アウェー・シリア戦のテレビ中継は考え直すきっかけに/六川亨の日本サッカー見聞録

[写真:Getty Images]

16日は北中米W杯のアジア2次予選が各地で一斉にスタートした。日本は伊東純也や久保建英らを温存しながらミャンマーに5-0と圧勝。ほぼ同じ時間に行われたオーストラリア対バングラデシュ戦もオーストラリアが7-0と大勝した。

それ以外にもカタールはアフガニスタンに8-1、韓国はシンガポールに5-0、イランは香港に4-0、サウジアラビアはパキスタンに4-0、UAEもネパールに4-0と、各グループともシード国が順当にゴールラッシュで初戦を飾った。

意外だったのはクウェートがインドに0-1で敗れたことと、北朝鮮がシリアに0-1で敗れたことだろうか。サウジアラビア・ジッダでの試合はやはり中東のシリアにアドバンテージがあったようで、移動のハンデのないシリアは日本も警戒する必要があるだろう。

三笘薫の離脱は痛いものの、前述した伊東や久保に加えてハットトリックを達成した上田綺世ら攻撃陣のタレントは豊富なだけに、逆に心配なのがDF陣だ。足に違和感があり、ドクターからの報告を受けて森保一監督はミャンマー戦をベンチ外とした冨安健洋は間に合うのかどうか。

CBはカタールでプレーしていて、ミャンマー戦は前半45分で退いた谷口彰悟が軸になるだろう。そして彼とコンビを組むのはミャンマー戦に続き町田浩樹になるのか、それともミャンマー戦は出番のなかった伊藤洋輝が起用されるのか。左SBは中山雄太がミャンマー戦でフル出場しただけに、伊藤を左SBで起用する可能性もある。そうなるとCBのバックアッパーは久々の代表復帰を果たした渡辺剛しかいない。

ただ、冨安は絶えず足に不安を抱えていて、“騙し騙し”プレーしている印象が拭えない。どこかで一度、しっかりと治した方が今後のサッカー人生を考えると得策と言えるのではないだろうか。

そして21日のアウェー・シリア戦である。この原稿を書いている時点でまだテレビ中継が決まっていない。

ミャンマー戦後に取材に応じた田嶋幸三JFA会長は「現状決まっていない。最後の最後まで粘って交渉していく」とテレビ中継に意欲を見せながらも、「変な形で、チキンゲームのような形でお金を釣り上げるとか、そういうことに乗っていくつもりはない。そこ(日本戦)だけ高騰させよう、儲けようとしているからこうなるわけで、放映権は適切な相場がある」と怒りを滲ませた。

まさしく正論である。放映権はホームゲームを主催するシリア協会にあるが、代理店が間に入ったことで放映権の高騰につながった。いまだ日本は“アジアの金満国”と思われているのか、それともカタールW杯やその後の三笘と久保の活躍から国内での注目度と需要が高いと判断したのか、要は「足元を見られた」ということだろう。

有料放送のDAZNだって資金が無尽蔵にあるわけではないし、民放各社はスポンサーがつかないと放映権獲得に手を挙げられない。そこには当然ながら大手広告代理店も介在しているだろう。それでも折り合いがつけられないほど法外な放映権なら、「中継しない」という選択肢があってもいいと思う。それがアジア各国に日本のテレビ局のスタンダードを示すことになると思うからだ。

古い話で恐縮だが、82年スペインW杯のアジア予選アウェー戦は、1試合もテレビ中継されなかった。86年メキシコW杯アジア1次予選のアウェー北朝鮮戦もテレビ中継はなかった。だからこそ、現地で取材したメディア各社の情報は貴重だった。

W杯予選のアウェー戦に一喜一憂したのは加茂ジャパンが戦ったフランスW杯アジア最終予選からだろう。そして、いつしかそれが当り前になっていた。シリア戦のテレビ中継が実施されるのかどうかギリギリまで分からないが、もしも中継がないなら現地を取材した各社特派員の原稿を楽しみに待ちたい。


【文・六川亨】

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