見えなくても書を楽しむ 東京の書家が「凸印刷カレンダー」制作 毛筆は感性に訴えるものがある

「凸印刷カレンダー」を沖縄盲学校の内間秀樹校長(右から2人目)に寄贈する峰雲書道院の宮里泰翠副会長(同3人目)と砂川桂峰理事長(右)=11月29日、南風原町新川の同校

 【那覇】「目が見えなくなっても、書道を楽しむことができないか」。東京在住の書家、池山光〓(こうしゅう)(永津子)さんは筆で書いた文字を立体化することで、目が見えない人が文字の感触を味わったり、作品鑑賞を楽しめたりするような「触覚書道」を進めている。このほど、クラウドファンディングで支援を呼びかけて「凸(でこ)印刷カレンダー」を制作した。交流がある書道団体「峰雲書道院」(那覇市)の書家たちはその活動に共感。カレンダーを購入し、沖縄盲学校に寄贈した。(社会部・吉田伸)

 池山さんや峰雲書道院の書家たちは、全国的な書道団体「書道玄海社」で交流してきた。玄海社の三上栖蘭(せいらん)会長は数年前、緑内障の影響で失明した。

 「光を失い、一度は書を諦めた」と語る三上会長。見えなくてもまた筆を執りたいという師の思いに、池山さんは心を動かされた。「何度も練習を繰り返し、書き上げる姿は多くの人に勇気と希望を与える」とカレンダー制作を発案した。

 池山さんの友人の幸喜石子さん(71)=那覇市=はその取り組みを聞き、感銘を受けた。自身が所属する峰雲書道院の理事たちに賛同を呼びかけた。

 「希望」と題した2024年のカレンダーはA3判で7枚。三上さんが書き下ろした「寿」「真」などの書は、筆さばきによるかすれやにじみなど、墨の量が変化する様を指で感じることができる。カレンダーの下部に印刷された日付や文字も全て盛り上がった特殊な印刷で作られている。

 砂川桂峰(けいほう)(榮)理事長(79)=浦添市=は「指先で書の感覚を感じてみるのは初めてで衝撃だった」と話す。宮里泰翠(たいすい)(朝尊)副会長(84)=西原町=は「退職後に視力を失い、困っている知人がいる。カレンダーや触覚書道の考えを広く紹介したい」と、盲学校への寄贈を提案した。

 11月29日、砂川理事長と宮里副会長が南風原町の沖縄盲学校を訪れ、購入したカレンダー11部のうち10部を寄贈した。

 内間秀樹校長は「毛筆の柔らかい感覚は感性に訴えるものがある。寄宿舎に飾り、生徒たちに触れてもらう」と感謝した。

※(注=〓はへんが「王」でつくりが「秀」)

凸印刷のカレンダー。「寿」の字のかすれ、日付も数字も手で触って感じることができる

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