【MLB】 ヤンキース2023シーズンレビュー|山本獲得も特効薬にはならない?エースと主砲頼みの窮状が露呈…

写真:アーロン・ジャッジ

【チーム成績】
82勝80敗 勝率.506 ア・リーグ東地区4位

◆打撃
打率 .227(29位)
OPS .701(24位)
本塁打 219(9位)
盗塁 100(21位)
WAR 14.7(20位)

◆投球
先発防御率 4.44(18位)
救援防御率 3.34(1位)
奪三振率 9.00(12位)
与四球率 3.18(13位)
WAR 13.4(21位)

82勝80敗と1992年以来の負け越しは辛うじて免れたものの、ヤンキースは不本意なシーズンを送った。

ヤンキースの課題は明白で、現役最強打者アーロン・ジャッジに頼り切りの打線だ。チーム打率.227はメジャー最低のアスレチックスよりわずか4厘高いだけ。その他のセイバー系指標でも20位前後を漂っていることからも、クオリティは十分ではない。

9年3億6000万ドルの超大型契約を結び、キャプテンに就任したジャッジが2ヶ月の長期離脱を余儀なくされたのは確かに痛手だった。しかし、ジャッジが離脱したときには35勝25敗で10個の貯金があったにも関わらず、ジャッジが復帰するときにはチームは最下位に沈んでいた。“ジャッジ以外”がヤンキースの大きな課題であることを端的に示す事実だ。

ジャッジ以外の主力で合格点をあげられそうなのは、二塁手グレイバー・トーレスのみ。25本塁打を放ち、総合打撃指標wRCで123(100を基準とするwRC+では平均より23%上の攻撃力を発揮したことを意味する)を記録した。

しかし、それ以外の主力でwRC+が100に乗ったのは、アンソニー・リゾとD・J・ルメイヒューのみ。平均以上の攻撃力の持ち主が4人しかおらず、しかもその4人が常に稼働しているわけではないとあれば、ジリ貧となるのは必然だった。

そして、先発投手も打線と同じように、“コール頼み”の苦境を呈した。

待望のサイ・ヤング賞を手にしたエースのゲリット・コール以外に規定到達者はゼロ。リーグ屈指の顔ぶれになると言われていた先発ローテは、故障と不振によって前評判からはとうてい物足りない出来に終わった。

大型契約で加入したカルロス・ロドン、昨年にトレードで獲得したフランキー・モンタス、かつてのエースのルイス・セベリーノ、昨年ブレイクしたネスター・コルテスは、全員が質・量ともに容認できないパフォーマンスに終始した。

とはいえ、選手層の厚いヤンキースだからか、明るい兆しを見つけるのもそう難しいことではない。

まず剛腕揃いのブルペンは今年も素晴らしく、防御率はメジャートップ。今年もイアン・ハミルトンのような無名の剛腕がブレイクし、圧倒的な層の厚みは健在だった。

さらにベテランの先発投手の尻拭いを見事に果たした投手も現れた。クラーク・シュミットは32先発&159イニングを消化。成績はまだ発展途上だが、故障に苦しんだ有望株が大きな進歩を遂げるシーズンとなった。また、8月半ばからローテーションに抜擢されたマイケル・キングは目の覚めるような好投。現地8月24日からの8先発で防御率は1.88という抜群のパフォーマンスを見せた。

そして、野手陣も若返りが進んでいる。

超有望株アンソニー・ボルピーは低打率に苦しんだものの、「20本塁打20盗塁」を達成。フルシーズン出続け、ゴールドグラブ賞にも輝いた。期待値には追いついていないかもしれないが、22歳のルーキーとしては十分すぎるデビューイヤーだっただろう。

さらに20歳のジェイソン・ドミンゲス、20年ドラ1のオースティン・ウェルズらも相次いでデビュー。白旗を挙げ、若手主体で挑んだ9・10月は17勝11敗と、“新生ヤンキース”は好スタートを切った。

リベンジを誓うヤンキースは、オフシーズンで大物獲得に動くと噂されている。トレード市場ではパドレスのフアン・ソト、FAではコディ・ベリンジャー、アジア球界からは山本由伸、イ・ジョンフの獲得に興味を寄せているというニュースが、既にストーブリーグを賑わせている。

第一の補強ポイントは外野だ。現時点でのスタメンは故障がちのジャッジ、メジャーレベルでは苦戦中の若手フロリアルとペレイラという予想。40人枠内にそれ以外の外野手はトミー・ジョン手術で大きく出遅れるドミンゲスと、便利屋のオズワルド・カブレラしかおらず、誰であれ補強は必要になってくる。

今季復活のシーズンを送り、センターを平均以上に守れるベリンジャーは、現状にちょうどフィットする存在だ。しかし、打球速度やバレル率といった今後を占う上で重要な指標では、ベリンジャーは全盛期の水準に戻っていない。

今季の復活は穿った目で見れば一過性の可能性もあり、大型契約を与えるには心許ないかもしれない。『ニューヨーク・ポスト』のジョン・ヘイマンによれば、それを懸念するヤンキース内の幹部がいるとのこと。だとすれば、攻守にメジャーで通用するか未知数のイ・ジョンフに大金を与える可能性も同様に低いかもしれない。

ベリンジャー獲得以外の線では、山本由伸とフアン・ソトの両獲りも考えられる。面子は揃っているとはいえ、ロドンとコルテスの復活にかかる部分が大きい先発ローテに、山本を加えるというのは理に適っている。実際ヤンキースも他の投手には寄せていない強い関心を示しているとされている。

これは、山本獲得によって、先発投手をトレードの弾にすることができ、それを外野手補強に繋げるという考え方だ。残り保有1年のソトに対して、先発のシュミット、メジャーで通用している救援投手、さらに有望株という対価を提示できれば、年俸削減に動いているパドレスも首を縦に振る公算はありそうだ。

ただ、もし大物の獲得に成功して気炎を上げようとも、ヤンキース返り咲きのための鍵は脇を固める“デプス”の部分を担う選手たちにある。

デプスの役割を担うとされているのは、前述のカブレラやフロリアル、オズワルド・ペラザといったヤンキース自前の有望株たち。ここから独り立ちするような選手が出てくれば、白旗シーズンから1年でリーグ優勝決定シリーズに返り咲いた2017年の再現も可能かもしれない。逆に言えば、脇を固める選手たちが強くならなければ、主砲とエース頼みになってしまった今シーズンを繰り返すだけのリスクもあるということだ。

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