ブルーインパルス
航空自衛隊の花形「ブルーインパルス」。アクロバット飛行の専門チームで、一糸乱れぬ華麗な動きは観る者を魅了する。そんなブルーインパルスが、5年ぶりに岐阜基地の「航空祭」へ。舞台裏を取材すると、超絶美技の裏に知られざる“戦い”があった。
航空祭の会場ごとに異なる“地形”
加藤拓也さん
航空祭2日前、宮城県・松島基地に拠点を置くブルーインパルスが岐阜基地にやってきた。アクロバット飛行をするのは1番機から6番機。彼らは“ドルフィンライダー”と呼ばれ任期は3年だ。このうち6番機のパイロット加藤拓也さんは、地元・岐阜県の出身。航空学生から戦闘機のパイロットになり、1年前、憧れのブルーインパルスのメンバーに抜擢された。
「岐阜県加茂郡川辺町でずっと育ちました。ここでの展示飛行は初めてなんです」(加藤さん)
基地の北には山が
人生初となる地元・岐阜での凱旋飛行。だが、気がかりなことが。
「注意するのは山ですかね。山にあたらないように」(加藤さん)
航空祭の会場は基地によって地形が異なる。岐阜基地は南東に名古屋空港があり空域に制約がある。さらに基地の北には標高300m級の山が東西に走り、南から低空で侵入する場合は注意が必要なのだ。
わずかなずれも許さないブルーインパルスの誇り
そんな慣れない地形が影響したのか、本番前のテスト飛行でミスが出た。6番機と5番機のデュエット「コークスクリュー」。一見、成功したように見えたのだが、戻ってきた加藤さんの表情は曇っていた。
「5番機とシンクロしなければならない所で、出来ていない軌道があった。あす改善したいと思います」(加藤さん)
2つの機体が平行になるタイミングでわずかなズレが。素人目にはわからない小さな乱れも許さない、それがブルーインパルスの誇りなのだ。
“分厚い雲”の下 制約の中でも“超絶美技”
航空祭当日は分厚い雲が
航空祭当日。5年ぶりのブルーインパルスを観ようと詰めかけたファンは何と13万8000人。この日は前日の快晴から一転、分厚い雲に覆われた。
「上空に雲があると演技のスペースが少なくなるんです。出来る課目と出来ない課目が出てきます」(川島良介編隊長)
雲に機体が隠れてしまうため、大空一杯を使った演技はできない。雲の下という制約の中で観客を満足させられるのか、演技が始まった。
ブルーインパルスのデュエット「コークスクリュー」
(会場アナウンス)
「美しく広がるスモークにご注目、朝日をイメージしたサンライズです!」
「横転を始めるとともにダイヤモンド型に形を変えていきます!」
次々と繰り出すアクロバティックな技に観客は釘付け。6番機を操る岐阜県出身の加藤さんも魅せた。
(会場アナウンス)
「背面飛行をしている5番機の周りを、6番機がらせんを描いて行きます!」
本番でしっかりタイミングを修正、美しいスモークの軌跡がコンビプレーの成功を物語る。
エンディングに近づくにつれ、どんよりした雲がさらに低く垂れ込め、薄暗さを増す。その時、サプライズが起きた。
サプライズのツリー・ローパス
(会場アナウンス)
「会場正面、西の方をご覧下さい。皆様が、素敵なクリスマスを送れるようクリスマスツリーをイメージしたツリー・ローパスをお届けします!」
川島編隊長がプログラムにはない編隊飛行を指示したのだ。雲の下で描くクリスマスツリー。粋な計らいに会場は沸いた。
人々を熱狂させるブルーインパルスの超絶美技。その裏には“天気と地形”を克服するパイロットたちの腕と、溢れるサービス精神があったのだ。