤色の矢印(左下→右上)で示されています(※正確な縮尺で描かれてはいません)(Credit: NASA/Goddard/SwRI)】

NASAによると、フライバイ探査で取得されたデータをすべて受信するには最大で1週間を要する見込みです。Lucyミッションのプロジェクトサイエンティストを務めるKeith Nollさんは、Dinkineshは“近くから観測されたことがある小惑星帯の小惑星”としては最小の小惑星になることがあらかじめわかっていたものの、それが二重小惑星だったという事実はさらに興味深いと指摘。小惑星の軌道を変更する技術の実証を目的としたNASAの「DART」ミッションのターゲットとなった「Didymos(ディディモス)」と「Dimorphos(ディモルフォス)」の二重小惑星に似ている一方、とても興味深い違いも幾つかあることから、今後調査を進めていくとコメントしています。DARTミッションについては関連記事をご参照下さい。

【▲ 参考画像:NASAの探査機「DART」の光学カメラ「DRACO」で撮影された小惑星Dimorphos(ディモルフォス、中央)と小惑星Didymos(ディディモス、右下)。DART探査機がDimorphosに衝突する約2分半前、920km手前から撮影(Credit: NASA/Johns Hopkins APL)】

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なお、今後のLucy探査機は2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正し、2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星「Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)」のフライバイ探査を行います。その後は2027年の「Eurybates(エウリュバテス)」とその衛星「Queta(ケータ)」をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われる予定です。【2023年11月3日12時】

Source

  • NASA \- NASA’s Lucy Spacecraft Discovers 2nd Asteroid During Dinkinesh Flyby
  • SwRI \- Dinkinesh Encounter

文/sorae編集部

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