萩原聖人と木村拓哉の尖った魅力「若者のすべて」主題歌はミスチル最大のヒット曲!  90年代を代表する名作ドラマの1本「若者のすべて」

「あすなろ白書」で大ブレイクした木村拓哉を起用した「若者のすべて」

フジテレビの群像劇といえば1992年放送の『愛という名のもとに』が印象深い。最終回は32.6%の高視聴率を記録するなど、90年代を代表する名作ドラマの1本として語り継がれている。この『愛という名のもとに』は言わずと知れた名プロデューサー大多亮が手がけたものだが、競うようにしてフジのドラマを盛り上げたのが大多の1期先輩にあたる亀山千広だった。

前日の視聴率がデカデカと書かれた模造紙が壁一面に貼られたフジテレビ社内の様子は誰もが一度はバラエティ番組などを通して見たことがあると思うが、高視聴率連発の当時のドラマ制作部はさぞかし凄まじい熱気と高揚感に包まれていたに違いない。

そうしたせめぎ合いの中、1993年10月クールの秋ドラマ『あすなろ白書』が亀山プロデュース作品として初めて最高視聴率30%の大台に到達。その翌年、亀山は勢いそのままに『若者のすべて』を手がけることになる。『あすなろ白書』の “取手くん” 役で大ブレイクした木村拓哉を引き続き起用し、他にも萩原聖人、武田真治、鈴木杏樹、深津絵里と次世代を担う若手俳優がズラリと揃った。このキャストで青春群像劇をやるのだから、面白くならないわけがない。

若者たちの抱える将来への不安を象徴している排煙けぶる街

物語の舞台は、京浜地区のとある街。工業地帯が舞台となるのは若者向けドラマにはめずらしい。排煙けぶる街の薄暗い情景がバブル崩壊後の閉塞感や、若者たちの抱える将来への不安を象徴しているかのようだ。

主役の原島哲生(萩原聖人)は亡き両親が残した自動車修理工場を営んでいる。妹の妙子(山口紗弥加)は両親を亡くしたショックで心を閉ざしており、工場の経営は上手く行っていない。

キムタク演じる上田武志は生活苦に苦しむ哲生のために、友人の吉田守(EBI)を誘い、悪事を働いて金を稼ごうとするが、ヤクザの報復に遭ってしまう。その時の暴行が原因で守は植物状態となり、罪悪感から武志は皆の前から姿を消す。以来、稼いだ金の大半を守の治療費にあてながら質素な生活を送っている。

哲生、武志の苦しい境遇からも分かるように、このドラマの登場人物たちは皆、何かしらの生きづらさを抱えながら懸命に日々を過ごしている。まるで90年代は誰もが豊かで幸福だったというような誤解が最近、広まっているようだが、若者の貧困は当時からじわじわと社会問題となりつつあったのだ。

もちろんその割合が近年増加しているのは間違いないが、本作では後に “失われた30年” と呼ばれる平成不況の一端を垣間見ることができる。数年前までのトレンディドラマ全盛期にはあまりなかった趣向だと言えるだろう。

14歳にして難役に挑戦した山口紗弥加のヴィヴィッドな演技

本作の衝撃的な最終回は、本編を見たことがなくてもラストシーンだけは知っているという人がいてもおかしくないほど有名だ。それくらい一時期は “ドラマ名場面” 的な番組で何度も繰り返し見た記憶がある。

しかし、当然ながら本作はその一点だけで語られるべき作品ではない。悩みを抱える若者たちが、絶望しながらも懸命に生きようとする。その泥臭くも美しい姿こそが本作の最大の見どころだと思う。

木村拓哉、萩原聖人の尖った魅力はもちろんのこと、デビュー仕立ての14歳にして難役に挑戦した山口紗弥加のヴィヴィッドな演技、深津絵里の可憐としか言いようのない存在感など、まだ “若者” だった豪華キャスト達の競演も一見の価値がある。こうしたキャスト達の挫折と成長を全10話の中で描き切った岡田惠和の手腕もお見事。これが初めてのオリジナル脚本での全話執筆だというのだから恐れ入る。後の活躍も納得である。

主題歌はMr.Children、「Tomorrow never knows」

そして何といっても、特筆すべきはMr.Childrenの主題歌だろう。前作「innocent world」、そしてアルバム『Atomic Heart』がロングヒットを続ける中での新曲とあって、そんな状況の桜井和寿といえどもプレッシャーはあったはずだ。しかし、ここで期待値を超えてくるのが天才というもの。新曲「Tomorrow never knows」は200万枚を超える特大ヒットを記録し、『若者のすべて』をドラマチックに彩った。

 心のまま僕はゆくのさ
 誰も知ることのない明日へ

そう、明日がどうなるかなんて誰にも分からない。だからこそもがき苦しみながらも、少しでも希望をたぐり寄せようと、若者たちは「果てしない闇の向こうに」手を伸ばすのだ。

単なるタイアップにとどまらず、ドラマのテーマ性に深く切り込んだこの名曲を作詞、作曲した桜井和寿は当時24歳。彼もまた等身大の今を生きる “若者” の1人だった。

後のスーパースターや大御所クラスが勢揃いしていたのも本作の特色といえるだろう。言うまでもなく木村拓哉はこの後、国民的スターへの道をひた走ることになる。またミスチルは翌年以降もメガヒットを連発し、最強のモンスターバンドへと成長を遂げていく。

脚本を手がけた岡田惠和もヒット作を連発し、2019年には紫綬褒章を受賞している。そしてプロデューサーの亀山千広は『ロングバケーション』(1996年)、『踊る大捜査線』(1997年)で一時代を築き上げ、2013-2017年にはフジテレビ代表取締役社長に就任。現在はBSフジ代表取締役社長を務めている。

カタリベ: 広瀬いくと

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