「メキシコに送り返す」不法移民を逮捕する新法案にテキサス州知事が署名 来春施行へ

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

Andrea Piacquadioによる写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/932352/

アメリカでは、亡命を求めて違法越境する移民が急増し大きな社会問題となっている。国内で特に手を焼いているのが、メキシコとの国境があるテキサス州やフロリダ州など南部の州だ。

そんな中、テキサス州がバイデン政権の政策を待っていられないと、独自の行動に出た。グレッグ・アボット州知事が18日、三つの新法案に署名したとし、テキサス・トリビューンAPなどが報じた。

Senate Bill 3(上院法案 3)国境の壁とパトロールの強化

一つ目の法案は、国境の壁の強化のため、州予算の計上を許可するもの。1200マイル(1931キロメートル)に及ぶ壁の建築の継続のため、新たに15億4000万ドル(2200億円以上)を予算に充てる。

また多くの不法移民が働いているとされる地域(ヒューストン市近郊の住宅開発地など)を州警察が巡回する予算として、最大4000万ドル(約57億円)を支出することも許可するもの。

これらの予算は約40マイル(64キロメートル)の壁の建設のために同州が2021年9月の時点で拠出した15億ドルへの追加金となる。

同州では、8月の時点でスター郡など26マイル(41キロメートル)の壁の建設が完了している。

Senate Bill 4(上院法案 4)州警察による逮捕、判事による出国命令

この法案は、リオグランデ川などを渡るなどして違法に入国した疑いのある人物を、州警察が逮捕できるようにするもの。拘留されれば、その人物はテキサス州判事の出国命令に同意するか、不法入国の軽罪で起訴される可能性がある。出国に同意しなければ、より重罪になる可能性がある。

ただし以下の場所では、警察であろうと不法移民の逮捕は禁じられている。(公立・私立共に学校(大学を除く)、教会、礼拝所、医療施設など)

二つ目のSB4(今年初めに可決したもの)法案は、密入国者もしくは蔵匿した者に対して、最低刑を2年から10年に引き上げるもの。

これらの法律は3月上旬(密航仲介を阻止する法律は2月上旬)に施行される。

NBCニュースによると、メキシコとの国境を越えてやって来る不法移民の数は、毎日7900人前後に上る。今月18日、1日の最高記録1万2000人を更新した。

「連邦政府の政策はあてにならず、テキサス州は自力で対処するしかなくなった」。アボット州知事は、法案の署名に際し開いた記者会見でこのように述べ、バイデン政権の移民政策を非難した。また記者から、州が強制送還した移民をメキシコが受け入れない場合どうするかと問われると「彼らをすぐにメキシコに送り返す」と述べた。

同様の権限を警察に与えたのは、テキサス州が初めてではない。2010年、アリゾナ州議会はSB1070法を可決し、移民が合法的な滞在証明書を携帯しなければ州における犯罪と認めるとした。しかし「書類を見せろ」法案として批判が起きた。(注:アメリカでは外国人という理由だけで警察や公的機関に滞在証明書の提示を求められることはない)

2012年連邦最高裁は、アリゾナ州警察に対して、移民のステータスだけで逮捕する権限を認めず、その責任は連邦政府にあるとする判決を下し、同法の大部分を却下した。

今回のテキサス州法(SB3、SB4)はアリゾナ州法以来、州がイニシアチブを取って移民を取り締まるもっとも劇的な試みだと支持する声が上がっている一方で、先述のテキサス・トリビューンは「連邦政府との法的対立を強いられる火種になる可能性が高い」と懸念を示す。留置所のスペースには限りがある。筆者にもそれほど画期的かつ現実的な対策のようには見えず、ただの見せしめやその場凌ぎの対策のように思えてならない。ACLU(アメリカ自由人権協会)などの人権保護団体、移民支援団体、民主党員からは「移民の取り締まりは連邦政府の責任であり、これは違憲の反移民法案だ」「レイシャル・プロファイリングにつながるもの」などと反発の声も上がっている。

PHOTO: 9月27日、リオグランデ川を渡ってメキシコから米国に入国しようとする人々。

Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース エキスパート「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)本記事の無断転載禁止

© 安部かすみ