「とびきりハッピーなミュージカル」 主人公の敵役を演じる渡久山慶さん 劇団四季の「クレイジー・フォー・ユー」

 劇団四季が全国ツアー中のミュージカル「クレイジー・フォー・ユー」(以下「CFY」)に沖縄県伊良部島出身の渡久山慶さんが出演している。CFYはガーシュウィン兄弟の楽曲とダンスと笑いにあふれるラブコメディー。渡久山さんが演じるランク・ホーキンスは主人公の敵(かたき)役だ。「全国ツアーでは、毎回新鮮な気持ちで演じることができている」と渡久山さん。12月23、24両日の那覇公演に向けて、心境や役づくりについて聞いた。(学芸部・真栄里泰球)

劇団四季で活躍する、伊良部島出身の渡久山慶さん

思わず体が動く音楽 遊び心満載の振り付け

 ―「CFY」の見どころは。

 「一言で表現するなら、見れば必ず幸せになれるとびきりハッピーなミュージカル・コメディーです。コロナの数年によるネガティブな気持ちも、前に進むポジティブな気持ちに変えてくれる作品ですね。僕自身も演じていて気持ちを前向きにさせてもらっています。ポジティブな気持ちになる大切な要素は“笑い”があること。人の心を打つ舞台というのは、まず笑ってもらって心をほぐすことが大切だと僕は考えています」

ミュージカル「クレイジー・フォー・ユー」の一場面(荒井健さん撮影)

 「音楽の力も重要です。この作品の楽曲は、“アメリカの音楽の魂”と呼ばれるガーシュウィン兄弟の美しく楽しい音楽で構成されていて、思わず体が動いてしまうほど、気持ちが前向きになれる不思議な力を持っています。そして振り付けはスーザン・ストローマン氏。圧巻のタップダンスと遊び心満載の振り付けも魅力の一つです。特に、1幕ラストの“I Got Rhythm”はぜひ注目してほしいシーン。ショーに失敗してしまった人々が、希望を取り戻していく姿を歌とダンスで表現しています。多くの小道具を駆使し、複雑なステップやフォーメーションが次々と繰り広げられるビッグナンバーです。CFYは、これらたくさんの要素が一つになり、感動的な舞台をつくり上げています」

ランク・ホーキンスを演じる渡久山慶さん(荒井健さん撮影)

少しドジでおちゃめな敵役

 ―渡久山さんが演じるランク・ホーキンスはどのような人物ですか?

 「廃れていく金鉱の田舎町デッドロックの酒場兼ホテルのオーナー。以前は活気あふれた町が、観光客も少なくなりどんどん廃れていく現状を『もう一度復活させたい!』と、ビジネスに野心を燃やしている人物です。その野心のあまり、主人公ボビーが、心を寄せるヒロインのポリーのために計画するショーを何としてでもぶっつぶしたい!と行動を取ります。いわば敵役ですね。とはいえ絵に描いたような悪役ではなく、自分が描いている目的のために一生懸命ショーの邪魔をする。だけど、いつも失敗してしまう、少しドジでおちゃめな敵役と言えるでしょう」

華やかに盛り上がる「クレイジー・フォー・ユー」(荒井健さん撮影)

土地によって違う観客の反応 深化する舞台

 ―那覇公演を控えています。演じていて、どのように変わりましたか。

 「劇団の稽古場でみっちり稽古をしてきましたが、全国ツアーではその土地の県民性や文化によってお客さまの反応が違うので、自分の表現も日によって変わったり深化したりしてきました。特に日々劇場が異なるため、劇場のサイズによって演技を調整する能力が身に付きました。これを、われわれは蛇腹(じゃばら)合わせと呼んでいます。アコーディオンが伸び縮みするように、劇場に合わせて表現を調節するということです。大きな会場なら後ろの席まで伝わるように、中サイズの会場なら自然なしぐさでも伝わるように心がけています。全国ツアーでは毎回、新鮮な気持ちで演じることができることに感謝しています。那覇公演ではどんな表現ができるか楽しみです」

とんでもない逸材いるかも

 ―沖縄で演劇を目指す後輩たちにメッセージをお願いします。

 「沖縄県は全国でも類いまれなる芸能文化を育んできた土地であり、多くの方が幼少期から沖縄民謡を耳にし、エイサーやダンスなどさまざまな芸能カルチャーが根付いています。ですから、ミュージカルやお芝居に関してもとんでもない逸材が現れるのではと思っています。どんなことでも続けることが難しい。続けていくことで自分のイメージする夢に近づけますが、その途中でやめてしまいたいと思う瞬間が少なからず訪れます。もちろん別の夢が見つかる場合もありますが、そうでなければ頑張って続ける。簡単なことですがそれが難しい。CFYの那覇公演をきっかけに、沖縄から今後の演劇界を担う方が出てくることを楽しみにしています!」

【プロフィル】
 渡久山慶(とくやま・けい) 沖縄県宮古島市伊良部島出身。大学時代に見た「美女と野獣」に感動し、劇団四季を目指す。2008年にオーディション合格、2009年初舞台。主な役に「ジーザス・クライスト=スーパースター」のペテロ、「キャッツ」のマンカストラップ、「アナと雪の女王」のパビー、「クレイジー・フォー・ユー」のランク・ホーキンスなど。

【「クレイジー・フォー・ユー」のあらすじ】
 1930年代のニューヨーク。仕事よりもダンスに夢中な銀行の跡取り息子・ボビーは、母親の命令で、田舎町の劇場を差し押さえに行くことに。そこで出会ったポリーに一目ぼれするが、彼女は差し押さえ対象である劇場のオーナーの娘だった。2人の恋の行方は…。そして、ボビーを目の敵にするランク・ホーキンスはどう動くのか…。

【12月23.24日になはーとで上演】
 12月23日午後1時と6時、24日午後1時から那覇文化芸術劇場なはーとで上演。入場料はS席9千円など。問い合わせは沖縄テレビ事業部、電話098(869)4415。(平日午前9時半~正午、午後1時~5時半)
詳しくは沖縄テレビのサイト参照。

© 株式会社沖縄タイムス社