C-C-Bと稀代のヒットメーカーたちががっちり手を組んだ『すてきなビート』はアルバム作品の理想形かもしれない

『すてきなビート』('85)/C-C-B

昨年12月に亡くなった笠浩二(Vo&Dr)の一周忌を迎えたことも関係したのだろう。C-C-Bのオリジナルアルバム7タイトルが、12月27日に再発された。いずれも、オリジナル音源に加えて、ボーナストラック追加した仕様で、ファン必聴、必携のアイテムと言えるだろう。C-C-Bと言えば、やはり真っ先に思い浮かぶのが「Romanticが止まらない」。ヘッドセットを装着して電子ドラムを叩きながら歌うピンク色の髪のドラマーの姿は、ブラウン管越しにもインパクトが強かった。今週はその「Romantic~」でブレイク後に発表された3rdアルバム『すてきなビート』をピックアップしてみた。

筒美&松本の提供曲でブレイク

C-C-Bの3rd『すてきなビート』は、そこまでそれほどヒットしていなかったアーティストが何かのきっかけで待望のブレイクを果たし、そのあとで発表するアルバムとして理想的なかたちではなかろうか。これが本作の素直な感想である。なぜそう感じたのかと述べるためには、まず彼らのプロフィールを簡単におさらいしておかなければなるまい。

C-C-Bのメジャーデビューは1983年。同年6月にシングル「Candy」をリリースしている。この時のバンド名は“Coconut Boys”だった。そもそもこのバンドは、[音楽プロデューサーの上野義美が立ち上げたアメリカンDJスタイルのミニFM局「KIDS RADIO STATION」(通称「KIDS」)(中略)で、夏をイメージした新生バンドを数組結成させ競わせるプロジェクトを企画し(中略)グループ・サウンズの再来を思わせる「和製ビーチボーイズ」をコンセプトとしたバンドを作るためメンバーを探し]て結成されたものだという。今で言う“企画もの”と言っていいだろう。デビュー前にメンバーが脱退したうえ、デビューシングルリリース後にもメンバーチェンジがあったというのも、何ともうなずける話ではある。

デビューから1年後、両A面の2nd「瞳少女/チリドッグがお気に入り」をリリース。共に大企業のCMタイアップが付いたものの、どちらもヒットには至らなかった。この間、1st『Mild Weekend』(1983年)と2nd『Boy's Life』(1984年)とオリジナルアルバムも発表しているが、こちらもパッとしなかったことは言うまでもない。本稿作成にあたって、シングル「Candy」と「瞳少女」を拝聴したが(さすがに1st、2ndアルバムは聴かなかった…御免)、前者は確かに“和製ビーチボーイズ”を意識したことがありありと分かったし、後者はチェッカーズの一連のヒット曲を手掛けた芹澤廣明が作曲したものであって、それなりのクオリティーは保っていたことは確認できた。しかしながら、はっきり言って、いずれも(言葉は悪いけれど)それぞれの劣化コピーであったことは否めない。それでも、メンバーがドゥーワップやR&R;が大好きだったとしたら、そこに熱も宿ったのだろうが、[肝心のメンバー全員がそれまでビーチボーイズの音楽を耳にしたことはあれど造詣が深いわけではなく、メンバー自身の音楽性や趣味嗜好は反映されなかった]という。今聴いてもオリジナリティーに乏しい残念な代物ではあると思う。

シングル、アルバムともに1st、2ndが不調だったCoconut Boysは3rdシングルで勝負に出る。アルバム3枚で一契約…という話をよく聞くので、3rdでダメならそれで終わりだった可能性もある。ラストチャンスだったとも言える。そこから先は、アラフィフなら知っている人も多い、わりと有名なエピソード。[テレビドラマの主題歌担当の話が舞い込み、プロデューサーの渡辺忠孝が実兄の筒美京平にヒットにつながる作曲をと依頼したところ「松本隆が歌詞を書くなら引き受ける」という条件を出された。そして作られた楽曲が出世作となった3枚目のシングル「Romanticが止まらない」である]。そのテレビドラマは中山美穂も出演していた『毎度おさわがせします』。ドラマのヒットも相俟って、「Romantic~」も大ヒットしたことは説明不要だろう。以降、4th「スクール・ガール」、5th「Lucky Chanceをもう一度」、6th「空想Kiss」(いずれも1985年)と立て続けにヒットを飛ばし、人気を不動のものとした。バンド名を正式にC-C-Bとしたのもこの頃だ。それまでCoconut Boysの略称として用いていたC-C-Bが一気に浸透したことや、[読みやすいし語呂も良い]と改名に至った。

