プラスチック汚染の根絶へ 法的拘束力のある国際条約を――日本政府に政策提言する「企業連合」が発足

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法的拘束力のある国際プラスチック条約の制定を求めて、日本政府に政策を提言する「国際プラスチック条約 企業連合」が1日、参画企業10社により発足した。昨年9月以降、エレン・マッカーサー財団とWWFの呼びかけで活動するグローバルな枠組みの日本版となるものだ。WWFジャパンは「プラスチックの総量削減など自らに規制を課すような条約の制定を支持する連合を、日本企業が発足させたこと自体が画期的」と言い、11月13日からケニア・ナイロビで開かれる第3回政府間交渉委員会 (INC−3)の場に参加する日本政府へ、条約を野心的なものとするために日本がリーダーシップを発揮するよう、企業連合の声を届ける。(廣末智子)

国際条約制定へ鍵握る「INC-3」直前に立ち上げ、20社が参画

国際プラスチック条約は、2022年3月の国連環境総会で、175カ国の合意により、2025年までに締結するべく決議がなされた。決議案は、プラスチックに関する原料の採掘から廃棄までにおける全ライフサイクルを対象とし、プラスチック汚染があらゆる環境に存在することを認める野心的な内容となっている。ただし、実際の条約がどこまで法的に拘束力のあるものになるかどうかは、政府間交渉の行方次第であり、目下のところはINC−3の議論を通じてどのような条約のゼロドラフトが策定されるかが鍵を握る。

WWFによると、すでに発足しているグローバルな枠組みの「国際プラスチック条約 企業連合」には、プラスチックのバリューチェーン全体に関わる160以上の企業と金融機関、NGOなどが参加。INCが開かれるごとに代表団を派遣するとともに提言を発表し、各国政府との対話を実践しているという。

日本連合の立ち上げはINC-3の開催に間に合うよう、WWFジャパンの主導で行われた。参画するには、「プラスチックが廃棄物や汚染要因となることなく、製品や素材の価値が経済的に維持されるサーキュラーエコノミーへと転換すること」を軸とするグローバルの企業連合が掲げるビジョンステートメントへの賛同に加え、企業自身がプラスチック汚染の根絶に向けた一定のコミットメントを行なっていることが条件となる。それらを兼ね合わせた企業の中から、グローバルの参加基準に基づいた審査をクリアした10社が今回、日本連合スタート時のメンバーとなった。

発足時点での日本連合の参画企業は、Uber Eats Japan、エコリカ、キリンホールディングス、サラヤ、テラサイクルジャパン、日本コカ・コーラ、ネスレ日本、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、ロッテの10社。

「企業連合」の発足に際し、オンライン会見に臨んだWWFと参画企業の関係者ら (c)WWFジャパン

活動の第一弾としては、連合が発足した1日付で、INC-3に向けた日本政府への提言として、「サーキュラーエコノミーのアプローチによるプラスチックの生産と使用の削減」「根絶ができないすべてのプラスチックを循環」「プラスチック流出の予防と回復」の3つを柱とする声明を発表。

また同日開催したオンライン記者会見には、参画企業の面々も登壇して意気込みを語った。この中で、日本の企業連合の代表を務める、テラサイクルジャパン合同会社代表のエリック・カワバタ氏は、「容器の水平リサイクルを実現するためには、どうしても元の設計からリサイクル前提でデザインする必要があり、コストがとても高くなることが課題だ。これを解決するにはいろいろな業界の専門性が必要であり、一つの会社や一つの国ではできない。プラスチック汚染の根絶に向け、リサイクルに経済合理性を生み出していくためにも国際協力と法的拘束力のある国際ルールが求められている」とする認識を示した。

日本政府は今年5月に、「持続可能な水準のプラスチックの生産・消費、資源循環の促進、プラスチックごみの適正管理などを追求する国家グループ」である高野心連合(HAC:High Ambition Coalition to end plastic pollution)に加盟。一方で、INC-3に向けたサブミッション(意見提出)では「各国の具体的な行動を促すために、新たな条約では、国別行動計画が核となる」と主張している。しかし、WWFジャパンやグリーンピースなどの国際環境NGOによると、新条約において国別行動計画が優先されることになれば、「2040年にプラスチック汚染を根絶するというビジョンだけが共有され、あとは各国任せ」ということにもなりかねず、拘束力のある国際ルールの策定に対して、「現状、日本政府は前向きでないことが懸念される」という。

日本の企業連合が発足し、プラスチック汚染の根絶に向けた政策を提言していくことの意義について、WWFジャパン事務局長の東梅貞義氏は、「気候変動枠組条約を見ても、企業の声は影響力を増し、それが問題解決に貢献するというように世界は大きく塗り変わっている。プラスチック汚染問題についても、国際条約が合意される前に、この大きなグローバルリスクに対して日本企業はどう備えていくべきなのか、そして日本ではどういう政策が必要なのかを議論することが重要だ」と話している。

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