ブラックフライデーの過激な大量消費主義に、欧米の企業・ブランドが反旗の動き強める

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米国から今や世界中に広まった「ブラックフライデー」。本格的なクリスマス商戦の初日にあたる感謝祭の翌日(11月第4金曜日)のことで、大規模なセールやキャンペーンが開催される。しかし近年、こうした過剰消費をあおる風潮に賛同しない企業や消費者による「反ブラックフライデー」の動きが広がっている。ブラックフライデーに疑問を呈する各企業・ブランドは、実際にどのような取り組みをしているのだろうか。欧米を中心に具体的な動きを紹介しよう。(翻訳・編集=茂木澄花)

ブラックフライデーには、常軌を逸した大幅値下げや期間限定特典、土壇場まで購入をあおる仕掛けが組まれる。消費者は「節約(save)」の名のもとに、1円でも多く金を使うことを迫られる。ブラックフライデーはもはや過剰消費と無駄な買い物の代名詞だ。反ブラックフライデーの動きは、ブラックフライデーによる環境への悪影響と商品廃棄に反対するとともに、欲望のままに買い物をするという考え方自体にも異を唱える。

ブラックフライデーに反発する考えとその主張を最初に人々に浸透させたのは、パタゴニアの広告だろう。同社は、2011年のブラックフライデーにニューヨークタイムズ紙に掲載した一面広告で、「このジャケットを買わないで(Don’t buy this jacket.)」と呼びかけた。以来、パタゴニアはこの精神を打ち出し続けてきた。ブラックフライデーの熱狂から距離を置き、自社の価値観に沿った生活を送るよう顧客を促している。「すでに持っているものを修理すること。中古の用具を買い求めることで、それらがゴミとして埋め立てられるのを防ぐこと。新しい衣類や用具が必要なときには、長く使えるように作られたものを買うこと」を推奨する。また「パタゴニアでは、時間、お金、スキルを、あなたにとって一番重要な課題に寄付できる方法も提供」している。

米アウトドア用品店のアールイーアイ(REI)は、2015年に独自のブラックフライデー対抗策を開始した。感謝祭とブラックフライデーはすべての店舗を休業とし、代わりに「#OptOutside(オプト・アウトサイド、アウトドアを選択する)」のための補助を従業員に支払う。「#OptOutside」は、家族や友人とアウトドアを楽しむという取り組みで、年々広まっている。今年は協同組合がこれを公式の政策に定め、他の小売業者にも後に続くよう呼び掛けを続けている。

反ブラックフライデーの動きは「グリーンフライデー」などとも呼ばれている。これに参加するには、パタゴニアやアールイーアイの例に倣い、過激な大量消費主義による熱狂から距離を置けばよい。買い物をする場合は、注意深くサステナブルな購買決定を行い、可能な限り地域に根差した買い物をすることで、ブラックフライデーに逆らうことができる(「地域に根差した」というのは、単に地元の大規模店舗で買うということではない)。

小さな企業が大きな成果を上げる

しかし、小規模な企業が反大量消費主義のキャンペーンを行ったとして、どれほどの効果が見込めるだろうか。サステナビリティの専門家であるション・コンウェイウッド氏は次のように指摘する。

「グローバル企業のような広告費やリーチを持っていなければ、社会規範に対抗する主張をしても、大きな影響を与えるには力不足に思われる。しかし、ホリデーシーズンに入ると多くの人が買い物をするという現状において、小規模なブランドにもチャンスはある。サステナブルな考えを持つブランドは、従来型の競合他社よりも優れた商品の環境的・社会的なメリットを強調することで強みを発揮できるのだ」

このアプローチを取っている企業に、英スクラミ(Scrummi)がある。サステナブルな生分解性の繊維製品をヘアケア・美容産業向けに生産している。同社は「ブラックフライデーなんて、インチキだ(Black Friday is bullsh**t)」というメッセージを掲げ、環境にやさしいという製品のメリットを強調することでブラックフライデーの概念に対抗している。

スクラミのマネージング・ディレクターを務めるロバート・クーパー氏は、業界誌のSalonEVOに対して次のように語る。

「当社は、ブラックフライデーは間違っていると考えています。当社のミッションは、ヘアケア・美容産業の環境への悪影響を小さくすることであり、過剰消費や不要な買い物を促すことではありません。当社の製品を、地球の破壊の一端を担うためではなく、環境への悪影響を小さくするために役立ててください」

他にも次のような企業がこのアプローチを採用している。

●スウェーデンのアウトドア衣料・用具ブランドであるフェールラーベンは、顧客にブラックフライデーを「長期投資フライデー(Long-Term-Investment Friday)」と置き換えて考えるように勧めている。「当社が知っているのは、タイムレスで長持ちする丈夫な製品を作る方法だけ」だからだという。

●オランダの「ホーム&ボディ化粧品」ブランド、リチュアルズは「グリーンフライデーを祝う」という形で、詰め替え商品の特別値引きを行う。過剰な包装の削減を促すためだ。また、詰め替え商品が1点売れるごとに「1本の木を植えるか、保護するか、再生する」という。

●米国の「アブノーマル」なスキンケア企業、デシエム(Deciem)はここ数年間「スローな11月(Slowvember)」イベントを行うことでブラックフライデーを避けてきた。このイベントは、ゆっくりと自分のスキンケアのニーズ、目標、健康管理について考え、情報収集することを顧客に促すものだ。「Slowvember」の期間は、同社が展開するブランド(Niod、The Ordinary)の全ての商品が23%オフで販売される。期間は11月いっぱい(ただしブラックフライデー当日は除外で、店舗とウェブサイトが閉鎖される)。

