「VIVANT」監督・福澤克雄が魅せた、世界で勝つための“セオリー無視”の「新しい挑戦」とは?

2023年を象徴する大ヒットドラマといえば、社会現象を巻き起こしたTBS系連続ドラマ「VIVANT」で間違いないだろう。本作の原作から演出までを手掛けた福澤克雄監督は「半沢直樹」シリーズでも社会現象を起こし、「下町ロケット」「陸王」(すべてTBS系)などを次々とヒットさせてきた日本が誇るヒットメーカーだ。

なんと、その福澤監督自ら「VIVANT」を見ながら副音声で撮影の裏話や解説をしてくれるという、ファンなら見逃せない特別企画がスタートすることをご存じだろうか? それが、12月15日からU-NEXTで独占配信される『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』だ。

そこで、「なぜ、『VIVANT』はあんなにも大ヒットしたのか?」「考察ブームは予想していたのか?」などなど、気になる副音声の内容やドラマへの思いを、収録後の福澤監督に直撃取材した。

「ドラマを面白くするため、セオリーを破って『1話を捨てた』」

__――副音声を撮り終えての感想はいかがですか?

__「もう何十回も、ひたすら編集をやって、死ぬほど見てきたから、超飽きるかな~と思ったんだけど、そうでもなかったかな(笑)」

――そうですか! ということは、今回の副音声では、初出し情報なども盛りだくさんと期待していいですか?

「いろんなところで『VIVANT』のことをしゃべってるので、自分では、全然“初出し”情報はないと思っていたんだけど、結構新情報は多いと思いますよ。皆さんが、たぶん聞きたいだろうなーって思うような、今回ドラマ作りで新しく挑戦した話などを細かく入れた感じです。例えば『1話を捨てた』話とか…」

――え!? 「1話を捨てた」ってどういことですか?

「日本のテレビドラマの作り方って、いかに1話で視聴者を引きつけるか?という『1話勝負』がセオリー。1話でストーリーを動かして、『ここまでやりましたよ、さあ、どうだ面白いでしょ?』って、作り手は最大限のパワーをかけて臨むもの。でも、見てくださるお客さまは、ドラマの作り手の数倍上をいってるから、そういうセオリー通りの1話を見ると、『あぁ、はいはい。こうなって、最後はこうなって』と、だいたい予想がついちゃう。それが大失敗のもとで…。例えば、海外の面白いドラマは『何だかよく分かんないけど面白そう!』というように、何のドラマかが分からないように作っていたりするんですよね。だから、今回『VIVANT』も、話数が進んでいくうちにストーリーが動いてくるような作り方をしようと思って。僕も初めは、1話で乃木憂助(堺雅人)は“別版”だって分かるようにストーリーを作った方がいいかな…と思ったんだけど、『これ分かってたら、なんか面白くねえな』と思って。でも、物語が動かないから、映像で惹きつけなきゃならない。ってことは、つまり、お金がすごくかかるってことなんですよ(笑)。トラックでどんどん進んで行くとか、ヤギや羊を3000頭動かすとか、ウンコの中に役者を入れるとか、ああいうところを見せていく。そして、2話、3話ときて、4話で一気にドラマが変わる。普通の連続ドラマだと、4話でガクッと物語が停滞するところなんだけど、『VIVANT』は4話で一気に話が変わる作り方をした。ビビりながらですが、ある意味、すごい挑戦をしたんです」

「超豪華キャストがそろったのは、日本のドラマへの“危機感”から」

――なるほど! だから多くの人がハラハラ、ドキドキして惹き込まれていったんですね。“新しい挑戦といえば、堺雅人さん、役所広司さん、阿部寛さん、二階堂ふみさん、二宮和也さんなどなど、これまでのドラマの常識では不可能といえるくらいの、豪華で素晴らしいキャストがそろいましたね。

