「(仮称)新福岡ビル」再開発の裏側キーパーソンに聞く・vol.3CIC福岡プロジェクト

2025年春に開業予定の「(仮称)新福岡ビル」。偶発性と多様性に満ち、新しいアイデアに出会える【創造を生み出す場】となることを目指してつくられた「創造交差点」というコンセプトを核に、再開発が進行中だ。

「(仮称)新福岡ビル」の開発に携わるキーパーソンたちに思いを語ってもらう本シリーズ。今回は、「(仮称)新福岡ビル」にスタートアップ向けのオフィススペースを中心としたイノベーションキャンパスの開発を手掛けるCIC(Cambridge Innovation Center)のプロジェクト・マネージャー・Ann Ryanさんとデザイン・リードKesia Limaさんにインタビュー。天神開発本部福ビル街区開発部課長・永井伸さんを聞き手に、世界各地でイノベーションの創出拠点を生み出しているCICの信条とデザインの魅力に迫る。

世界トップクラスのイノベーションキャンパスの運営者・CICとは

2025年に開業予定の「(仮称)新福岡ビル」の中層階にイノベーションキャンパスを計画するCICは、アメリカ・ボストンに本社を置く世界トップクラスのイノベーションキャンパスの運営者。世界中に拠点を構え、スタートアップ向けのオフィスを展開し、CIC入居企業がベンチャーキャピタル等から調達した資金は約7億ドル(2022年時点)に上る。アジアでは虎ノ門ヒルズビジネスタワーに入居する「CIC Tokyo」に次ぎ2拠点目として「 (仮称)CIC Fukuoka」の開設を計画している。

(仮称)CIC Fukuoka完成イメージ

「(仮称)CIC Fukuoka」のプロジェクト・マネージャー のAnnさんと設計やデザイン、施工などの領域を統括するデザイン・リードのKesiaさんは、2人でアイデアを共有しながらプロジェクトを進めている。2人は「(仮称)新福岡ビル」をどのように捉え、「(仮称)CIC Fukuoka」のコンセプト・デザインに落とし込んでいったのか。

左からAnnさん、Kesiaさん、外部デザイナー/コーディネーターのJaqueline Hagaさん

(永井さん)
CICが大事にしている信条について教えてください。

(Kesiaさん)
私たちが創造するのは、オフィスという機能だけではなくイノベーションを生むシステムです。ビジネスや人々が混じり合い、刺激を与え、共創を生む交流の場をつくりたいと考えています。

(Annさん)
特に大切にしているのは「フレキシビリティ」です。特定のユーザーのためだけにデザインするのではなく、誰にとっても快適なスペースをつくること。設備やスペースの使い方に柔軟性を持たせ、さまざまなイベントを通して出会いをつくる場所でありたいと考えています。

(永井さん)
お話を聞いて納得しました。CICがつくるオフィスは、他にはない特別な空間だと感じます。私自身、「CIC Tokyo」に来るたびにたくさんのエネルギーをもらっています。

いずれも「CIC Tokyo」イメージ

偶発性と出会いを生み出すCICの魅力

(永井さん)
「CIC Tokyo」や他の拠点で、CICの信条が特にわかりやすく表現されている部分を教えてください。

(Ann さん)
「CIC Tokyo」の15階のオフィスの廊下は、通路が入り組んでいて、あえて先が見えない造りになっています。各ブースの配置や曲がる角度も緻密に計算されているのです。これは、ユーザーに「先に進みたい!」と思わせて、偶発的な出会いを生み出すのがねらいです。

(Kesiaさん)
第一に考えているのは、人々の出会いの創造です。執務スペースや共用部、イベントスペースはコミュニケーションが生まれやすいデザインを前提に。また、コワーキングスペースにはドーナツ型の机をアイランド状に配置し、偶発的な出会いを起こすデザインになっています。

(Kesiaさん)
15階と16階にある「ベンチャーカフェ」をつなぐ階段のスペースも、「CIC Tokyo」ならではです。他の国のCICは、2フロアを空間的につなげることは考えませんでしたが、「CIC Tokyo」ではイベントスペースとしても使える階段で2つの空間をつなぎ、偶発的な出会いを創造する造りにしています。

「(仮称)CIC Fukuoka」のコンセプトと重なり合う「スカイロビー」

(永井さん)
「(仮称)CIC Fukuoka」のデザインを進めるにあたり、重点を置いたポイントは?

