木星の赤道直下に新たなジェット気流を発見 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により観測

巨大なガスの塊である「木星」では、大気の流れが帯状の雲の流れを作っています。木星の大気循環を観測することは、様々な天体の大気循環を知るのに役立ちます。

バスク大学のRicardo Hueso氏などの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」で木星を観測し、赤外線領域での大気循環を観測しました。その結果、赤道付近にあるこれまで知られていなかった風速140m/sのジェット気流を新たに発見しました。この新発見は、木星の大気循環に対する私たちの理解がまだ完全ではないことを示唆する発見です。

【▲図1: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で2022年7月27日に撮影された木星。3つの波長で撮影された画像を疑似カラーで重ねたもの。両極の赤い部分はオーロラ(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Ricardo Hueso (UPV), Imke de Pater (UC Berkeley), Thierry Fouchet (Observatory of Paris), Leigh Fletcher (University of Leicester), Michael H. Wong (UC Berkeley) & Joseph DePasquale (STScI))】

■木星の大気循環は “五里霧中”

木星と地球の数少ない共通点として、上空の大気循環が挙げられます。どちらも帯状の大気の流れがあり、緯度が違うと方向が正反対になっていることも珍しくありません。太陽以外の天体では太陽系最大の大きさを持つ木星の大気循環を知ることは、様々な天体の大気循環を知るための大きな手掛かりとなります。それは木星と似たタイプの巨大ガス惑星に留まらず、地球のような小さな惑星、あるいは褐色矮星のような惑星と恒星の中間的タイプの天体の大気循環を知るためのヒントにもなります。

木星の大気循環は、これまで様々な惑星探査機や望遠鏡で観測されています。しかし可視光線領域以外での詳細な観測はあまり行われていません。特に赤外線領域の観測にはこれまで大きな困難がありました。大気循環を追うためには、大気の流れに沿って動く雲を追跡する必要があり、個々の雲の追跡は赤外線で観測するのが最も適しています。しかし木星表面から25~50km付近の大気中には (※) 、赤外線領域での観測を妨げる濃い霧がある、文字通り “五里霧中” の状態となっています。また、撮影画像の解像度も低いため、細かい大気循環を知ることはほとんどできませんでした。

※…木星のような気体が主体の惑星には、観測できる固体の表面がありません。このため惑星科学では便宜的に、大気圧が1気圧となる場所を “表面” と定義し、高度0kmとします。この記事では分かりやすくするために高度を表記しますが、実際の論文では長さの代わりに気圧で高度を表現します。

霧で隠された表面から25~50km付近は、これまでの観測によって、緯度によって大きな違いがあることが知られています。高緯度地域では上空に行くに従い、風速がどんどんゼロに近づく一方、赤道付近ではかなり強い風が吹いていることが知られています。

土星では、赤道直下の5度以内という非常に狭い範囲に風速400m/sの強いジェット気流があることが観測されています。しかし、木星でも同じようなジェット気流があるかどうかは、赤道付近がより霧が濃いために、これまで未知でした。NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)が打ち上げた土星探査機「カッシーニ」の紫外線観測データは、木星の赤道付近のジェット気流の存在を示唆していましたが、解像度の限界により存在を決定づけることはできていませんしでした。

■これまで知られていなかったジェット気流を発見

【▲図2: 約10時間 (木星の自転周期に相当) の間隔を置いて撮影された木星。いくつかの雲が追跡され、ジェット気流の速度が計算されました(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Ricardo Hueso (UPV), Imke de Pater (UC Berkeley), Thierry Fouchet (Observatory of Paris), Leigh Fletcher (University of Leicester), Michael H. Wong (UC Berkeley) & Joseph DePasquale (STScI))】

Hueso氏らの研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡で木星を観測するプログラムを実行し、木星の大気循環についての研究を行いました。ウェッブ宇宙望遠鏡の遠方の宇宙を観測する能力はよく知られていますが、木星など、近くにあり見た目の動きが早い天体を追跡する能力も有しています。また、赤外線望遠鏡としてこれまでにない感度を持っていることから、濃い霧の中でも雲を見つける能力に長けています。風速を知るには、雲を追いかけることが唯一の手段なので、これは重要です。

【▲図3: それぞれの波長で追跡された雲の動きによるジェット気流の速度。最も速いものでは風速140m/s (時速515km) を記録しています(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, Ricardo Hueso (UPV), Imke de Pater (UC Berkeley), Thierry Fouchet (Observatory of Paris), Leigh Fletcher (University of Leicester), Michael H. Wong (UC Berkeley) & Joseph DePasquale (STScI))】

ウェッブ宇宙望遠鏡による風速の観測結果は、これまでの複数の観測結果とよく一致する一方で、緯度ごとのより詳細なデータを得ることに成功しました。いくつかのデータの中で最も興味深いのは、赤道付近で未知のジェット気流を発見したことです。ジェット気流は赤道から緯度にしてプラスマイナス3度以内(約4800km)と非常に狭い範囲にあり、表面から25km付近で最大風速140m/sで循環しています。土星よりずっと遅いとはいえ、これほどの風速は地球で観測されたどの風よりも速いものです。また、今回の観測結果はカッシーニのデータとも一致します。

■木星を含めた大気循環モデルの改善に繋がる成果

ウェッブ宇宙望遠鏡による観測結果は、他の緯度でも細かな風速データの修正につなげることができました。特に未知のジェット気流の発見により、木星の大気循環モデルが大きく修正されることになり、大気科学分野の改善に役立ちます。

一方、地球を含めた多くの天体がそうであるように、木星も数年から数十年周期で大気循環が変化することが知られています。今回発見された赤道のジェット気流も、時期によって変化する可能性があります。ジェット気流がどのように変化するのかは、これからの観測によって明らかにされるでしょう。

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文/彩恵りり

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