スマート農業に関する調査を実施(2023年)~2023年度のスマート農業の国内市場規模は322億円の見込、可変施肥対応のスマート田植え機システム、ドローンや衛星画像によるリモートセンシングが普及、今後は温室効果ガス削減に貢献するスマート農業技術にも期待~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内におけるスマート農業市場を調査し、市場規模、参入企業の動向、および将来展望を明らかにした。

1.市場概況

2023年度のスマート農業の国内市場規模(事業者売上高ベース)は前年度比106.7%の322億9,900万円の見込みである。

2023年度も引き続き、圃場(ほじょう)の水管理が遠隔で出来るスマート水管理システムや、化学肥料の価格高騰を背景に施肥(せひ)量低減につながる可変施肥に対応したスマート田植え機システム、栽培環境の変化を把握する生育マップを作成できるリモートセンシングシステムなどが普及拡大している。生育マップと連動した可変施肥システムの普及により、作物の生育不良の箇所だけにピンポイントで肥料を散布することができ、生育のバラつきを解消することに加えて、余分な肥料の施用や労力の削減にもつなげることが出来る。

2.注目トピック~温室効果ガス削減を数値化するスマート農業技術の普及に期待

温室効果ガスの排出削減・吸収量をカーボン・クレジットとして認証する「J-クレジット」制度において、水田からのメタンガスの排出量を減少する「水稲栽培による中干し期間の延長」が新たな方法論として2023年3月に承認された。今後、クレジット活用による、温室効果ガス削減の活性化に期待がかかる。

また、「J-クレジット」制度において、温室効果ガス削減効果を数値化するスマート農業技術が普及すると見られる。従来の計測方法では、CO2削減の根拠となる数値を導き出すのが難しいことや、リアルタイム性が低いといった課題があった。一方、スマート農業技術を利用することででCO2吸収量をリアルタイムに可視化することが出来るため、スマート農業技術はグリーンウォッシュ対策(実態がないにもかかわらず虚偽のデータを提示し、環境に配慮していると見せること)にも貢献することができる。

3.将来展望

2029年度のスマート農業の国内市場規模は708億8,000万円まで拡大すると予測する。

ICTメーカーと農機・農業関連資材メーカーが連携し、様々なデータを共有・活用できる「農業データ連携基盤(WAGRI)」「農機オープンAPI」に加え、生産から川中(流通・加工)、川下(小売・販売)まで連動したスマートフードチェーンプラットフォーム「ukabis(ウカビス)」の運用が始まり、トレーサビリティによる安全性確保や需給マッチング、フードロス削減などの効果が期待される。今後はより一層のデータ共有化・連携が進むと見られる。
さらに5Gによる通信環境の整備や準天頂衛星システム11基体制化などより、高精度の画像・測位情報が入手できる環境になることから、栽培支援、ロボット農機・リモートセンシングなど精密農業等、スマート農業全般がますます普及拡大する見通しである。

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