J-POP 男性シンガーが歌う【90年代のクリスマスソング】名曲ベスト5をプロが厳選!  ぼっち系のシチュエーションばかり?男性シンガーが歌う90年代クリスマスソングの名曲を紹介!

男性シンガーのクリスマスソングにはぼっち系のシチュエーションが多い?

気のせいかもしれないが、女性シンガーのクリスマスソングはハッピーな楽曲が目立つ。逆に、恋人に振られて1人過ごしたり、去年の恋を思い出してしみじみ聖夜を噛み締めるクリスマス、というぼっち系のシチュエーションは、男性シンガーのクリスマスソングに多いように思えるのだ。今回は順不同で90年代の男性シンガーが歌うクリスマスソング厳選5曲をお届けしたい。

女性シンガーの場合、松任谷由実の「恋人がサンタクロース」という決定打が存在するため、その流れでハッピーな傾向になりがちなのだろうか。そして、男性シンガーの場合も、山下達郎「クリスマス・イブ」というやはり決定的な1曲が存在するので、なかなかその呪縛から逃れ難いものがあるのかもしれない。その意味では、クリスマスとは女性がときめく幸せな1日、男性にとっては失意の…あるいは猛烈にプレッシャーのかかる冬の1日なのである。

稲垣潤一が歌う、男の失恋クリスマスソングの代表作

「メリー・クリスマスが言えない」稲垣潤一(1990年)

前述の山下達郎「クリスマス・イブ」、そして86年の杉山清貴「最後のHolly Night」と並ぶ、男の失恋クリスマスソングの代表作。稲垣潤一が90年に発表したこの曲、1年前は2人で見つけたレストランを予約し、港の汽笛を聴きながら乾杯したという、超ベタなシチュエーションながら、今年は1人思い出に浸り、「あの夜のワインでなければ乾杯できない」と、主人公は未練がましい愚痴を呟く。

別れの理由を明確に描いていない点が、ありがちな去年の出来事と相まって、聴き手がそれぞれに思いを馳せることができるのだ。これぞシティポップ的な作風だが、作詞の秋元康は、当初シティポップの作詞家として世に出ている。80年代半ばからおニャン子クラブや小泉今日子、本田美奈子などの諸作品で、コンセプト重視の企画物的な作品を連打し一時代を築いたが、90年代に入り元のシティポップ的作風に回帰。その時に必要としたのは、秋元の出世作「ドラマティック・レイン」を歌った稲垣潤一だったのだろう。

稲垣は92年にも秋元康の作詞による「クリスマスキャロルの頃には」を発表し、こちらはチャート1位の特大ヒットになっている。ただ、これは厳密には倦怠期のカップルが「クリスマスまで距離を置いて、互いの今後を見つめ直す」といった、モヤッとする苦いラブソングなので、男のセンチメンタルを表現するクリスマスソングとしてこちらを選んだ。

悲劇の連鎖が起こる槇原敬之の大失恋ソング

「涙のクリスマス」槇原敬之(1992年)

槇原敬之の、92年6月にリリースされたアルバム『君は僕の宝物』に収録されたクリスマスソング。同年10月25日発売のシングル「北風〜君に届きますように〜」のカップリングにも収録された。

片想いしている恋人が、偶然街で別の相手と笑顔でほころんでいる姿を見てしまったイブの街角。家に帰るとポストには友人からのカードが1枚。渡すはずだったプレゼントの行方は…と、悲劇の連鎖が起こる大失恋ソング。元は槙原が高2年の時に作った楽曲がベースになっている。

槇原敬之の楽曲は、シチュエーションや人物造形、登場人物の行動が具体的過ぎる上、しっかりした発声なので言葉がダイレクトに届き、映画のワンシーンを見ているかのようにリアルな心情が胸に迫ってくる効果がある。ゆえに聖夜の失恋という状況は、痛いほど主人公の気持ちが伝わってくるのだ。同じような経験をした男性には、逆にクリスマス時期に聴くのがツライ…と思わせるほどの効果がある。

槇原敬之は、93年にも「雪に願いを」というクリスマスの名曲があり、こちらはみんなが幸せになるようにと願う博愛的な内容だが、実のところ主人公は、これまたぼっち状況なのである。

岡村靖幸の陰キャな青年をサポートする応援ソング

「Peach X'mas」岡村靖幸(1995年)

鬼才・岡村靖幸にかかれば、クリスマスもこんな風景になる。キラキラしたメロウなR&B サウンドに乗せたワードは、陰キャな青年が、勇気を出して告白に挑む姿をサポートする応援ソング。主人公と告白男は親友の関係なのだろう。ぼっちのクリスマスを回避したい、男のプレッシャーが強烈に発動した歌だが、岡村ちゃんに励まされても、この恋が成就する可能性は低そうに思える…。それが証拠に、

 だめだったならば ハッピークリスマス  今夜電話してこいよ  来年の作戦考えようぜ

ーーと最後に保険をかけてくれている。岡村ちゃんは男の味方、優しいヤツなのだ。

「恋人がサンタクロース」になり損なった男の悲哀が胸に迫る角松敏生の名曲

「サンタが泣いた日」角松敏生(1991年)

モテ男・角松敏生にも悲恋のクリスマスソングがある。91年12月16日に発表された19枚目のシングルで、同年12月4日にリリースされたバラードベスト『TEARS BALLAD』からのリカット。元は浅野祥之が作曲したインストナンバーに角松が詞を載せて完成したもの。鈴の音とジングルベルの響きで始まるイントロから一転、温かくも切ないワルツのリズムに乗せ、フィル・スペクター風音壁サウンドが一層、クリスマスの雰囲気を醸し出す。

だが、内容はジャケットの通り失恋男をピエロに見立て、一人芝居の切なさを思い切り滲ませている。花束を抱えて恋人の元へ思いを届けに来たが、部屋で恋人が別の誰かとキスしているのを目撃、「恋人がサンタクロース」になり損なった男の悲哀が胸に迫る。

角松は、85年に発表した「No End Summer」もファンの間ではクリスマスソングとして人気が高い。こちらは歌詞の一番で夏の終わりの切なさに思いを馳せ、2番ではクリスマスシーズンに変わり、あの時の夏の思いをもう一度蘇らせよう、2人の愛は永遠だからという優しさに溢れたナンバー。

浜田省吾、ハートウォーミングな大人のクリスマスソング

「永遠の恋人」浜田省吾(1992年)

フラれてばかりでもクリスマスが辛いものになってしまうので、最後はハートウォーミングな大人のクリスマスソングを。1992年12月12日に発売された浜田省吾のシングル「アヴェ・マリア」のカップリング曲として収録された。クリスマス時期に相応しいシングルとなったが、03年にはバラード集『初秋』にもセルフカバーで再レコーディングされている。

哀愁漂うミディアムテンポのナンバーで、シンプルな歌詞ながら、近くにいても遠く離れても、常に恋人を思う気持ちを、聖夜の夜に独白するラブソング。

浜田省吾はロックシンガーの側面を持つ一方、バラディアーとしても数々の名曲を手がけており、特にバラード曲は女性ファンの人気が高い。また、浜田のクリスマスソングは、「MIDNIGHT FLIGHT〜ひとりぼっちのクリスマス・イヴ」や「SENTIMENTAL CHIRSTMAS」など何曲もあるが、直球の求愛ソングとしてはこの作品が白眉だろう。

カタリベ: 馬飼野元宏

アナタにおすすめのコラム J-POP 女性シンガーが歌う【90年代のクリスマスソング】名曲ベスト5をプロが厳選!

▶ クリスマスソングに関連するコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC