僕がライブソナーを使わない理由 三原直之

トップトーナメントで証明され続けてきたライブソナーは、これまでのバスフィッシングの常識を根底から覆してしまうほどの破壊力を持っている。その影響力は競技アングラーだけでなく、リザーバーや琵琶湖で嗜む一般アングラーにも広く深く浸透しはじめている。バスをより多く釣るためには必須の武器、だれもがそう考える。しかし「試合で勝つためには絶対に必要ですが…」と、この流れに一石を投じるプロアングラーがいる。2023年JBトップ50選手で唯一ライブソナーを使用していなかったオンリーワン戦士、三原直之が独自のバス釣り哲学を語る。

●文:ルアマガプラス編集部

― Profile

三原直之(みはら・なおゆき)
鳥取県境港市出身。JBトップ50所属プロ。独学で研究を重ねたバスのフィーディングと得意なサイトフィッシングの複合技『フィーディングサイト』を武器に、トーナメントでも取材でも、ビッグバスを独自釣法で獲り続けるオリジナリティの塊。9月に行われたJBトップ50桧原湖戦では、全選手中唯一ライブソナーを搭載していない選手だったが、1848gのラージマウスでビッグフィッシュ賞を獲得した。

釣りのプロとして、40になっても50になっても飯を食っていくための、僕なりの選択です

― ライブソナーではめちゃくちゃでかい魚は釣れない

日米問わず、トップトーナメントでは完全に常識装備となったライブソナー(ガーミン・ライブスコープなどの総称)。

今年開催されたJBトップ50桧原湖戦では、ヒューマンでの教え子である河野正彦さんが借り物ながらライブソナーを導入したため、三原直之さんが最後に残された『ノンライブスコーパー』となった。

ライブソナーを使わない唯一のトップ50プロとして、何を考えているのかが非常に気になる。

ただの水温計です今年のTOP50第2戦小野湖で三原さんが搭載していたのはローランス・エリート7を1台のみ。戦略はシャローのサイトフィッシングだったため、ほぼ水温計としてしか使用していなかった。

三原「トーナメントを勝つために、戦っていくためには絶対必須条件になっていると思います。結果を求めるのであればライブソナーを使うことが大前提ですね」

淡々と、まるで他人事のように答える三原さん。ということは、もうトーナメントへの勝利にこだわっていないということなのだろうか。

三原「もちろん出場するからには勝つことを考えていますが、優先順位が違ってきました。目の前の1勝よりも、バスフィッシングや釣りのプロとして、これからも飯を食っていくことを考えるほうが僕の中ではウエイトが大きくなってきたんです。それもあと2〜3年食えればいいという話ではなく、できれば40歳になっても50歳になっても、釣りのプロとして飯を食っていきたい。トーナメントに勝つことによって名前やウイニングルアーが即物的に売れることも大事ですが、自分で新しいルアーを作ったりするほうが、これから長く釣りで飯を食うためにより大事なことだと思うようになったんです。だから、今は結果だけを追い求めることはしていないんです」

釣りで飯を食う=自分でルアーを作る、という方程式を求め始めた三原さん。勝つための最短距離としてのライブソナーの有効性は認めているが、自分の大きな目標の前では必須ではないという判断なわけだ。

三原「たとえばクランクを投げてリーリングすると、ライブソナーでは何mまでどんな角度で潜るというのが一発でわかるから便利、とは思うけれど、それがわかったからといって釣れるルアーかどうかは別問題。チェイスが見られるのもライブのよさだとは思いますが、どんなルアーでも最初はチェイスしてくると思うんです。なので答えはチェイスではなくバイトにあると思っています。バイトだったらライブソナーは関係ない。いいルアーだったらバスは食ってくれるはずですから」

ライブソナーの釣りを超簡単に要約すれば、画面にぼんやりと見えるサイトフィッシングのようなもの。サイトが得意な三原さんが使いこなす姿を見てみたかった気もする。

三原「何度か使ったことはありますが、僕の釣りとマッチする感覚はありました。でも、今の日本のバスフィッシング事情を考えると、僕が使うのはやっぱり違うな、という結論になったんです」

どういう事情だろうか?

