「金星」のプレートテクトニクスは過去にあった? 10億年間のプレートテクトニクスが分厚い大気を作ったかもしれない

金星」は直径と質量が地球にとても近いことから、 “地球の兄弟星” と呼ばれることもあります。一方で金星の分厚い大気プレートテクトニクスが存在しないことは、地球とは似ていない点としてよく挙げられ、どのようにして違いが生じたのかについては現在でも議論されています。

ブラウン大学に所属していたMatthew B. Weller氏などの研究チームは、金星の大気に関するコンピューターモデルを使用した研究を行いました。その結果、金星のプレートテクトニクスは少なくとも10億年の間は活発でなければ、現在の分厚い大気を生み出すことができないとする結果をまとめました。これは、金星の分厚い大気はプレートテクトニクスがほぼ存在しなかったために存在するという従来の見方とは真逆であり、地球と金星の運命を分けた原因は何であるかに迫る興味深い結果です。

【▲ 図: 金星の大気の下にある表面のレーダー画像。金星のプレートテクトニクスは惑星の歴史を通じてずっと停止しているというのが従来の考えでした(Credit: NASA & JPL)】

■金星は地球の “兄弟星”

金星」は地球の約95%の直径と約82%の質量を持ち、大きさに関してはどの天体よりも地球と似ています。このため金星はしばしば “地球の兄弟星” と呼ばれます。その類似性から、1960年代に探査機が接近観測を行うまでは、金星は地球の石炭紀のような、高温湿潤の環境を持っているのではないかとする考えが一般的に存在しました。

しかし実際の金星の表面環境は、地球とはあまりにもかけ離れています。金星は地表の気圧が地球の92倍にも達する分厚い大気があり、主成分の二酸化炭素による温室効果で気温は鉛を融かすほどである460℃以上となります。地球とは似ても似つかない大気を持つ理由は、金星の大きな謎の1つであり、同時に地球はなぜ金星のような大気を持っていないのかという地球大気の謎にも関連します。

金星が現在のような大気を持つ理由の1つとして長年考えられてきたのが、金星にはプレートテクトニクスがないことです。これも金星が地球と大きく異なる点として挙げられます。地球の場合、最も外側を構成する岩石の薄皮である地殻はプレートと呼ばれる複数の板に分かれています。プレートは内部の対流を原動力にゆっくりと動いており、新たに生成される場所や天体内部へと沈み込む場所もあります。この全体の運動がプレートテクトニクスです。プレートテクトニクスは地表と内部で物質の循環が行われるため、地球では内部から地表へと金属、水、気体などが供給される原動力としてプレートテクトニクスが重視されています。

一方で金星の地殻は、1枚の分厚いプレートで構成されているように見え、少なくとも現在のところはプレートテクトニクスを示す痕跡は見つかっていません。このことからこれまでは、金星の表面は1枚の蓋で閉ざされており、金星の内部から地表への物質の供給は最小限であったと推定されていました。これは金星誕生直後の表面全体が融けたマグマオーシャンの状態から、プレートが複数に分裂せずにそのまま固まったことを示唆しています。

■10億年間のプレートテクトニクスが濃い大気を作ったかもしれない

Weller氏らの研究チームは、金星の現在の大気がどのように形成されたのかを、地殻の活動の条件を様々に変えることで調査しました。この研究は元々、太陽以外の天体の周りを公転する太陽系外惑星の大気について調査するコンピューターモデルを適用したものです。Weller氏らは、太陽系外惑星の現在の大気から、惑星が誕生した初期の状況を知ることができるかどうかを調べており、その終点として金星の調査を行いました。

まずWeller氏らは、金星のプレートテクトニクスが歴史を通じて完全に停止しているという仮定で計算を行いました。ところがその結果、現在の二酸化炭素と窒素を主体とする非常に濃い大気が生成されず、結果が矛盾することが明らかにされました。

そこでWeller氏らは、金星のプレートテクトニクスが誕生からある時点で停止したという仮定の元、様々な停止タイミングを調査しました。その結果、金星の誕生から少なくとも10億年の間の活発なプレートテクトニクスと、その後の停止期間があると、現在の金星の大気が生ずることが明らかにされました。プレートテクトニクスがある場合、火山ガスによって二酸化炭素や窒素が供給されるためです。

■なぜ金星のプレートテクトニクスは停止したのか?

今回の研究結果は、金星のプレートテクトニクスが存在したという意味で、従来の金星に対するイメージを大幅に変えるとともに、どのようにして地球と金星の運命が分かれたのかを知る上でも興味深い疑問となります。もし過去の金星に活発なプレートテクトニクスがあった場合、なぜ金星ではプレートテクトニクスが停止した一方で、地球では停止しなかったのかを説明する必要があるためです。

Weller氏らは、大気が濃くなりすぎたことが、プレートテクトニクスを停止させたのではないかと考えています。分厚い大気は温室効果を発生させ、プレートテクトニクスに必要な水などの成分を蒸発させてしまうことから、これは十分に考えられる可能性です。

またこのことは、少なくとも初期の金星は生命に適していた環境を持っていた可能性にも繋がります。この場合、生命に適している環境を持つ惑星が、その後の歴史に適しない環境へと変化するかもしれないことを示唆します。惑星環境の進化の条件を詳しく突き止めることは、地球環境の変化を探ることや、地球と似た太陽系外惑星を見つける上でも影響するかもしれません。

Source

  • Matthew B. Weller, et al. “Venus’s atmospheric nitrogen explained by ancient plate tectonics”. (Nature Astronomy)
  • Juan Siliezar. “Venus had Earth-like plate tectonics billions of years ago, study suggests”. (Brown University)

文/彩恵りり

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