民主主義の針路決する米大統領選 分断が深まる超大国を率いるのは誰か

ソノラ砂漠で死亡した移民の追悼式で、ろうそくをともす参加者=2023年11月、米アリゾナ州トゥーソン(共同)

 民主主義の針路を決する米大統領選の年が訪れた。ロシアのウクライナ侵攻や中国による台湾への軍事圧力、パレスチナ自治区ガザ情勢-。混迷を極める国際社会と向き合い、分断が深まる超大国を率いるのは誰か。国民の審判に世界の関心が集まる。

81歳バイデン氏と77歳トランプ氏「高齢者同士」で再戦か

 4年に1度となる2024年の米大統領選では、史上最高齢の大統領である民主党の現職バイデン氏(81)が再選を狙う。共和党の候補者指名争いは、16年、20年に続いて3回連続出馬のトランプ前大統領(77)が独走。11月5日の投開票に向け、高齢候補同士の再戦が濃厚となっている。その場合、全米の支持率は拮抗(きっこう)しており、接戦が予想される。

 バイデン氏は大規模な国内投資や富裕層への増税といった経済政策「バイデノミクス」の業績をアピールするが、インフレは長引き、重い負担が国民にのしかかる。中東情勢を巡り、イスラエル寄りの政策を批判されたことも相まって人気は低迷。2期目を務めた場合は任期終了時に86歳となり、心身の衰えを懸念する声も上がる。

 トランプ氏は21年の議会襲撃など四つの事件で起訴されながらも、共和党の候補者指名争いでデサンティス・フロリダ州知事(45)やヘイリー元国連大使(51)を大きく突き放す。ただ法廷闘争も同時並行で進めなくてはならず、党内穏健派や無党派の取り込みは難航しそうだ。

 前回20年と同じ顔触れを冷めた目で見る国民は多い。暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領を伯父に持つ無所属の弁護士ロバート・ケネディ・ジュニア氏(69)や、小政党「緑の党」のジル・スタイン氏(73)ら「第3の候補」がバイデン、トランプ両氏の票を奪い、波乱要因になる可能性もある。

保守牙城でリベラル胎動 西部アリゾナ 激戦州に

 保守的な米共和党の牙城だった西部アリゾナ州に地殻変動が起きている。中南米系移民の流入により、共和党支持層の白人比率が低下。リベラルな民主党が胎動し、2024年大統領選では激戦必至だ。メキシコと接する南部国境は、母国の生活難を逃れ、豊かな生活を夢見る移民であふれていた。

 酷暑で知られるソノラ砂漠にある国境の街サセイブ。トランプ前大統領(77)が建造を進めた「国境の壁」がそびえ立つ。未建設部分の隙間から入国した約60人が集まっていた。冬でも焼き付けるような日差しが降り注ぎ、昼間の気温は30度超。移民らは着の身着のまま米国境警備当局に収容されるのを待ち続ける。

 「彼らは麻薬密売人なんかじゃない」。食料を配る支援団体のジェーン・ストーリーさん(76)が気色ばむ。犯罪者の侵入防止を理由にした壁は「非人道的だ」と声を震わせた。暑さで衰弱したり、毒蛇にかまれて命を落とす移民も多い。支援団体によると1990年以降、砂漠を渡ろうとした4千人以上が死亡した。それでも危険を冒すのは、母国の貧困から逃れるためだ。

 アリゾナはハイテク産業の一大拠点。州都のあるマリコパ郡は移民が流入し、全米で最も人口の増加が激しい。草の根の市民活動はそんな中、有権者登録を手助けし、中南米系の投票率を押し上げる。2020年の前回大統領選で民主党のバイデン候補(現大統領)がアリゾナを奪還する原動力にもなった。

 投票の大切さを伝えている人権団体「LUCHA」の幹部アブリル・ガヤルドさん(33)は、民主党推薦候補のため「1万軒を戸別訪問し支持を訴える」と意気込む。

 一方、共和党で選挙戦略などを担当するバレット・マーソン氏(52)は、候補者の資質の低さが逆風の原因と分析。トランプ氏のほか、大統領選と同時に実施される上院選の共和党候補キャリ・レーク氏(54)が前回大統領選の不正を根拠なく主張し、穏健派と無党派を遠ざけていると嘆く。

 23年11月、メキシコとの国境から100キロほど北に位置する都市トゥーソンでは、米国を目指す途中に砂漠で息絶えた移民の追悼式が開かれた。遺体が見つかった場所に自作の十字架を立て、死者を弔い続ける芸術家アルバロ・エンチソさん(78)も「アメリカンドリーム」を信じて南米コロンビアから移り住んだ。若き日の自分と重ね合わせながら乾いた土に打ち込んだ十字架は1600本を超えた。

 中南米系移民を阻もうとする歴代政権の国境政策への失望感は深い。だが、いずれは良くなると信じている。「私の代では難しくても、子や孫の世代にはもっと声を上げられるようになるはずだ。米国は移民の国なんだから」

国際秩序に多大な影響 ウクライナ支援を左右

 米大統領選の行方は、国際秩序に多大な影響を及ぼす。民主党のバイデン大統領は国際協調を重視しロシアが侵攻するウクライナを軍事、経済面で支えるが、共和党は支援継続に慎重な意見が多く、政権交代すれば外交方針の転換は必至だ。

 共和党のトランプ前大統領は、再登板すれば「ウクライナでの戦争を24時間で終わらせる」と豪語する。ロシアのプーチン大統領が3月の大統領選で再選されれば調停に入ることも視野に終戦の道筋を探るとみられる。

 イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘を巡っては、バイデン政権はイスラエルの自衛権を支持するとしながらも、ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの人道危機拡大を懸念。イスラエルの地上侵攻に反対する民主党リベラル派やアラブ諸国の声を受け、バランス外交に腐心する。

 一方、共和党のデサンティス・フロリダ州知事やヘイリー元国連大使らは、ハマス壊滅に向けたイスラエルの軍事行動を全面的に支持。アラブ諸国の反発を招き中東の緊張が高まる恐れもある。

(写図説明)米ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領(左)と対面するバイデン大統領=2023年9月(AP=共同)

米大統領選までの主な日程
米大統領選、共和党の主な候補(写真はAP、ロイターなど)
2020年9月、米オハイオ州クリーブランドでの大統領選第1回候補者討論会で激しい応酬を繰り広げたトランプ氏(左)とバイデン氏(ロイター=共同)
米ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領(左)と対面するバイデン大統領=2023年9月(AP=共同)

© 株式会社沖縄タイムス社