今回、彼らのプロフィールを調べて、「Romantic~」の大ヒット以降、上記のシングルのみならず、1989年10月のバンド解散に至るまで、バンドで唯一チャート1位を獲得した9th「ないものねだりのI Want You」(1986年)を始め、10th「2 Much, I Love U.」(1987年)や13th「恋文(ラブレター)」(1988年)など、シングルをほぼトップ5内にランクインさせていることを、恥ずかしながら初めて知った。C-C-Bが昭和後期の音楽シーンを彩った偉大なバンドであることはデータも証明している。(ここまでの[]はすべてWikipediaからの引用)。

アルバムならではの楽しさ

さて、話を『すてきなビート』へと移す。本作のリリースは1985年5月。シングル「Romantic~」の発売は同年1月なので、そこからやや時間が空いた。1st、2ndアルバムは先行シングルから約1カ月後のリリースだったので、それまでとは少し趣が異なっていたとは言える。想像するにこれは、「Romantic~」が彼らにとってラストチャンス的なものだったことも関係していたのだろうし、筒美京平&松本隆の黄金タッグによる珠玉のナンバーが生まれ、しかも強力なドラマのタイアップが付いたことで、制作サイドにはヒットの予感があったからだろう。要するに「Romantic~」をじっくりと世に広めようとしたのだと思う。実際、「Romantic~」が大ヒットし、同年4月発表の4th「スクール・ガール」も再び筒美&松本コンビが手掛けることになった。まさしくC-C-Bの名が世間に認知されていく中、「スクール・ガール」の1カ月後に3rd『すてきなビート』が発売されている。今思っても、この時にタイミングと流れは絶妙だったと思えてならない。リーチ一発自摸的…と言ったら麻雀を知らない人には何を言っているのか分からないだろうけど、時流に乗った時、かくも上手い具合に物事は運ばれるという見本みたいな話だと個人的には思う。

その物事の上手い運びは、『すてきなビート』収録曲からもうかがえるところだ。オープニングはM1「Romanticが止まらない(オモシロ-MIX)」。これがなかなか面白い。もし前例に沿って、シングル「Romantic~」の1カ月後に『すてきなビート』が発売されていたら、おそらくこういう芸当は行なわれなかったのではなかろうか。2曲目辺りにシングルバージョンをそのまま収録していたに違いない。当時はそれが普通だった。シングル「Romantic~」を解体した、まさに“オモシロ-MIX”を収録したこと自体に、当時のC-C-Bの勢い感じさせる。1980年代にはすでにDJがリミックスした12インチシングルがあって、ディスコ(クラブではない)でも使われていた記憶があるけれど、歌謡シーン、ロックシーンにおいて、M1ほどに派手なリミックスものを披露することはそうなかったように記憶している。あくまでも筆者の体感なので他にもたくさんあったのかもしれないけれど、少なくとも『すてきなビート』のM1のように、リミックスを自作において収録するケースはそれほど多いことではなかったと思う。増えたのは1990年代に入ってからだ。ここにはC-C-Bの先見の明を感じる。

M1のようなシングルと容姿の異なるリミックスを収録したことには、アルバムを購入することのメリットのようなものがあったとも思う。シングルリリースから1カ月以内ならまだしも、約半年が経って、すでに何度も耳にしてきた楽曲をまた聴かせられても…と思う人がいても不思議ではない。ファンならばなおのことそう思うだろう。その意味でリミックスを収録したのはかなり気が利いている。

M3「スクール・ボーイ」も同様だ。M3はシングル「スクール・ガール」のアンサーソングで、歌のメロディーはそのままに、歌詞とヴォーカルを変更している。シングルの改編である。リミックスに似たものであろう。『すてきなビート』の発表はシングル「スクール・ガール」は発売から1カ月しか経っていないので、それこそ前例に合わせて、シングルをそのまま収録しても文句は出なかっただろう。それにもかかわらず、M3のような仕様の楽曲を新録したところに、これもまたC-C-Bの心意気を感じる。ファンはとても楽しかっただろうし、さらにバンドへ興味、親近感を持ったに違いない。

M1のリミックスが効果的だったのは、「Romantic~」に、筒美京平が書いた、言わば“余すところがないメロディー”があったからだろう。イントロでのシンセが奏でる印象的なメロディーから始まって、ほんのちょっぴりソウルを感じるAメロ、叙情的なBメロ、そして、切なさの中に確かなキャッチーさがあるサビメロと、良質なメロディーの宝庫と言える「Romantic~」である。どこを切っても、どこを抽出しても、どれかとどれかを組み替えても、組み合わせさえ間違えなければ──いや、多少何かを間違ったにしても、その旋律の優秀さが損なわれることはない。筒美メロディーは1フレーズ1フレーズが強靭なので、そもそもリミックスに向いている。解体、再構築することで、キャッチーさがさらに引き立つようなところがある。それが『すてきなビート』M1で見事に成功したと言える。

