【MLB】 過去のトレードは圧倒的買い手有利 オリオールズはトレードでエース級を獲得すべき?

写真:ホワイトソックスの剛腕シース

【有望株の整理とエース級の獲得はマストだが、ここまで動きなし】

今季は101勝を挙げ、ここからさらなる躍進を期すオリオールズの課題は、シーズン中から言われてきたようにエース投手の不在だ。『ジ・アスレチック』のジム・ボウデンは「ワールドシリーズのチームになるまであと強力な先発投手1人」と今のオリオールズを形容している。

典型的なミドルマーケット球団で、山本由伸らFAのエース投手のマネーゲームに参戦するには分が悪いオリオールズだが、トレード市場では優位な立場にある。オリオールズのファーム組織はラッチマンらの卒業以降も、依然として優秀な野手の才能を供給し続けているからだ。AAAからメジャーには内外野(特に二遊間)の有望株が渋滞しており、トレードを仕掛けてその渋滞を整理するのはもはや急務とも言える。さらに野手偏重のドラフトを行っているせいで、投手の方は有力な有望株が不在という事実も、それを後押しする要素のはずだ。

有望株整理の必要性はトレードデッドラインから指摘されているところだが、オリオールズは今のところその問題に適切に対処できているようには見えない。今季はジャック・フラハティとコール・アービンという2件の中途半端なトレード補強で終わった。今オフもオリオールズがトレード市場の特定の先発投手に興味を示しているという報道はここまでない。

【過去のトレードは圧倒的買い手有利】

それでも、オリオールズがエース投手のトレードに踏み切るべきなのは間違いない。有望株(とりわけ余剰戦力であれば)をトレードすることに関して、買い手のチームは多くの場合で得をするためだ。

その最たる例はレッドソックスがホワイトソックスからクリス・セールを獲得したトレードだろう。当時3年の契約を残していたセールに対して、レッドソックスはヨアン・モンカダとマイケル・コペックを中心とする莫大な対価を差し出した。モンカダは球界全体で2位、コペックは10位(『MLB Pipeline』)にランクされる超が付く有望株であり、この2人の放出は大胆な決断だった。

しかし、セールは契約が残っていた3シーズンで84先発35勝・防御率3.08と大活躍。2度のオールスター選出に加え、極めつけには2018年の世界一をボストンにもたらした。セールが3年間で計上した総合指標fWAR17.4は、モンカダとコペックの2人のそれぞれ7シーズンと4シーズンのホワイトソックス在籍期間で残した16.8をも上回る。

もちろんモンカダとコペックは後のホワイトソックスのプレーオフ進出に貢献している。勝負の時期に合わないセールを放出してこの2人を得たホワイトソックスは決して損をしたわけではない。しかし、その2人は有望株時代の期待値に達しているとは言い難い。

再建期の売り手と勝負期の買い手によるブロックバスタートレードは、たいていの場合Win-Winに終わる。このトレードもそうだと言えるが、純粋なトレードの収支という観点ではレッドソックスが上回り、レッドソックスにとって大成功のトレードに終わったのは間違いない。

2015年から2019年における、契約が1年以上残る有力な先発投手のトレードにまとめてみると、セールのトレードが決して例外ではないことが分かる(それ以降では対価の有望株が未昇格の例も増えていくため2019年まで)。

レンタル補強ではなく残り契約1年以上、獲得された有力先発は直近2シーズンでfWAR3.0以上を記録したことがある、トレード時に残されていた契約期間内でfWARの合計を比較するという条件の下、この期間に行われた該当する13例のトレードを調べた。

すると、13個のトレードのうち、9例で買い手側の収支が上回っているという結果になった。

契約を長く残す強力な先発投手の対価になるような有望株でさえ、メジャーでの活躍は全く保証されていない。対して、これらの例の内、獲得された投手が故障・不振で著しくパフォーマンスを落とす例(レンジャーズによるコリー・クルーバー獲得など)もあったとはいえ、たいていの投手が期待に応えている。

【充実している先発トレード市場でオリオールズは動くべきだが…】

今オフのトレード市場には、契約を1年以上残す有力な先発投手が多く揃っている。サイヤング賞右腕のコービン・バーンズ(ブリュワーズ)とシェーン・ビーバー(ガーディアンズ)、剛腕のタイラー・グラスナウ(レイズ)とディラン・シース(ホワイトソックス)、そしてマリナーズのローガン・ギルバートらにもトレードの可能性が残されている。

これらの投手に対して、オリオールズは球界No.1有望株のジャクソン・ホリデイを手放す必要はない。氾濫している二遊間からコナー・ノルビーやジョーイ・オルティズ、さらにレギュラーから確立されている外野からヘストン・キースタッドらのような、このままでは出場機会に恵まれない有望株をトレードすればいい。それぞれを目玉とした対価を提示できれば、獲得はもちろん可能だろう。

特にシース(ホワイトソックス)はデッドラインでもオリオールズが獲得を検討した投手。オリオールズが差し出せる即戦力の二遊間はホワイトソックスの現状にフィットすること、さらにシース争奪戦におけるライバル(ドジャース、ブレーブスら)よりオリオールズのファーム組織が充実していることからも、オリオールズは理論上獲得に最も近い球団であってもいいはずだ。

しかし、先発のトレード市場でオリオールズの名前を聞くことはここまでない。エース級を獲得できなかったときの言い訳はそこまで多くない。王朝形成を目指すオリオールズにとって、重要なオフはもう始まっている。

文=大鳥敬太

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