[社説]代執行と軍事化 負担の不均衡是正せよ

 「国は沖縄の未来を埋め立てようとしている」。辺野古新基地建設について玉城デニー知事は、問題の核心をそのように表現した。

 23日に那覇市で開かれた「県民平和大集会」は、沖縄を戦場にしてはならないという切実な声が会場にあふれた。

 辺野古の埋め立て工事を巡って国が起こした代執行訴訟と、台湾有事を想定した南西諸島の軍事化。

 沖縄が直面するこの二つの動きは、日本の安全保障政策の「ゆがみ」「いびつさ」を示すもので、もはや沖縄で解決できるような状況ではない。

 公有水面の埋め立て承認は県の権限である。その権限を県から取り上げて、国が県に代わって工事を承認する。それが代執行だ。

 代執行によって米軍基地を建設した例はない。憲法・地方自治の観点に立てば、やってはならない禁じ手だ。

 未契約米軍用地の強制使用を巡って政府は、大田昌秀知事(当時)の時代に、米軍用地特措法を改正した。

 知事に与えられていた代理署名の権限を奪い取り、県収用委員会が判断できる範囲も狭めた。

 沖縄においては基地維持が優先され、その範囲でしか地方自治が行使できない。復帰51年になるというのに、その構図は今も変わっていない。 ここに見られるのは安全保障政策を巡る負担の著しい偏りである。「構造的差別」と形容されるのは、こうした現実があるからだ。

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 多良間村で10月16日、「国民保護計画に基づく住民避難に関する村民との意見交換会」が開かれた。

 席上、村民から「牛やヤギ、避難先での生活はどうするのか」との質問が出たという。これこそ島で暮らす人々の地に足の着いた「戦争のリアリティー」である。

 政府は離島からの避難対象を12万人(このうち観光客1万人)と想定し、九州・山口8県に受け入れを要請した。

 だが、そもそもなぜ避難しなければならないのか。中国の攻撃はどのような時に起きると想定しているのか。

 国民保護法では武力攻撃予測事態になったら避難措置を実施すると定めているが、それはどのような事態か。

 台湾有事に自衛隊が集団的自衛権の名の下に戦闘に加われば、沖縄が攻撃される可能性が高まる。憲法9条の下でそのような事態を前提にしていいのか。疑問は尽きない。

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 全国の空港、港湾の中から防衛力強化のために必要な施設を選び、優先的に資金を投入して整備に充てる計画が進んでいる。

 条件は自衛隊などが訓練に利用できる「軍民両用」の公共インフラにすることだ。国の担当者が宮古島市や石垣市を訪れ協力を求めた。

 台湾有事が十分な説明もないまま既成事実化し、知らず知らずのうちにこれを受け入れる住民意識が形成される。 「平時の戦時化」がそうやって進む。「平和に暮らしたいだけ」だという住民の切実な声を政治に反映させなければならない。

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