サステナブル素材への挑戦は一進一退 レゴの事例から次のステップを考える

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デンマークの玩具メーカー「レゴ」が再生ペットボトルを使用したブロックの製造を断念したことは記憶に新しい。同社はより持続可能な代替品を探すなかで直面した課題を認め、持続可能な解決策への道のりが回り道となったことを示した。では、世界最大手の玩具メーカーとして、レゴは今後どのような循環型で持続可能な解決策を講じることができるのだろうか。専門家に話を聞いた。(翻訳・編集=小松はるか)

毎年、世界のレゴ工場では600億個のプラスチックブロックが製造されている。驚くべき数だ。この製造量の大半が固い石油由来のABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂であることを考えると、世界最大のおもちゃ工場が過去10年間、より持続可能な代替品を作ろうと懸命に取り組んできたことはさほど不思議ではない。

同社は2015年、取り組みを加速させるために、10億デンマーククローネ(約210億円)を投じてサステナブル・マテリアル・センターをデンマーク本社に設立することを発表した。そして、2021年、同社は飛躍的な進歩を遂げた。ペットボトルを再利用してブロックの試作品をつくったのだ。開発過程では、250種類以上のPET(ポリエチレンテレフタレート)素材と数百のプラスチック配合物が品質や安全性、遊ぶための厳しい要件を満たしているか試験を行った。

一筋縄ではいかない代替素材の開発

2023年に話を戻そう。この事業は予期せぬ後退に直面した。レゴは9月末、再生ペット(PET)を使ったブロックの生産を行わないことを正式に発表した。「試作品を発表したときは、可能性について楽観的だった。しかし、2年間の試験を終え、CO2排出量の削減に寄与しないことがわかった。これ以上の開発は行わないことを決めた」と明かした。

化石燃料由来のバージン原料を、リサイクル素材や生物由来の素材に変えることは容易なことではない。レゴが試作品を開発した過程では、十分な強度を確保するために再生ペットに強化添加剤を混ぜ合わせた。英フィナンシャル・タイムズのインタビューに対して、サステナビリティ部門の責任者であるティム・ブルックス氏は、「再生ペットはABS樹脂よりも柔らかいため、既存のプラスチックと同じ安全性と耐久性を持たせるには他の原料が必要となり、それを製造して乾燥させるためには大量のエネルギーがいる」と説明している。

同氏は「バイクを鉄ではなく木でつくろうとしているようなものだ。再生ペットの生産を拡大するには、製造環境を破壊するレベルになり、当社の工場のすべてを変える必要があった。そうなると、カーボンフットプリントはさらに増えるだろう。残念に思う」と話した。

しかし、CO2の排出量を理由に再生ペットを除外してしまうことについて、一部のサステナビリティの専門家は驚きを隠せない。戦略的廃棄物プランニングの分野で働く、英国の公認環境問題専門家(Chartered Environmentalist)マイク・トレジェント氏は、ほかに要因があったのではないかと疑問を抱いている。同氏は、米国 PETボトル資源協会(NAPCOR)が発行しているライフサイクル・アセスメントのインフォグラフィックを紹介し、再生ペットがバージンプラスチックよりもエネルギーやCO2排出量が大幅に少ないことを示した。

使用済みのペットボトルを再利用したレゴブロック Image credit:LEGO

トレジェント氏は米サステナブル・ブランドの取材に対して、「この決定はどちらかというと品質やロジスティクス、供給の安全保証に関係しているのではないだろうか。サプライチェーンについては、再生資源がさほど成熟しておらず、価格・量・質という点において変わりやすいことを認識する必要がある」と説明した。

サーキュラーエコノミーの戦略家でライトハウス・サステナビリティ(Lighthouse Sustainability)創設者のエマ・バーロウ氏は、いわゆる“ブレイクスルー”には商業的に実行可能であることが必要だと主張する。「そして、これは明らかにそうではない」と話す。

「再生ペットの需要は高く、食品に接する製品については価格を抑えるために大量生産する必要があるというのはよく耳にすることだ。再生ペットをレゴに使うというのは、おそらく無駄が多い。少なくとも、他の市場が再生ペットに容易にアクセスすることを妨げることになる」

原料選択において、英国の戦略会社エイプ(Ape)の創設者であるマーク・シェイラー氏は、レゴがなぜリサイクルABSよりも、リサイクルPETに投資する選択をしているのかが分からないという。