三原「アメリカみたいにスポンサーがたくさんあって、賞金もでかくて、中継を見ている視聴者も多い、スポーツフィッシングとしてお金の関係で成立している関係があればいいんですが、日本はそうじゃない。日本では本来のスポンサーシップがあまり成立していないと思うんです。選手が食わせてもらっているのがメーカーとの契約金や物品で、そのメーカーを養っているのが製品を購入してくれる一般アングラーの方々。ということはバスプロ=一般アングラーに食べさせてもらっている、というのが僕の考えなんです。プロ野球でいうと、給料を払っている球団やリーグではなく、球場に見に来たりテレビで観戦しているお客さんに食べさせてもらっているという感覚。僕はバスプロとして『お客さん』に食べさせてもらっていると考えているので、これからもお客さんの手本になるような釣りをしていきたいと考えているんです」

一般アングラーでもライブソナーを導入している人は多くなったが、まだまだ一部のマイノリティ。三原さんが見ているのはその他大勢のメジャーアングラーなのか。

三原「月に1〜2回釣りに出かけられるサンデーアングラーの方が、ライブソナーを駆使しているプロの釣りを見て、参考になるかと言われれば難しい。ライブを持っている人なら多少参考になるかもしれませんが、プロの中でも本当に使いこなせている人はごく一部です。僕はそれよりも週に一度の釣行を楽しみにしている人や、通勤の行き帰りに野池にちょっと立ち寄って楽しんでいるようなアングラーの見本となりたい」

そういう一般アングラーの方ほど、ビッグバスを求めますよね。三原さんの釣りとリンクする部分は多そう。

三原「ライブソナーの猛者たちがよく言っているのは、『ライブでは特大サイズは釣れない』ということ。ライブがあればでかいのが釣れるわけではなく、ライブで釣れるバスは『ライブで釣れるような魚』だということでしょう。でかいバスほど多くの餌が必要だから、餌を食うときには効率を求める。ボトムに追い込む、水面に追い込む、ストラクチャーに追い込むなど、餌が逃げられないような追い方をする。バスがでかくなるほど、餌を多く獲れるようにより効率を求めると思います。ライブソナーで釣りやすい中層の釣りでは追い込めるものがあまりなく、ルアーを送り込んでも違和感が強くなる。だからデカいのが食ってくれない気がしますね」

第4戦桧原湖でビッグフィッシュ賞獲得
今年9月に行われたJBトップ50第4戦桧原湖では、2日めに1848gのラージマウスをキャッチしてビッグフィッシュ賞を獲得した。桧原湖最北端の流入河川深くに侵入し、レイジースイマー6inのショートジャークで、ブラインドで仕留めた。この試合はビッグフィッシュを獲ることを公言していたが、非常に数少ないラージマウスを有言実行してくるのはさすがの地力。

たしかにライブソナーで釣れるのは、中層のニュートラルなバスが多い気がします。

三原「元々食う気がない魚を狙っていることが多いので、マイクロベイトに寄っていくのは必然だと思います。最近ではマイクロだけじゃなくマイクロ+リアクションが必須の流れになってきているのは、それだけ無理やり食わせていることの証明でしょう。また、最近は誰もがライブのソナーを当てるから、強い音波を嫌がるバスが増えていると聞きます。その対策として、池原ダムのアングラーたちは一瞬だけライブの電源を入れて状況を把握して、すぐに電源を切って普通の釣りをする。この方法ならデカいバスが食ってくれることがあるみたいですね」

なるほど。今までのお話を伺うと、やはり三原さんにはライブソナーは不要な気がします。一撃55cm!というのがもっとも似合うアングラーですから。

三原「僕は僕の道を進みます。常に55cm以上のバスを狙っているので、このままでいいと思っています。そして本当に釣れるルアーを作りたい。商業的成功も大切だと思いますが、求められているのは本当に釣れるルアー、この一点だと思って進んで行きます」


※本記事は”ルアーマガジン”から寄稿されたものであり、著作上の権利および文責は寄稿元に属します。なお、掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。 ※特別な記載がないかぎり、価格情報は消費税込です。

© 株式会社 内外出版社