連載コラム【MLBマニアへの道】第13回:今オフ最大のトレードが成立 ソトをめぐる背景事情と両球団の思惑は?

写真:2対5のトレードでヤンキースへと移籍したソト

オフシーズンのビッグイベント、ウィンター・ミーティングを終えたMLBだが、この期間中に最大の大物選手である大谷翔平と山本由伸の契約が決まることはなかった。この2人の獲得に本気の数球団は、彼らの移籍が決まるまでは資金を動かしづらいという事情もあり、FA市場はやや動きが鈍っているというのが現状だ。

一方で、トレードの方では今オフ最大のブロックバスターが誕生した。ヤンキースがライバル球団のレッドソックスから外野手アレックス・バーデューゴを獲得した翌日に、今度はパドレスからスター外野手フアン・ソトをもトレードで獲得したのだ。このトレードは合計7選手が動き、ヤンキースはソトとトレント・グリシャムら2人の外野手、パドレスはマイケル・キング、ドリュー・ソープ、ランディ・バスケス、ジョニー・ブリトーら4人の投手に加え、捕手のカイル・ヒガシオカをそれぞれ獲得した。

25歳の左打者ソトは19歳でメジャーデビューを果たして以来、常にリーグを代表する強打者として活躍してきた。強打者の証であるOPS.900以上を6シーズンで5度記録し、シルバースラッガー賞は4度受賞している。最大の強みはリーグ最高峰の出塁能力で、デビュー以来出塁率は.400を割ったことがない。昨季はキャリアワーストの不振(それでもOPS.853を記録した)に陥ったが、今季は投手有利の本拠地を持つパドレスにあってキャリアハイの35本塁打を記録するなど、やはり素晴らしい打者であることを証明した。

ヤンキースはソトとグリシャムを獲得するにあたり5人もの選手を放出した。これ自体は大物選手のトレードにおいて珍しいことではないが、ヤンキースがパドレスに要求されるも当初出し渋ったと言われるキングとソープが入っている点には注目したい。ヤンキースはソトを獲得するためにパドレスの要求をのまざるをえなかったということだ。

実はこのトレードは本来なら「パドレスがどうしてもソトを放出したい」という背景の強いものだった。パドレスは財政上の問題を抱えており、今季MLB3位の2億5500万ドルほどだった巨額の年俸総額を2億ドル程度にまで削減する必要があった。しかし、マニー・マチャドやフェルナンド・タティスJr.など多くのスター選手を高額契約で抱えているパドレスは、コストカットのために放出できる選手が限られており、限られた選択肢の中で最も効果的だったのがソトの放出だったのだ。

ソトの来季予想年俸は3000万ドルを超え、FAまでは残り1年。パドレスはダルビッシュ有、ジョー・マスグローブ以外の先発投手がFAになるなど先発投手の複数獲得が必須で、先にソトを放出して予算の目処をつけなければまともな補強ができない状況だった。

そのため、今回のトレード交渉においても時間をかければ不利になるのはパドレスの方で、ヤンキースとしては相手の要求のほとんどをのんでまでこのウィンター・ミーティング中に決着をつける必要性は低いはずだった。一旦交渉難航に陥ってからのこの早期決着は、終盤に一時最下位に転落するなど苦しいシーズンを送った名門ヤンキースとしての意思表示だったのか、あるいは同じくソト獲得の噂があった同地区ブルージェイズに奪われるのを嫌ってのものなのか。いずれにしてもヤンキースの強い覚悟がうかがえる流れだった。

ソトは今季投手有利のホームでは打率.240、OPS.827だったが、アウェイでは打率.307、OPS1.026というMVP級のパフォーマンスを発揮している。ヤンキース本拠地ヤンキー・スタジアムではキャリア通算わずか7試合ながら4本塁打を記録しており、左打者有利な本拠地ということもあって移籍後は打撃成績がさらに伸びる可能性も高い。アーロン・ジャッジとソトは来季リーグ最強のデュオとして他球団を脅かすはず。ヤンキースは高い対価を支払ったが、来季に限ればそれに見合う戦力強化に成功したのは間違いないだろう。

一方で、ソトを放出したパドレスはチーム最高の打者を失ったことで得点力が大きく低下することになる。ソトの穴埋めができる打者は今オフでは大谷翔平くらいしかいないだろうが、財政状況を考えると獲得の可能性は限りなく低い。ソトは自身が100打点以上を挙げるだけでなく、高い出塁能力でチャンス創出にも大きく貢献していた。打線には数字以上の影響が出るかもしれない。

しかし、パドレスは来季を諦めたのかというとそういうわけでもない。先発投手の補強が必要だったが、今回のトレードにより4人の先発候補を獲得。キングは既に先発ローテーション入りが明言されているのに加え、有望株のソープも来季の早期ローテ入りが期待されている。元々いた先発候補も含めて、一気に投手層を厚くすることができた。しかも、こちらも補強予定だった控え捕手としてベテランのヒガシオカまで獲得している。

年俸削減という最大の目的を達成しながら、弱点だったポジションを的確に補強することに成功したパドレスは、来季に限れば得点力が低下したかもしれないが、編成上のバランスをとることはできた。予算ができたことで他のポジションの補強の可能性もでてきており、空いた外野には韓国の好打者イ・ジョンフ獲得に力を入れるという報道もある。来季を捨てたわけではなく、しっかりとポストシーズンを狙うための編成は行いつつも、2025年以降への期待感はむしろ増したと言えるだろう。

トレードに対する最終的な評価が下されるのは数年後になるだろう。しかし、来季に全てを賭けるための戦力を得たヤンキースと、来季への期待感を損なわず将来性を得たパドレスという構図でみると、現時点ではお互いの需要と供給がしっかり合致した好トレードだったと言えるのではないだろうか。

文=Felix

© 株式会社SPOTV JAPAN