ヤマトが契約終了した委託配達人はアマゾンに吸収されるのか?

ヤマトは日本郵政との協業で個人事業主約3万人との契約を打ち切る(写真はイメージ)

アマゾンジャパン(東京都目黒区)が自社物流網の充実に力を入れている。これまではヤマト運輸や佐川急便、日本郵政などの大手配送業者を利用していたが、運転手不足やドライバーの時間外労働規制といった「物流の2024年問題」もあり、迅速な配達を維持するには自前で物流網を構築する必要があるからだ。

アマゾンが「ヤマト浪人」を取り込む?

一方、ヤマトは「クロネコDM便」や「ネコポス」を日本郵政へ移管するのを機に、配達を委託してきた個人事業主約3万人との契約を2024年度末までにすべて終了する。アマゾンは契約終了で放り出された個人事業主を吸収することになりそうだ。

アマゾンジャパンは2019年に働く時間を選べる「アマゾンフレックス」、2022年に地域の小規模店舗に配送を委託する「アマゾンハブデリバリー」を開始。2023年には物流会社の起業支援や軽自動車やリヤカー付きの電動アシスト自転車でも配送できるようにするなど、あらゆる形態で個人事業主を物流網に組み込む体制を整えてきた。

アマゾンの自社物流網は、大きく分けて2系統ある。一つは個人事業主に委託するアマゾンフレックス。専用アプリで就労時間を選択して荷物を受け取り、アプリ画面でルートを確認しながら配達する。もう一つが中小配送企業に委託する「デリバリーサービスパートナー(DSP)」。そのほとんどが地域密着型の中小運送会社だ。


大手配送業者は「選択と集中」の罠にはまるのか

DSPの多くは個人事業主に配送を委託しているという。分かりやすく言えば同じアマゾンの荷物を運ぶ個人事業主でも、フレックスではアマゾンと直接契約する「一次下請け事業者」、DSPでは「二次下請け事業者」となる。「1次下請け」のフレックスの方が良さそうにも思えるが、常に仕事があるか分からないというデメリットも。一方、DSPとの契約は安定して受注できるのがメリットだ。

料金の安さや配送に手間がかかるなどの理由で大手配送業者との取引が細っているアマゾンジャパンが、中小配送業者や個人事業主に依存せざるを得ないとの事情もある。しかし、「2024年問題」で配送従事者が極端に減少するのは確実な情勢。ここで柔軟な運用が可能な個人事業主をアマゾンジャパンに流出させることで、国内大手配送会社の活動に制約がかかるリスクも無視できない。

大手配送業者は収益性の高い配送サービスに「選択と集中」を進めている。これは、かつて国内大手製造業が辿(たど)った道だ。当初は利益率が上がり「V字回復」ともてはやされたが、長期的に見れば縮小均衡を招き、ものづくりの国際競争力は低下してしまった。

アマゾンジャパンがDSPに出資する可能性もあり、大がかりな買収攻勢をかけて「ラストワンマイル」の戸別配送ルートを押さえる可能性もある。そうなれば国内大手配送業者がアマゾンジャパンの「言い値」で配送を委託せざるを得ないという、現在とはあべこべの未来もあり得る。「選択と集中」を誤れば、企業の命運はたちまち傾く。これまでも多くの日本企業が「選択と集中」の落とし穴にはまったことを忘れてはいけない。

文:M&A Online

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