●豪州の男性用スポーツウェアブランドであるゼインローブ(Zanerobe)は、米国の環境団体ワン・ツリー・プランテッド(One Tree Planted)と提携する。オンラインでの注文1件につき1本植樹することで、CO2排出のオフセットにつなげている。

ブラックフライデーの収益を寄付する

ホリデーシーズンに散財する風潮を受け入れて、自社のコーズに活かしている企業もある。以下がその例だ。

●米国の女性向けアパレルブランドであるエバーレーンは、2014年に「エバーレーン・ブラックフライデー・ファンド(Everlane Black Friday Fund)」を立ち上げた。目的は、取引先を支援し、「業界をより良くする」ことだ。今年、同社はニュージーランドメリノ・カンパニー(責任あるリジェネラティブなウール供給を行う世界有数の企業で、エバーレーンの「Good Merino Wool」製品向けのウールを開発した)と提携している。今年のブラックフライデーでは、100ドルの購入ごとに、収益が「ニュージーランドの66匹の羊のためのリジェネラティブな放牧を促進する」ために使われるという。「目標は5万ドル。これは3万3000匹の羊のための、より“グリーン”な牧草地に相当する」とのことだ。

●英国のアパレルブランド、ルーシー・アンド・ヤク(Lucy & Yak)は、11月21日に人気のオーガニック商品「Original Dungaree (オーバーオール)」の限定柄を発売した。慈善活動で提携しているインドの団体フィオル・ディ・ロト(Fior Di Loto)と同ブランドの長年の関係性を記念したものだ。過剰消費を促すのではなく、ポジティブなインパクトを支持することによって、ブラックフライデーに異議を唱える継続的な取り組みの一環である。この商品の利益はすべてフィオル・ディ・ロトに送られ、より多くの女子に教育の機会を提供するために使われる。同団体は、北西インドの村に住む700人以上の女子に教育の機会を提供し、生活を改善できるよう取り組んでいる。またルーシー・アンド・ヤクは、ブラックフライデーのセール期間(11月21~27日)の総利益の半額を同団体に寄付する。この寄付の取り組みは、2018年から「フィオル・ディ・ロト・フライデー」として行ってきたものだ。

●ウェブサイトの翻訳ソフトを展開するフランスのウィーグロット(Weglot)は、ブラックフライデーとサイバーマンデーの収入の50%を寄付する。今年で4年連続となる取り組みだ。

●米国の女性用アパレルブランドZサプライ(Z SUPPLY)は、ブラックフライデー、サイバーマンデー、ギビングチューズデーにおけるオンラインのすべての利益を「Z SUPPLY Foundation Education Fund」(同社の教育基金)に配分する。今年は新たな取り組みとして、このキャンペーンを支援するためのオンライン限定商品、グラフィックTシャツとスウェットをデザインした。

循環を推進する

修理や中古品販売によって、商品の寿命を延ばしているブランドやプラットフォームがある。買い物をする場合、新品を買うのではなく、これらを支持することが最善策の一つだと言える。一部の例として次のようなものがある。

●米国のファッションフリマサイト、ポシュマーク(Poshmark)は、年に1度の「Secondhand Sunday (ユーズド品の日曜日)」を11月26日に開催した。今回が2度目の開催で、大量消費を控え、ユーズド品を購入するよう買い物客に促すのが目的だ。これにより、環境の持続可能性と個人出品者の生計を支援する。今年のSecondhand Sundayに合わせて、ポシュマークは人気機能「Posh Show」を活用し、バーチャル・ショッピングのライブ配信イベントをいくつも行った。ホリデーシーズンのギフト需要で買い物をする顧客によるユーズド品の購入を促進するためだ。同社は、当日の配信中の1件の購入に対し1ドル、最大1万ドルを提携先のヴェリトリー(veritree)に拠出し、米国とカナダの植樹プロジェクトの資金に充てると発表した。

●ドイツのオルトリーブは「再購入より修理を(repair rather than rebuy)」のイニシアティブを掲げる。同社は、製品の耐久性とサステナビリティに定評がある防水バックパック、荷台用バッグ、旅行用バッグなどのバイク用品メーカーだ。ブラックフライデーの大量消費主義の風潮が高まったことを受け、2022年に年に一度の「リペア・ウィーク」を開始。これを、2023年も11月13日から12月3日まで実施することを発表した。この期間、5年間の保証期間を過ぎたすべての製品の修理サービスを、通常の修理費の40%引きで提供する。

●英国のブランド、ビボベアフット(Vivobarefoot)は、中古の靴を購入できる「Revivo」というプラットフォームを展開する。使用済みの靴に特化したEコマースの仕組みは業界初だ。Revivoでは、顧客から返却された靴が熟練の技による修理を経て再販売される。これにより、ゴミとして埋め立て処理される悲惨なサイクルを回避することができるのだ。2022年度から2023年度にかけて、4万2000足の靴がRevivoで生まれ変わった。

このように、ブラックフライデーの過剰消費を支持しない企業は、それぞれの形で自社の姿勢を示している。断固としてブラックフライデーを回避するだけでなく、サステナブルな商品を販売したり、売上を寄付したり、修理や再利用を促進したりとその手段は多様だ。今後も、各企業のブラックフライデーへの関わり方に注目が集まりそうだ。

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