疾走するデュラン・デュラン「ダンス・マカブル」60代にしてまだまだ上り調子!  デュラン・デュラン待望の試作を徹底検証!

デュラン・デュラン、デビュー42年目。2年ぶりの新作リリース

デュラン・デュランの2年ぶりのニューアルバム『ダンス・マカブル』がリリースされた。 デビューから42年目となる超ベテランバンドが短いインターバルで新作をリリースすることは、かなり珍しいこと。バンドのコンディションも良く、高いテンションも保てている証拠なのだろう。

前作『フューチャー・パスト』ではガッツリと2020年代のポップミュージックの流れを意識した、ど真ん中を射抜くような作品だったが、本作では肩の力が抜けて「何が何でも現行ポップミュージックとして勝負してやる!」といった力みがなくなっているように感じる。しかし、だからといって、本作が凡庸なアルバムではなく、きっちりとデュラン・デュランらしい一級の作品に仕上がっている。

短いインターバルでのリリースや制作に関するスタンスの変化。デビュー42年目のベテラン・バンドにどのような変化があったのかを探ってみよう。

注目すべきカバー曲は、ビリー・アイリッシュの「Bury A Friend」

デュラン・デュランは、2022年10月31日にラスベガスでハロウィン特別公演を行っている。このライブでは、本作に収録されているカバー曲を演奏し、観客も次は何が演奏されるのかワクワクするようなライブだったそうだ。

本作は、そんな気のおけない仲間とのパーティーのような雰囲気をスタジオ録音作品にパッケージしようと制作されたハロウィン・アルバムだ。新曲3曲のほか、ハロウィンのライブで披露されたカバー曲、バンドの過去の名曲の再録ヴァージョンなど全13曲を収録している。

バンドはカバー曲の演奏を楽しんでいるようで、本作で取り上げた楽曲もビリー・アイリッシュからローリング・ストーンズまでとバラエティ豊かだ。

その中でも注目すべきカバー曲は、ビリー・アイリッシュの「ベリー・ア・フレンド」だろう。原曲はビリーのウィスパーボイスと極限まで音を削ぎ落としたミニマルなアレンジが特徴だが、デュラン・デュラン・バージョンでは、音圧も音数もビルドアップされており、更にはサイモン・ル・ボンのやや甲高い声で高らかに歌い上げている。静かに始まる演奏も次第にビートが強調され、終盤では思いっきりエモーショナルに転調するド派手な展開だ。

オリジナルの新曲ではナイル・ロジャースと共演

そして、オリジナルナンバーの充実も忘れてはいけない。アルバムから先行配信された「ブラック・ムーンライト」では彼らの代表曲の1つである「ノトーリアス」をプロデュースしたナイル・ロジャースと元メンバーのアンディ・テイラーが参加している。

これぞナイル・ロジャース!というギターのカッティングは、思わずステップを踏みたくなるほどに軽快で、シックの名曲「おしゃれフリーク」はもちろんのこと、ダフト・パンクの「ゲット・ラッキー」を思い出させる切れ味抜群のギターを披露。その切れ味はこれっぽっちも錆びついていない。

そこにジョン・テイラーのうねるベースが絡みつき、80年代のデュラン・デュランの必勝パターンを展開する。まさにRe:minder読者のど真ん中、大好物のご機嫌なナンバーだ。

さらに本作には、前述のアンディ・テイラー、ナイル・ロジャース以外にも注目のゲストミュージシャンが参加している。まずは、アンディ・テイラーが脱退した後のギターを担当した元メンバーのウォーレン・ククルロと今をときめくマネスキンの紅一点ベーシスト=ヴィクトリア・デ・アンジェリスだ。

ヴィクトリアは、デュラン・デュランのメンバーとは親子以上の歳の差共演ということになるが、音楽的方向性こそ違えど、マネスキン、特にヴィクトリアのグラマラスなキャラクターとデュラン・デュランの共演はビジュアル的にも面白いし、なかなかハマっているのではないだろうか。また、ベーシストとしての音の傾向はジョン・テイラーもヴィクトリアもうねるベースラインが特徴であり共通点と言えるだろう。ヴィクトリアが参加した曲は、トーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」のカバーであり、本作の目玉トラックのひとつと言えるだろう。

新人バンド顔負けの創作スピード

このように本作は、カバーや豪華なゲストミュージシャンとの共演など派手な話題に目を奪われがちだが、ここで本作が作られた経緯について整理して考えてみたい。

まずは本作のコンセプトは2022年10月31日に行われたハロウィンパーティーのライブが起点になっている。この夜のライブの雰囲気をコンセプトにスタジオ録音アルバムを作るという企画が持ち上がってから、本作がリリースされるまでは正味1年なのだ。

実際にレコーディングに費やされた時間はさらに短いことが予想されるわけで、ベテラン・バンドの新作としては異例のスピードで仕上げられた作品である。

用意周到に計画された作品ではなく、ある意味、ノリと勢いで作られた作品であり、そうした創作に向かったデュラン・デュランはまるで新人バンドのようである。

走れ60代! デュラン・デュランのこれからは絶対に楽しい!

前作『フューチャー・パスト』は、未来における過去の音、すなわち今の音を仕上げるために念入りに作り込まれた作品であった。そこから全く違うアプローチで本作『ダンス・マカブル』は制作されている。この短期間で全く違う手法でアルバムを2枚作り、そして、そのどちらも傑作に仕上げたデュラン・デュランは紛れもなく絶好調だと断言したい。

新人バンドのように突っ走るデュラン・デュラン!ロックバンドとしては、まだまだ上り調子と言えるだろう。よくよく考えれば、2023年の今、60代のロックバンドは全然ジジイじゃないんだよな!

現役バリバリのデュラン・デュランの疾走に我々も息切れせずに負けじとついていかなければならないのだ。

カタリベ: 岡田 ヒロシ

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