準惑星エリスは予想よりも“柔らかい”? 氷の外殻に対流が生じている可能性

こちらは太陽系の準惑星エリス(Eris)とその衛星ディスノミア(Dysnomia)です。「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」を使って2006年8月30日に撮影されました。中央の明るい光点がエリスで、その左やや下にある小さな光点がディスノミアです。

【▲ 2006年8月にハッブル宇宙望遠鏡の掃天観測用高性能カメラ(ACS)で撮影された準惑星エリスとその衛星ディスノミア(Credit: NASA, ESA, and M. Brown (California Institute of Technology))】

直径はエリスが冥王星とほぼ同じ約2326kmで、ディスノミアは約700km。太陽に最も近い時でも約38天文単位(※1)、最も遠い時は約94天文単位も離れる楕円軌道を公転しているため、ハッブル宇宙望遠鏡でもこのような光の点としてしか捉えることができない天体です。2005年1月に発見されたエリスは「惑星」の定義を見直す動きにつながり、2006年8月に開催された国際天文学連合(IAU)の総会で冥王星(当時は惑星に分類)やケレス(同・小惑星に分類)とともに準惑星に分類されました。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)のFrancis Nimmoさんと、エリスの発見者の一人でもあるカリフォルニア工科大学(Caltech)のMichael Brownさんは、エリスの内部構造に関する新たな研究成果を発表しました。両名の研究成果をまとめた論文はScience Advancesに掲載されています。

【▲ 準惑星エリスと衛星ディスノミアの想像図(動画)】
(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser and Nick Risinger (skysurvey.org))

地球の月と同じように、ディスノミアはエリスの潮汐力によって自転周期と公転周期が約15.8日で同期しているとされています(潮汐ロック)。一方、エリスもまたディスノミアの潮汐力によって自転周期が変化し、現在はディスノミアの公転と同じ周期で自転しているとみられています。言い換えれば、エリスとディスノミアは互いに同じ面を向け続けていることになります。このような自転と公転が二重に同期した関係は冥王星とその衛星カロンにもみられます。

NimmoさんとBrownさんはエリスとディスノミアの自転と公転にみられる特性を利用して、エリスの内部構造を探るモデルを数か月かけて構築。電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」の観測で新たに得られていたディスノミアの上限質量の値を反映させて分析を行った結果、両名はエリスの内部が氷の表層と岩石の中心核(コア)に分化していると結論付けました。

また、岩石に含まれる放射性元素の崩壊熱が外部へ放出されていく過程で、氷の外殻には対流が生じている可能性も高く、エリスは従来の予想よりも“柔らかい”かもしれないといいます。硬い物体のようには振る舞わないというエリスの様子を、Nimmoさんは「ソフトチーズかそれに似たもの」と例えています。

【▲ 準惑星エリスの想像図。2011年10月公開(Credit: ESO/L. Calçada and Nick Risinger (skysurvey.org))】

エリスの内部構造を探る取り組みは、地球外生命の探索でも大きな意味を持ちます。従来の研究ではハビタブルゾーン(※2)に存在する惑星が重視されていましたが、近年では太陽から遠く離れた惑星を公転する衛星(木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなど)の内部にも潮汐力による加熱を熱源とする海が存在し、生命が誕生している可能性も指摘されています。冥王星やエリスのような氷天体の内部を知ることは、太陽系外縁部の生命居住可能性を理解する上で重要なのです。

NimmoさんとBrownさんは、今回の研究で使用されたモデルの検証や改良に役立つとして、より正確なディスノミアの質量の測定や、エリスによる恒星の掩蔽を観測することで得られるエリスの形状に関する追加のデータが得られることに期待を寄せています。

■脚注
※1…1天文単位(au)は約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。
※2…恒星などの周囲に広がる、天体の表面で液体の水を安定して保持できる領域。

Source

  • UCSC \- Dwarf planet Eris is squishier than expected
  • Nimmo and Brown \- The internal structure of Eris inferred from its spin and orbit evolution (Science Advances)

文/sorae編集部

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