【連載コラム】第38回:注目される大谷翔平の行方 「ブレーブス希望説」はどこから出てきたのか……?

写真:連日、大谷の去就がメディアを賑わせている ©Getty Images

メジャー6年目のシーズンを終え、エンゼルスからFAとなった大谷翔平に関して、日米の様々なメディアが連日、最新情報を伝えています。「史上最高の総額5億ドル超えは確実」、「超高額な短期契約に応じる可能性がある」、「ドジャースが大本命」など、様々な情報が流れていますが、これらの報道には何の根拠もありません。

なぜなら、大谷自身(と代理人のネズ・バレロ氏)はFAに対する自分の考えや希望条件について、一度も具体的に言及していないからです。各メディアの記事中には、せいぜい「大谷の考えをよく知る関係者」という謎の人物が登場するくらいです。こうした状況を踏まえ、米スポーツ専門チャンネル「ESPN」の看板記者であるジェフ・パッサン氏は「すべて推測に過ぎない」と述べています。

たとえば、日本ではつい昨日、「大谷がブレーブスでプレーすることを希望している」という話題で盛り上がりました。この「ブレーブス希望説」はいったいどこから出てきたのか。MLB公式サイトでは「MLBネットワーク」のジョン・ポール・モロシ記者の「ショウヘイはアトランタ・ブレーブスでブレーすることにとても興味を示すだろう、という話を先週あたりに誰かから聞いた」という発言を紹介しています。

「ブレーブス希望説」の根拠になっているのは、この正体不明の人物(モロシ記者の知人?)の推測からきたコメントだけなのです。これを「大谷がブレーブス移籍を希望」とか「ブレーブス大谷誕生か」と騒ぐのは流石に無理があります。そもそもモロシ記者のこの発言も「大谷は西海岸のチームにこだわらないかもしれない」という話題のなかで出てきただけのもの。実際、モロシ記者はその直後に「ブレーブスが大谷と契約するとは思わない。彼らは2024年の投手陣をアップグレードすることが最優先だからだ」と付け加えています。

別の例を挙げると、パッサン記者の同僚であるアルデン・ゴンザレス記者は大谷が超高額な短期契約に応じる可能性について言及しました。ゴンザレス記者は「大谷の考えをよく知る人は、大谷が年平均の金額が極めて高い短期契約を受け入れるかもしれないと考えている」と伝えています。

ここでも「大谷の考えをよく知る人」という謎の人物が登場します。しかも、その正体不明の人物が「考えている」だけであって、大谷自身がそのような発言をしたのかどうかすらわかりません。これを「大谷が短期契約を希望」と断定するのは無理があるでしょう。

もちろん、私もMLBの情報を世間に向けて発信するメディアの一員である以上、こうした情報も扱います。しかし、こうした情報を扱う際には、それがどこから出てきた情報なのかというソースをしっかりと示し、ソースが出している情報の通りに伝える必要があると考えています。

例にも挙げましたが、「大谷がブレーブス移籍を希望」とか「大谷が短期契約を希望」と書いてしまうのは拡大解釈です。アクセスを稼ぎたいメディアが都合よく解釈して発信し、その間違った情報が一般の人々のあいだに広まってしまう。これは絶対に避けなければならないと思っています。

逆に、情報の受け手側も賢くなるべきかもしれません。ソースが示されている日本語記事であれば、原文記事を探すことは容易です。英語が読めなくても、今の時代は翻訳機能を駆使すれば、ある程度の内容は把握できるでしょう。

大谷の話題に限った話ではありませんが、不確かな情報や脚色された情報に踊らされず、正しい情報をもとにMLBライフを楽しんでほしいなと思います。

文=MLB.jp 編集長 村田洋輔

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