旧大口病院事件 犯行当時の診断難しく 一審精神鑑定医・岩波明氏に聞く

昭和大医学部の岩波明教授

 15日に控訴審初公判が開かれる「旧大口病院点滴連続殺人事件」。争点は量刑で、特に精神鑑定をどう評価するかが判決を左右することになりそうだ。横浜地裁の公判では、裁判所から委託を受けた精神科医の岩波明・昭和大付属烏山病院病院長(同大医学部教授)が起訴後に約3カ月間、久保木愛弓被告(36)の精神鑑定を行った。当時の鑑定や、刑事司法における精神鑑定の課題について聞いた。

 ─2019年8月から11月まで久保木被告の精神鑑定を行った。

 「事件当時からおよそ3年が経過し、状況はずいぶんと変化していた。(久保木被告は)19年9月ごろには便器に雑誌を詰め込んで水浸しにしたり、翌10月には『複数の看護師が私の方を見て笑っている』とか『死ねなどと悪口を言っているのが聞こえる』などと言っていたりした」

 「幻聴や幻覚の症状を訴えるようになり、部屋の入り口にマットレスなどでバリケードを張って『誰も入ってくるな』と言ったり、毒が入っていると思い込んだせいか、拒食して体重が減ったりもした。廊下に向かって『助けてくれ、警察を呼んでくれ』などと言ったりもした」

 「症状を抑えるために投薬すると落ち着くようになり、投薬をやめると症状が激しくなった。精神鑑定した時点では統合失調症を発症していたと言っていい」

 ─では、犯行当時はどうか。

 「こうした状況を踏まえ、統合失調症の前駆症状の可能性があると診断した。非常に難しいケースだった。犯行時の発症の有無は断定できない」

 ─控訴審はどうなるとみるか。

 「その後、4年余り経過している。改めて精神鑑定を実施しているか分からないが、複数の鑑定結果が審理されることになるのではないか」

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