広瀬香美「ロマンスの神様」挫折を乗り越えた “冬の女王” は今やSNSで熱狂を生む!  冬うたの名曲「ロマンスの神様」、ヒットの秘密とは?

90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝vol.11
■ 広瀬香美「ロマンスの神様」
作詞:広瀬香美
作曲:広瀬香美
編曲:広瀬香美・小西貴雄
発売:1993年12月1日
売上枚数:174.9万枚

1990年〜1999年の10年間にデビューし、ヒットを生み出したアーティストの楽曲を当時の時代背景や、ムーブメントとなった事象を深堀しながら紹介していく連載の第11弾。今回は、広瀬香美「ロマンスの神様」を紹介します。

はじめはクラシックを学び、作曲家を目指していた広瀬香美

作曲家を目指し、国立音楽大学音楽学部作曲学科でクラシックを学んでいた広瀬香美は、大学で大きな挫折を味わいます。16人しかいなかった作曲学科の成績は最下位の16番目。講師から「これからどうするのか、よく考えたほうがいい」と言われ途方に暮れていた時、ロサンゼルスに留学していた友達から「こっちの音楽は楽しいよ。遊びに来たら?」と言われ、現地へ。

その時に触れたポップスの楽しさに感動し、「ポップスの作曲家になろう!」と決意します。友達のツテでマイケル・ジャクソンのボイストレーナー、セス・リッグスを紹介してもらったことから状況が変わっていきます。

「作曲家になりたいなら、ボーカリストとしてのトレーニングも受けておくべきだ」と言われ、歌ってみたら「明るくて元気な声だね」と、挫折ばかりだった音楽で、あまり味わったことが無かった褒められる喜びを知った広瀬香美は、ポップスの知識をスポンジのように吸収していき、その気持ちをキープしたまま日本のレコード会社にデモテープを送り、1992年、アルバム『Bingo!』でデビューを果たすことになるのです。

元々は、ヴァイオリンの曲だった「ロマンスの神様」

メジャーデビューした翌年の1993年、スポーツ用品販売店「アルペン」から、冬のキャンペーンソング制作の話が舞い込みます。オファーを受けた広瀬香美は、昔、作ったヴァイオリンのためのメロディを引っ張り出し、作曲を始めます。歌うために作った曲ではないため、低音から高音まで音域が広く、激しい跳躍が2回ある曲でしたが、それがキレイな転調として聴こえ、これは良い! と採用。

そして歌詞は、耳に引っ掛かりのある言葉を意識し、リアリティのある個性的なフレーズが登場するラブソングを完成させ、1993年12月1日に、3枚目のシングルとしてこの曲をリリースします。結果は、CMで流れてくるキャッチーなメロディに乗ったサビアタマの「♪Boy Meets Girl」のフレーズが聴く人の心を掴み、174万枚のヒットを記録。広瀬香美はその後も、アルペンのCMソングでヒットを連発し『冬の女王』の地位を確立していきます。

「Choo Choo TRAIN」のイントロも手掛けた、アレンジャー小西貴雄の存在感

「ロマンスの神様」の編曲クレジットには、広瀬香美と並び、小西貴雄の名前が記載されています。1989年から作曲家として活動を開始し、旧友である中西圭三とのコンビで楽曲制作を手掛けていた小西貴雄は、1991年に、『JR Ski Ski』のCMソングとして制作されたZOOの「Choo Choo TRAIN」のデモアレンジを担当します。この曲のイントロでアメリカのボーカルグループ、D-TRAINの「Keep On」からサンプリングした、ラップのような英語詞のフレーズを起用するアイデアを、作曲した中西圭三に提案したのは小西貴雄です。

「ロマンスの神様」が、ワクワク感を演出するギターイントロからはじまり、跳ねるように転調するサビがキャッチーに響くのは、ダンサブルな演出をイントロに取り入れ、ミリオンヒットを記録した冬ソング「Choo Choo TRAIN」を生み出した小西貴雄のアレンジだったと考えると、合点がいきます。

小西貴雄は「ロマンスの神様」をヒットさせた後、1998年にも中西圭三とのコンビで、ブラック ビスケッツの「タイミング」も手掛けミリオンヒットを記録。私も含め、90年代に青春を過ごした世代が、「ロマンスの神様」から、あの頃の楽しかったノリやグルーヴを強く感じるのは、時代の空気感をしっかりと捉えたサウンドアレンジを作り上げた小西貴雄の存在が非常に大きかったのではないでしょうか。

冬の女王からSNSの女王、そしてTikTokリバイバル

広瀬香美は「ロマンスの神様」のヒット以降も、スポーツ用品販売店「アルペン」が展開する冬のキャンペーンソングでヒット曲を連発し “冬の女王” というニックネームで呼ばれるようになります。

2000年代に入ってからは、まだ利用者が多くなかったタイミングでTwitter(現:X)のアカウントを取得し、日本人メジャーアーティストとして初のTwitterコンサートを開催。また、コロナ禍でライブがことごとくキャンセルになり、時間はあるけど新曲を書く気持ちになれない状況で「じゃあ好きな曲を歌おう」と独自のアレンジで披露し始めたYouTubeの「歌ってみた」が大バズりし、“SNSの女王” という新しいニックネームが付き再ブレイク。そんな新たなファン層を獲得していた最中の2022年に、「ロマンスの神様」が『TikTok2022 上半期トレンド大賞』を受賞します。この状況に関して、広瀬香美本人はインタビューでこう話しています。

「SNSは好きだけど、TikTokは若い世代の方のものかなと思っていました。ところが「ロマンスの神様」の振り付け動画がバズっている」と。ホントに?とのぞいてみたら、「そんなの噓だと♪」で踊っている動画が、めくってもめくっても出てくる(笑)ありがとうの気持ちを込め、私も踊って投稿したら「ご本人登場!」と盛り上がってくれて。

私の知らない世界で、どんな人たちがどんなふうに遊んでくれているのかを知り、キャッチアップして自分の作品に生かせたらおもしろい。発信場所や方法がますます多様になっていくこれからの時代、燃えるような思いや揺るぎない確信を持っている人こそ応援してもらえるんじゃないかと思っています」cite: 朝日新聞DIGITAL 「広瀬香美さんがデビュー後10年ライブをしなかった理由 「冬の女王」を「SNSの女王」へ変えた意識(後編)より

ダンサブルなロックサウンドで90年代の華やかな冬を彩った広瀬香美のロマンスは、SNSを通じてもっと広い世界へ、願いをかなえにいくのでしょう。

カタリベ: 藤田太郎

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