「ABSは摩耗や損傷に耐え、高い圧縮強度のある強力で頼りになるプラスチックで、射出成形(プラスチック樹脂を加熱融解して金型に射出する成形)に簡単に使える。再生ABSも供給されており、理想的なのはそれを使ってレゴブロックを製造するクローズド・ループ・システムを作ることだ。再生ペットは柔らかいポリマーであり、誤成形が起きやすく破損しやすい。これは品質問題のように思う」

ブロックから「ブロック」をつくる

では、これからレゴはどうしていくのか。同社は、再生ペットはバージンABS樹脂の代替として試験している素材の一つにすぎないと強調している。自社製品をよりサステナブルなものにしていくという目標の達成に取り組みつづける考えだ。目標のなかには、2021年に掲げた「2025年までの4年間にサステナビリティの取り組みに3倍の14億ドル(約2080億円)を投じる」という約束も含まれている。

同社は、リサイクル素材やバイオ由来の素材を徐々に取り入れるという段階的な方法を取ろうとしているため、ABS樹脂に関してはある程度妥協することが予測される。しかし、困難がないわけではない。

トレジェント氏は、「材料を混合させるという選択肢もあるが、それには異なる可塑剤が使われるので毒性という課題が新たに発生する。レゴ製品の長寿性がセールスポイントであることを考えると、バイオ由来のプラスチックの使用は品質に課題をもたらすかもしれない」と言う。

レゴは、マテルのような玩具ブランドに続いて、引き取りや再利用などを行う循環型ビジネスモデルに参入することも検討しているという。面白い発想の転換となる可能性があるが、成功させられるかに注目したい。同社は、すでに米国やカナダで実施している「レゴ・リプレイ・プログラム」を欧州にも拡大する計画だ。これは子どものための慈善団体やその他の団体に使用済みのレゴを寄付するプロジェクトだ。この取り組みから得る経験は、消費者がレゴのセットを再循環のためにレゴに返すことを促進する、新たなビジネスモデルを広げていくのにも生かされるかもしれない。

シェイラー氏は、「これは材料の問題というよりは、システムとビジネスモデルの問題だ。人々はレゴを所有したがるため、リースやレンタルは上手くいきそうではない。しかし、買い戻し制度となると違う」と話す。同氏のコンサルタント会社は、顧客であるRSコンポーネンツと協働して、製品の買い戻しという循環型モデルを開発し、結果として大幅に売り上げを伸ばした。

バーロウ氏は、「レゴの顧客のロイヤルティが高いことを考えると、下取り制度はうまく機能する可能性がある。しかし、取扱費や再流通費を織り込むことが必要になるだろう」と話す。

「レゴの中古市場がレゴによって商業化されるかどうかに興味がある。顧客からの評判は高まるかもしれないが、かなり急進的だろう。中古市場はやがて、新品のブロックの収益を補正するかもしれない」

バーロウ氏は過去にレゴのコミュニティ・リユース・モデルに取り組んだことがあり、地域や小売店に重点を置くリユースには大きな可能性があると考えている。「コミュニティリユースは円滑に進めるのに費用がかかるので見過ごされることが多い。レゴには、それを実行するネットワークを構築するために、地域での回収ポイントや参加者をサポートするキャンペーンを実施することを提案したい」と話す。

「レゴの中古市場はすでに盛況で、非常に高値で取引されている。レゴがいつになれば、逃している価値に気づくのかということだ。レゴがリユースによってCO2排出量を削減したことを証明できたら、同社の中古市場へのさらなる参入を促進できるかもしれない」

レゴの耐久性や訴えを考慮すると、多くの人が理想的と考える製品でレゴが循環型の取り組みができるかどうかは、現時点ではまだ分からない。サステナブルなビジネスコミュニティのなかには、レゴは新しいブロックを作るよりも生産をもっと減らすべきだと考えている人も確かにいる。シェイラー氏は、レゴは結局のところ、この点で厳しい綱渡りに直面していると感じている。

「私の目にはクリエイティビティに火をつけるものが良いものに映る。課題は、環境中にプラスチックが捨てられること。原料の調達からリサイクルにいたるまでのループを閉じて、循環させることが解決策だ。例え、そのループが大きかったとしてもだ」

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