「キャストの皆さんは『日本のドラマは、もっと世界に出ていかないといけない』という共通した“危機感”を持っていたから、ご出演いただけたんだと思います。日本の場合、1億2000万人の国民を相手にドラマを作って、ある程度ヒットすれば、まあまあ儲かるシステムなんです。でも、例えば韓国の場合は、人口が5000万人だから国内向けに作ってもあまり儲からない。国民性もありますが、だから世界に打って出ていく。日本人はどうしても内向きで、海外に出て行かないじゃないですか。どうにかこうにか生きていけるし。でも、役者の皆さんにも『これからは、海外に出ていかないといけない』っていう気持ちがあったんだと思うんですよ。だから今回の『VIVANT』の『世界に向けて作っていきます』という志に、皆さん賛同してくださったのだと感じています」

制作費は“赤字”でも、ドラマ作りのノウハウの蓄積は“大黒字”!?

――“挑戦といえば、世界レベルの壮大な世界感を構築したこともあります。それを実現するための莫大な予算を持ってこられたのは、やっぱり福澤監督だからできたということですか?

「いや、赤字ですよ(笑)。でも、とにかく、みんな頭の中では分かってるんですよ、『このままじゃ駄目だ』というのは。だから、大変だと分かっていても『やってみよう』と思って作った。それはTBSドラマ部の“ノウハウの伝承”という意味もあります。大規模なドラマは予算管理がしやすいから、通常、外部の制作会社に任せることが多いのですが、TBSだけは基本的に社員が作るんです。そうすると、結構赤字が出ちゃったりする訳ですよ。でも、TBSでは、石井ふく子さんや久世光彦さんたちから脈々と伝承されてきた伝統あるドラマの作り方をストップさせないために、赤字になっても社員でドラマを作り続けてきた。今になってそれが生きてきたっていうことかなと思うんですよね。TBSには、大型ドラマを社員で“ボン”と作れるシステムがあり、ドラマ作りの技術もちゃんとあって、そういうものを大切にしなきゃいけないっていう“心意気”もある。だから『VIVANT』を作ることができたと思うんです。そして、そろそろちゃんと世界に向けて一歩出ていかないといけないという思いがあったので、今回『VIVANT』でやってみたということなんです」

脚本は“チーム制”。多くの“体験”からリアリティーを生む

――脚本家もチーム制で、複数の方で作っていったというのも“新しい挑戦かと思ったんですが…。

「脚本家を育てるという狙いもあったわけです。何人かの中から選ばれた3人の脚本家と一緒にストーリーを作っていきました。黒澤明監督などは、映画の脚本を4~5人で作っていたと、以前脚本家の橋本忍先生から聞いていて。でも、人数が多ければいいかっていうとそうでもなくて、誰か責任を持つリーダーが1人いないと、あっちがいい、こっちがいいって、いつになっても進まない。それでも、人数がいればいるだけ、みんなが経験してきた“人生”が増えるのがいいんです。『自分の人生にこういう人がいた、こういうキャラクターがいた』と実際に経験して見てきたことだと、リアリティに自信を持って描ける。だから“人生経験”は多い方がいい」

――脚本家のほかに、ディレクターも若手を海外ロケに連れて行ったとか。

「そうです。将来TBSを背負って立つであろうと思われる若いディレクター2人を、強引にチームに入れてやらせるっていう(笑)。激しい現場のドラマを経験すればするほど自信がつきますから。今回撮影に参加したディレクターは、羊を3000頭ぐらいは手配できるようになっています。トラックをバンバン走らせる撮影も経験し、パトカーを潰すのも6台ぐらい用意しておけば大丈夫とか、あとは、凹んだらトンカチで直せばいいんだっていう、数々のノウハウも学んだと思います。経験してるとドンドン大きなスケールで作れるようになるし、ビビらなくなる。そして、最後はドラマは体力だってことが分かる(笑)。ホームドラマしか撮ってないディレクターだったら、絶対考えられないでしょう?」

「考察ドラマを作っているつもりは全然なかった」

――オンエア中は、考察合戦が非常にヒートアップしましたが、SNS上の考察などは意識されていましたか?

