9年ぶりのニューアルバム『HOLLOWGALLOW』を発表したdipが、ЯECK、田渕ひさ子、細海魚をゲストに迎えたツアー・ファイナルを開催!

Photo:Emily Inoue 日本を代表するオルタナ・ギター・ロック・バンド、ヤマジカズヒデ率いるdipの9年ぶりのニューアルバム『HOLLOWGALLOW』のリリースを記念したツアーのファイナルが、12月5日(火)東京・渋谷CLUB QUATTOROで行なわれた。そのオフィシャルレポートが到着した。

バンドとしてのスケールが一段と大きくなったような印象を抱いた『HOLLOWGALLOW』リリースツアー・ファイナル

dip9年ぶりの新作『HOLLOWGALLOW』のリリース・ツアー、福岡京都大阪と回っての最終日は東京・渋谷クアトロ公演である。 dipのクアトロ公演も久しぶりだ。今回は『HOLLOWGALLOW』にもフィーチャリングされたЯECK、細海魚、田渕ひさ子をゲストに迎えた特別篇だ。この日演奏されたのは『HOLLOWGALLOW』の全曲(12曲)を含む全20曲。新作発売の1週間前のライヴで、観客にとって演奏された曲の多くは馴染みのないものだったはずだが、2時間半近い長丁場を少しも飽きさせず、ダレた雰囲気は一切なかった。

▲ナガタヤスシ(bs / Photo:Emily Inoue)

▲ナカニシノリユキ(ds / Photo:Emily Inoue) 出音の良さに驚く。ふだん下北沢や高円寺のライヴハウスで聞いているdipの音に比べ厚みと広がりがあり、バンドとしてのスケールが一段と大きくなったような印象さえあった。それに伴ってバンドの音はいつにも増してアグレッシヴでエネルギッシュで力強い。『HOLLOWGALLOW』はdipらしい長尺のサイケデリック曲を中心に泥沼にハマるようなドープでヒプノティックな一作となったが、この日はそれに加えビートの強さとグルーヴが感じられた。それがもっとも顕著に表れたのはЯECKがギターで参加した2曲だ。

▲ЯECKとヤマジカズヒデ(gt, vo / Photo:Emily Inoue) ЯECKはもちろんフリクションのベーシストだが、元々ギタリストであり、ギターには並々ならぬこだわりがある。そのプレイの根本にあるのはビート。特にロックンロールの基本とも言えるバックビートの感覚だ。この日ЯECKが演奏に参加し裏打ちのリズム・ギターをプレイし始めた瞬間、演奏がグルーヴし始めたのが手に取るようにわかった。ミニマルで繰り返しが多いのが最近のdipの音楽の特徴だが、クラウト・ロックのような単調なフレーズのリフレインに次第に感覚が麻痺して、いわゆる「ハマっていく」状態になる、そこにЯECKが持ち込んだバックビートの感覚が演奏を一気に加速する。ЯECKはよく「音が回る」という言い方をするが、バンドの演奏が直線的な縦ノリのロックだけでなく横揺れにロールしていく。実際にテンポがあがったと錯覚するほど白熱したプレイに、フロアも一気に沸騰する。

▲細海魚(Photo:Emily Inoue) 細海魚はdipのアルバムでもライヴにも何度か参加しているし、ヤマジカズヒデ・ソロでも共演経験がある。バンドのリズムにあわせて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらキーボードを弾く。3ピースのモノトーンのdipの演奏にカラフルな味付けを施したり、ドローン的なシンセサイザー重ね、さらにバンドの音はディープになっていく。そしてヤマジのギターに影響を受けたと公言する田渕ひさ子はリフとリズム中心に弾くヤマジに対してちょっとしたフレーズを織り込んだり、時に絡み合うようにカッティングしたりと、dipと初のライヴ共演とは思えない抜群の相性。dipの演奏をより濃厚に、攻撃的に、パワフルにしていたように思う。田渕はこのままdipに加入したほうがいいんじゃないだろうか(笑)。

▲田渕ひさ子と共に(Photo:Emily Inoue)

▲田渕ひさ子と共に(Photo:Tetsuro Sato) 新譜からの楽曲を中心にした攻めのセットリストだったが、後半には過去曲もプレイ。メンバー3人だけで演奏された「Garden」「Delay」といった彼らの叙情的な面をあらわす楽曲はいまもなお瑞々しく響く。メロディアスなソングライターとしてのヤマジの才能を再認識した。 アンコールは「冷たいぐらいに乾いたら」「Lust for Life」と、東芝EMI時代の初期曲をプレイ。ファンサービスの意味合いも大きかったはず。2曲とも田渕ひさ子が参加していたが、ナンバーガール結成前夜に熱心に聞いていたであろう「冷たいぐらいに乾いたら」をプレイするときの笑顔が印象的だった。そしてアンコール最後はドアーズのカヴァー「Break on Through」で終了。

▲田渕ひさ子と共に(Photo:Naoki Anzai) 会場は満員。観客の反応もすごくて、かつてのひっそりと静かなライヴを思うと隔世の感がある。死ぬほど知り合いに会ったし、いろんな人に声をかけられた。たぶんしばらくご無沙汰だった人や初めて見る人もたくさんいたはずだ。それを感じてかメンバーの気合いもいつも以上に入って、テンションの高い演奏になっていたと思う。 正直、結成32年目に突入したdipを巡る状況がここにきてこんなに盛り上がるとは思わなかった。今のdipはどこにも属さずセルフマネージメントでバンド自身がすべてを仕切って運営されており、新作『HOLLOWGALLOW』もバンドが原盤を持つ自主制作に近い作品だ。希代のめんどくさがりであるヤマジカズヒデがこんなにやる気になっている。2024年は2023年より良い年になるはずだ。たぶん。(Text:小野島大)

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