「ごみ拾いを通じて地域の魅力を知って」 team長崎シー・クリーン代表・出水享さん 軍艦島保全へ

自身のこれまでの活動について熱く語る出水さん=長崎市文教町、長崎大

 大学時代に初めて見た軍艦島の威容に圧倒された。それから20年余り。世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つ、軍艦島の「映(ば)える海を守ろう」を合言葉に、「team長崎シー・クリーン」を率いるのは出水享さん(44)=西彼長与町=。「デミー博士」の愛称で親しまれている。
 「子どもや孫世代に美しい海へのバトンを託し、ごみ拾いを通じて地域の魅力を知ってほしい」。そんな思いを胸に、2年前の春から長崎市野母崎地区の海岸などに散乱したごみを拾い始めた。
 福岡県出身。大分県の高校を卒業後、長崎大に進学。工学部で土木を6年間学んだ。卒業後はダムや橋などのメンテナンスをする福岡県の民間企業に就職。4年半勤めた後、大学時代の教授の誘いで長崎大に戻り、研究員をしながら工学博士号を取得した。
 大学で働く中で、ふと思ったのが「多くの人は土木に興味がない」。社会における土木の必要性を伝えようと、交流サイト(SNS)で発信し始めた。動画配信サイト「ユーチューブ」で、ダイナマイトを使った工事動画を投稿すると、想像以上の反響があり、手応えを感じた。
 土木の“伝道師”として活躍する一方、2009年から軍艦島研究を本格化。かつて海底炭坑があった島は日本の近代化を支えたが、1974年1月の閉山後、日本初といわれた高層アパート群の劣化が進行。朽ち果てる建物を記録しようと、3Dで再現するプロジェクトに携わってきた。
 2019年の冬。友人らと橘湾沿いのカキ小屋に行くと、多数のごみが海に浮かんでいるのが見えた。「せっかくならきれいな海のものを食べたいし、みんなにも食べてほしい」。カキを食べる前、友人たちと周辺のごみを拾うことにした。

海岸でごみ拾いをする参加者=長崎市高浜町

 「ごみを拾うなら、長崎には軍艦島がある」。そう思い立ち、21年4月、軍艦島を望む野母崎地区の住民ら7人と始めたのが「team長崎シー・クリーン」。海岸線沿いのごみを拾う活動をSNSで紹介すると、少しずつ仲間が増え、多い時には130人超が参加するようになった。
 夕日を眺めながら、ごみを拾う中で思い付いたのは、ごみで作るアート作品。「拾うことだけを目的にせず、(参加者が)達成感も味わえるように工夫する」。次々と湧くアイデアが形になる日を思い浮かべながら、黙々とごみを拾う。それが軍艦島を守ると信じて-。

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