「僕は別に考察ドラマを作る気は全くなかったんです。いろいろ考察されているのは見ていましたよ。1話でザイールが撃たれてるところを『超スローで見ると実は2発撃たれてる!』って出てるのを見た時は、正直『バレた! まずい』と思いましたよ(笑)。本当にぴったり当たっているものもあるし、『黄色の衣装は裏切り者の証』など、全然外れているのもあったりね。途中からは、あまりにも多すぎて見るのをやめましたけど(笑)。単純に視聴者を裏切りたくないという思いから、『実は乃木は別版だったので、あの時撃っていたんですよ』っていうのをちゃんと見せるため、ある程度一応見せてたという感じで作っただけなので。まあ、だからこそ、考察ドラマって言われるようになったかもしれませんが。次に作ることがあっても『考察班に絶対バレないように作る!』ということは一切考えずにやると思います」

「堺雅人さんや役所広司さんたちが中心にいたから脇役も輝いた」

――このドラマは主要人物はもちろん、隅々のキャラクターまで大変魅力的に描かれてましたが、副音声付きで2回目、3回目に見る時に注目してほしい、監督の“推しキャラはいますか?

「推しキャラは…全員ですよ(笑)。『なんでこんなに人気が出たんだろう?』って思ったのは、ドラマの中では、ちょっとゲスい役だった迫田孝也さんが演じた丸菱商事の同僚・山本巧と、河内大和さんが演じたバルカ共和国・外務大臣のワニズ。迫田さんは非常にいい芝居をしていただいたし、河内さんも素晴らしい芝居でインパクト与えてくださって本当によかったなと思ってます」

――バルカ共和国の警察官・チンギス(バルサラハガバ・バトボルド)と、警視庁公安部の野崎守(阿部寛)をサポートするドラム(富栄ドラム)も、すごく人気が出ました。

「人気が出るとは思ってたけど、ここまでとは予想していなかった。でもやっぱり、それは軸にいる堺雅人さんがビシッとした演技をしてくださって、さらに役所広司さん、阿部寛さんがいてという、主要メンバーがしっかりしてたからこそだと思います。今回のドラマで一番難しかった役は、やっぱり堺さんが演じた乃木ですよね。二重人格を演じ分けて、撮影も、乃木をやったりFをやったりと交互に撮影していったので、大変だったろうなと思いますね。役所さんも、ノゴーン・ベキという、ちょっとうさん臭いというか、訳分かんない感じのキャラクターなんだけど、役所さんにやっていただいたおかげで、視聴者はみんなスッと入り込めた。非常によかったなというか、はっきり言って助かりました。『役所さん、ありがとうございました』という気持ちです。あとは何げに難しいと思ったのは、二宮和也さんが演じたノコル。嫉妬心に燃えるところを描きながら、父親への尊敬の念もあり、まだ成人しきってない、なんともいえない青年の雰囲気を、とてもよく表現してくださって助かりましたね」

――さて、最後になりますが、『VIVANT』は、福澤監督の“集大成という表現を使うメディアもあったりしますが、ご本人は「やり切った」という感じはあるのでしょうか?

「いや、全くないですね。もうすぐ定年なので、いいきっかけだし、『ドーンとやっちゃおうかな』って思っただけなんですよ。やりたかったのは、『1年以上しっかりと考え抜いて、お金はかかっても、いいものを作れば、売上が大きくなっていく』というようなドラマ作りの道筋をつけること。なので、僕はこれからも作り続けますよ。ほかのテレビ局も続いてくれればいいんですけどね」

【プロフィール】

福澤克雄(ふくざわ かつお)
1964年、東京都生まれ。1989年にTBS入社。テレビドラマのディレクター・監督、映画監督として数々のヒット作を手掛ける。代表的なドラマ作品に『半沢直樹』『下町ロケット』『陸王』『VIVANT』(すべてTBS系)などがある。

【番組情報】

「VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~」(全10話)
U-NEXT Paraviコーナー
12月15日午後0:00から3週にわたって独占配信
1-4話 12月15日 午後0:00/5-7話 12月22日 午後0:00/8-10話 12月29日 午後0:00
※配信スケジュールは変更になる可能性あり。

【「VIVANT」関連作視聴はこちら】https://www.video.unext.jp//series/SRS0005892

© 株式会社東京ニュース通信社