(Annさん)
CICは世界各国でオフィスデザインの実績がありますが、場所によって状況や求められるデザインは毎回違います。日本の場合は、東京と福岡、首都圏と地方の違いも考慮する必要があります。プロジェクト・マネージャーの立場としては、関係者とコミュニケーションを取りながらデザインを模索することが大事ですね。

(Kesiaさん)
KPFがデザインした6階と7階の「スカイロビー」のスペースと2つのフロアをつなぐ階段は、ビルのコンセプトを表現する重要なポイントです。

6Fと7F(仮称)CIC Fukuoka をつなぐ吹き抜けの階段
6F パブリックなコワーキングスペース

(Kesiaさん)
スペース全体としては、パブリックなコワーキングスペースのほか、カンファレンスホール(会議室)やコンビニ、ジム、カフェもあり、さまざまな人々の交流点になっています。CICとしては、オフィスを置くだけでなく、ビル内の他エリアとの化学反応が起こるような空間を展開して、ビル全体がひとつになって機能するデザインにしたかったのです。

(Annさん)
また、パートナーである西鉄が何を大切にし、何を求めているかを考えることも、私たちの重要な役割です。西鉄と細やかな意思疎通を図りながら、より良いスペースに仕上げていくことがポイントとなります。

その点では、ビルのオーナーと直接やりとりをしながら伴走できるチャンスは、他の案件ではめったにありません。最初から最後まで、これほど近い距離でプロジェクトを進められることは、私たちにとって貴重な経験です。

(永井さん)
私たちも同じ想いです。プロジェクトを進めながら、CICのアイデアによってビル全体がよりおもしろく、良くなっていると実感しています。「CIC Tokyo」の姉妹団体である「Venture Café」が企画されている「Thursday Gathering」のようなイベントも、ぜひ福岡で実現したいですね。

CICの姉妹団体である「ベンチャーカフェ」主催「Thursday Gathering」の様子

首都圏と地方の違い、福岡の魅力は?

(永井さん)
プロジェクトを進めるにあたって、お二人とも「福岡ってどんなところ?」とたくさん質問してくれてうれしく感じました。福岡の印象はどのように感じましたか?

(Kesiaさん)
みんなエネルギッシュで人懐っこい。オープンマインドな方が多いと感じました。東京とは違った良さがあると思います。

(Annさん)
同感です。福岡の人はあたたかい。プロジェクトチームのみんなも、いつも話しやすい雰囲気を醸成してくれて、すごくいいエネルギーが流れている。他にはない特別なチームです。

「(仮称)新福岡ビル」の完成をきっかけに、西鉄に新たなつながりをもたらしたり、次のビジネスチャンスを生んだりするお手伝いができればうれしく思います。

(永井さん)
福岡でのお仕事はいかがでしたか?

(Kesiaさん)
私たちの拠点のボストンから見れば、福岡は距離的には遠いのに、ここにくると、まるで家にいるような気持ちにさせてくれました。福岡をまだ知らない人々にも、「(仮称)CIC Fukuoka」を通してそんな温かい気持ちを伝えたいですね。

(Ann さん)
私も、来福するたびに本当に歓迎してくれている雰囲気が伝わってきて、うれしく思います。みなさんがボストンに遊びに来たときは、同じようにウェルカムしますから。笑

~取材後日~
ボストンにて、Annさんにウェルカムしてもらいました。

CIC Cambridge内のアートウォール。米国の慣用句「It is "not" rocket science=簡単なことだよ」をモジってある。ここには本当にロケットサイエンスのイノベーターもいる!
CICやマサチューセッツ工科大学のあるCambridge地区にあるモニュメント(訳:地球上で最もイノベーティブな一画)

2025年の「(仮称)新福岡ビル」開業に向けた想い

(永井さん)
「(仮称)新福岡ビル」は2025年の開業予定です。ビル全体および「(仮称)CIC Fukuoka」に、どんな場所になってほしいと思いますか?

(Annさん)
さまざまな人々が行き交い、集まるすてきなスペースになるのは間違いありません。私たちのつくった空間がどんなふうに使われるのか、この目でぜひ確かめてみたいですね。完成後に現地を訪問して、デザインのプロセスと対比しながら振り返るのも大切なんですよ。

(Kesiaさん)
今回のプロジェクトでは、関係者全員が良好な関係でつながっていると感じています。開業後、どんなことが起こるのか、入居する企業やビルを訪れる人々がどうつながっていくのかも楽しみです。

(永井さん)
私たちも、良い方向にコラボレーションが続いていくことを期待しています。

プロジェクトチームメンバーで

Kesia Lima さん

CIC Cambridge 本社
デザイン&コンストラクション部のデザイン・リード
アフリカ・カーボベルデ在住

Ann Ryan さん

CIC Cambridge 本社
デザイン&コンストラクション部のコンストラクション・プロジェクト・マネージャー
ボストン在住

永井 伸 さん

西日本鉄道株式会社
天神開発本部 福ビル街区開発部 課長

長年天神の街づくりに従事。現在は福ビル建替プロジェクトのオフィスやスカイロビー、ホテル計画を担当。

■ CICについて

ケンブリッジ・イノベーション・センター(本社:米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市)

CICは、起業家やスタートアップ企業の成長を支援するイノベーション・キャンパスの建設・運営を行うグローバルリーダーです。1999年にケンダル・スクエアに初めて設立された同社は、現在、米国、欧州、アジアにおいて合計9万平米以上の共有ワークスペース、ウェットラボ、イベントスペースを運営しています。世界各地のCICでは、スタートアップの成長に資する最高の環境を提供することを通じて、各地域の課題を解決しようとする起業家から、グローバルレベルの課題に取り組む起業家まで、営利/非営利の分類を問わず、累計1万社以上の多様なスタートアップの事業成長に貢献しています。

© 西日本鉄道株式会社