思えば、M3の歌詞もそうかもしれない。松本隆の郷愁を誘う歌詞は、具体的な情景を描きつつも、奥行きがあって、聴き手を選ばない。世界観の広がりを感じさせるから、角度も変えられる(M3は「スクール・ガール」の反対から物語を描いている)。しかも、これもまた言葉選びがキャッチーである。そう考えると、『すてきなビート』は、筒美京平、松本隆という稀代の作家のすごさを改めて示した作品という見方もできるかもしれない。

メンバーの潜在能力もしっかりと示す

筒美&松本の黄金タッグがそれまでパッとしなかったC-C-Bを引き上げたことは疑いようのない事実だろう。それは前述の通り、『すてきなビート』でも確認できる。だが、本作はそれだけでなく、C-C-Bのメンバーの確かなポテンシャルも感じるところではある。『すてきなビート』にはメンバー作曲のナンバーが3曲収められている。渡辺英樹(Ba)作曲のM2「急接近」、関口誠人(Gu)作曲のM5「二人のシーズン」、M8「メモリーなんていらない」がそれである。歌の主旋律は当然、筒美京平よりは劣る。それは仕方がない。キャリアが違いすぎる。しかしながら、言わば、その若さが、ことアルバムとして見た場合にいいふうに作用しているのではないだろうか。そんなようにも思う。そのメンバー作曲のナンバーをザっと解説してみよう。

まずM2。やはり歌メロのキャッチーさは薄いものの、その分、サウンドが前に出ているように思う。シンセ強めでありつつ、ドライなギターにも存在感があって、テクノポップとニューロマの中間といった雰囲気である。全体的にはマイナー調だし、“ウッ! ハッ!”というコーラス(合いの手?)が入っている辺りから想像するに、当時、世界的に流行っていたFrankie Goes To Hollywoodの影響が少なからずあったのかもしれない。淡々としたリズムはディスコティックだし、Bメロやサビの後半はそれなりにメロディアスなので、筒美メロディーや、Coconut Boys時代とは異なるオリジナリティーが発揮されていると思う。

M5「二人のシーズン」はドンシャリ感は否めないものの、他の楽曲以上にロックバンドらしさを感じる。シンセは比較的控えめで、ギターも重い。サビメロが(個人的な見解として)チェッカーズの亜流といった感じで(あくまでも個人的には)好みではないけれど、ベースラインは明らかに「Peter Gunn」のオマージュであろうし、そこにもロックスピリッツを感じる。

M8「メモリーなんていらない」はいわゆるバラード。アートロックと言うと完全に言いすぎではあるけれど、頑張って当時の洋楽に寄せようとしていたことを想像させる。特にイントロからAメロ。個人的には1980年代半ばのBryan Ferryを想像した。頑張って渋く仕上げようとしていたところは好感が持てる。サビで転調気味に爽やかになるところは好みが分かれるところではあるだろうが、メロディー、コード進行ともに悪くはない。及第点以上ではあろう。いずれにしても、これらのメンバー作曲のナンバーからは、「Romantic~」や「スクール・ガール」だけじゃない、C-C-Bのバンドの側面が見えるし、それがアルバム『すてきなビート』のバラエティさに繋がっているのは間違いない。

このM3、M5、M8の編曲クレジットは、C-C-Bと、一連のシングルでもアレンジを手掛けた船山基紀のダブルネームとなっているが、C-C-Bの意向はかなり反映されていたのではないだろうか。「Romantic~」のイントロには以下のような有名なエピソードがある。長文だが、以下、引用させてもらう。[レコーディングに立ち会った筒美と渡辺は、フェアライトCMIのデジタル音を駆使した個性的なイントロが今一つ気に入らず、大村雅朗に新たにアレンジを依頼する案まで出たが、斬新な船山アレンジを気に入ったメンバーの意見を筒美は汲み上げ「彼らがいいと言うのだから、いいよ」と承諾した。大ヒット後、筒美から「なんでもやってみるもんだね」と言われ、船山は崩れ落ちそうになったと語っている]。ここから察するに、アルバムではメンバーの意見、アイディアを船山が汲み取ったと見るのは自然なことだろう。そう考えると、これらの楽曲、引いてはアルバム全体にも独特の躍動感、意欲が宿っているようにも感じられる『すてきなビート』である。(ここまでの[]はすべてWikipediaからの引用)。

TEXT:帆苅智之

アルバム『すてきなビート』

1985年発表作品

<収録曲>
1.Romanticが止まらない(オモシロ-MIX)
2.急接近
3.スクール・ボーイ
4.Forever
6.I SAY, I LOVE YOU(アルバム-Mix)
7.浮気なジル
8.メモリーなんていらない

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