北野武「男同士のホモセクシャルの関係というのを絶対に日本の大河ドラマは描かない」『首』日本外国特派員協会記者会見

1997年『HANA-BI』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、2003年『座頭市』で銀獅子賞を受賞、2017年『アウトレイジ 最終章』は同映画祭のクロージング作品に選ばれるなど、数々の歴史的快挙を達成してきた、日本が世界に誇る映画監督・北野武の最新作にして構想に30年を費やした戦国スペクタル超大作『首』が、11月23日より公開される。それに先立ち、11月15日に日本外国特派員協会にて記者会見が行われ、北野武監督が登壇した。

日本外国特派員協会(FCCJ)が北野武へ約20年もの間ラブコールを送り、ついに実現した本会見。映画監督、お笑い芸人、アーティスト、様々な才能を発揮する“世界のキタノ”が世界中の記者からの質問に答えた。

映画『首』の紹介を求められた北野は「映画のテーマは信長、明智光秀の“本能寺の変”を中心とした物語ですが、NHKで描く大河ドラマはかっこいい役者を使って、歴史的に綺麗ごとを並べたような戦国の物語を描く。そういうところで触れないのが、信長とか、小姓の森蘭丸や前田利家と信長の関係とか、そういう男同士のホモセクシャルの関係というのを絶対に日本の大河ドラマは描かない。もっと戦国時代の男色というのは男同士、その人に命をかけるというような意味での男色であって。当然信長は子供を22歳に授かっている。性的な関係が違うというのは、ほとんど日本のテレビなんかは描かない。もっと戦国時代はドロドロした男同士の関係や裏切とか色んなことが同時に起こってああいう風な事件になったというのを30年前台本に書いた。それはたまには時代劇を撮ろうということで、撮ってみた結果ですが。試写会の段階ではかなり好評で非常に喜んでます」と語った。

4月の会見で自身で出演する考えはなかった、周囲から説得・要請されて出演することになったと言っていた北野監督。ビートたけしと羽柴秀吉はどう重なりあって演技に生かされていたのか、さらに立川談志師匠がエッセイで「たけしの人生その姿どこか豊臣太閤と似る。そして晩年もきっと」と言っている。この事についてご存知だったか聞かれた北野は「本当に監督1本でやりたい気持ちはあったが、出演するとなると自分の中ではやりやすいのは秀吉だなと。昔からタレントを戦国武将になぞらえた本がよくあって。信長がぼんちおさむちゃんだとか、紳助が明智光秀だとか、俺が大抵秀吉なんですよ(笑)。色々なもの見ると、やっぱり自分がやりやすいのは秀吉だなという感じがあったし、ストーリーの影の部分の悪人をやっているので、監督を同時にやる時にけっこう離れて人の芝居を見られるということがあって。だから自分の時はどうにもならなくなっているが(笑)。監督をやるために秀吉を選んだのと、やりやすいので、当然そうなった」と語った。

また、現在制作中の映画にも話がおよび、「暴力映画におけるお笑い」というテーマで制作に入っていると明かした。

映画『首』の中での加瀬亮の演技について、本当に狂っているような演技でどのような演技指導をしたか聞かれた北野は「加瀬君は俺の映画に出ている時は、元々純朴というか気の良い青年というイメージだが、『アウトレイジ』で凶悪なインテリヤクザをやらせたり、映画『首』では加瀬君には冒険をしてもらい、信長という狂気だと思うが、演じてもらう上で、言語学者の人に色々聞いて、こんなことを喋ったのではないかという…まず岐阜弁のセリフの言い方と、セリフを頭の中に入れてもらうこと。そして、『100メートルの競争のように突っ走ってくれ』と伝えた。2回は撮らない。ほとんどの場合はワンテイクで終わらせるというようなプレッシャーをかけて、失敗しても続けろ。というようにして、とにかくアスリートのような芝居をさせてたが、見事に期待に応えてくれたと思っています」と加瀬の演技指導を振り返りながら、加瀬の演技を称賛した。

撮影は楽しかったかと聞かれた北野は「制作現場は北野組といって、照明さんなんかは全部俺の映画しかやっていない人もいるし、そういう意味では役者も前から俺に協力してくれていた人も多かったので、こちらから何も言わなくても、こっちの思うことを、忖度ではないが、ちゃんと準備してきてくれて。実際映像では大変そうに見えたけど、撮影現場ではそんなに大変なことではなかった」と回顧した。会見最後に「一言だけお詫びをしておかないといけないことがあって」と切り出した北野は「30年前か20年前かに招待を受けたというのを最近知った。僕の耳に入っていれば30年前か20年前に喜んでここに現れた。僕が嫌でこなかった訳ではなく、全然知らなくて。断った訳ではなく自分の耳に入っていなかっただけ(笑)」と会場に呼びかけ、最後は大きな拍手が沸き起こった。

『首』
2023年11月23日(木・祝) 全国公開
監督・脚本・編集:北野武
原作:北野武「首」
出演:ビートたけし 西島秀俊 加瀬亮 中村獅童 木村祐一 遠藤憲一 勝村政信 寺島進 桐谷健太 浅野忠信 大森南朋 六平直政 大竹まこと 津田寛治 荒川良々 寛一郎 副島淳 小林薫 岸部一徳
配給:東宝・KADOKAWA

【ストーリー】 天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・荒木村重が反乱を起こし姿を消す。信長は羽柴秀吉、明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍司・黒田官兵衛の策で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、光秀はなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。果たして黒幕は誰なのか?権力争いの行方は?史実を根底から覆す波乱の展開が、“本能寺の変”に向かって動き出す…。

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