考えるな、感じろ!布袋寅泰「バンビーナ」新しい年にふさわしい90年代の名曲  1999年、まさに世紀末にリリースされた布袋寅泰の名曲「バンビーナ」を聴け!

1999年、世紀末にリリースされた布袋寅泰「バンビーナ」

世界中の人々を元気にできる曲など、あるわけがない。人によって好みがあるし――。そうはわかっていても、私はこの曲に、つい「もしかして全人類、いや、生きとし生けるものすべてをノリノリにできるかもしれない」という、ステキな可能性を感じてしまうという、そう、布袋寅泰の「バンビーナ」に!

1999年、世紀末にリリースされた曲だが、世紀末を過ぎた現在も聴くたびパワーは増すばかり。まさに、新しい年にふさわしい90年代の名曲だ。特に2021年12月3日に公開された「THE FIRST TAKE」では、ステキな可能性が確信に変わった。最初の “♪ティヤタタティヤタタ……” という布袋寅泰のギターで、すでに、胃下垂の如く垂れ落ちた心に、ふっと弾力が戻る。そして、「レッツゴー!」の叫びを合図に、自分を縛り付けていた見えない糸がバン! 切れるのだ。

そこからはもう、サウンドがどうとか、ロックがどうとか、歌詞のこの部分がどうとか、細かく分析する隙さえない、ひたすらゴキゲンな時間。

 ♪ボンボンボン、ボンボボンボンボン!

イントロ、歌、間奏まで、音のパンチが効きまくる。ジャブ、ジャブ、ストレート。アッパーカーット! そして気が付けば体は揺れ、手は力強くグーに握られ、顔は、顔文字の→(≧∇≦)状態になっているのだ。

私は昔、この曲の威力が大勢の人に有効であることを、リアルに見たことがある。勤めていた職場で、私を含め数名が想定外の残業で疲れ切っていた。キーボードを打つ音がヒステリックに鳴り響く、不機嫌さと緊張感が漂うフロア。ところが「バンビーナ」がラジオでかかり、そのとたん全員が布袋寅泰につられ、半ば無意識に

「ウーッ、レッツゴー……」

とヤケクソながら呟き、職場はみるみる活気を取り戻したのだった。

まさに、無形のテンションアップ装置!

布袋寅泰のメロディから飛び出す音符を掴み取り言葉を選び出す森雪之丞

布袋寅泰の楽曲は、「バンビーナ」だけでなく、自然と体が動いてしまう楽曲が多い。上記の如く「疲れ切った場に布袋の歌が流れて活気づく」ということは多く、1996年の「CIRCUS」でも同じような体験をしたことがある。そのときは、締め切りが迫り、追い詰められていたクリエイターの先輩が、やはりサビで布袋寅泰につられるように「フライハーイ!」と歌い出し、フィニッシュの力を出すのに成功していた。

「バンビーナ」も「CIRCUS」も作詞は森雪之丞である。シブがき隊の「ZOKKON命(LOVE)」やドラコンボールの主題歌「CHA-LA HEAD-CHA-LA」など、言葉だけど擬音のような、独特の跳ね感をもたらす作詞家である。なにか、心を起き上がらせる暗号を知っているかのよう。その瞬発力と躍動感は、ほとんどが曲先、あとから歌詞をつけるというスタイルの彼ならでは。

森は、ドラゴンボールオフィシャルサイトのインタビューで、メロディが先に決まっているという状況で、言葉のボキャブラリーに制限がかかることはないかという質問に、こう答えている。

「制約があるなかで、どんな言葉を選ぶのか、どんなふうに言葉を区切るのかを工夫していく。『ああ困ったな、ああどうしようかな、ああ楽しいな』と、どこかワクワクしながら詞を載せていく瞬間が醍醐味」

制限をむちゃくちゃ楽しんでいた! 確かに「バンビーナ」からも、ワクワクが溢れ出ていた。作詞というよりは、布袋寅泰のメロディから飛び出す音符を掴み取り、その皮をむき、中に入っている言葉を取り出し、「クックッ…… こんなのが出ましたぜ」と舌なめずりしながら私たちに見せてくれる。そんなイメージが見えるのだ。

エロティックな歌詞は森雪之丞の楽器音?

「バンビーナ」の歌詞は、じっくり読めばとてもエロティックである。「娼婦の唇(リップ)でしゃぶってみろよ」なんて、かなり過激だ。しかも、実はまだまだ危険なワードがたくさん散りばめられているようだ。作詞家の岩里祐穂とのトークセッション(『岩里祐穂 presents Ms.リリシスト〜トークセッション』)で森は、

「最初はもうちょっとヤバい言葉もいっぱい入れてたんですけど、布袋くんがダメだよって。『僕をそこまでのイメージにしないで。紳士なんだから』って。布袋くんはね、止めてくれるの(笑)」

ーー と語っている。

「もうちょっとヤバい言葉」とはどんなだったのだろう……。気になる。しかし、どれだけヤバい単語が入っていても、「バンビーナ」なら、案外どんな卑猥な言葉もスッと受け入れられる気がするのだ。この曲から聴こえてくる ”ヒップ” も “ヌード” も “娼婦の唇(リップ)” も、聴いている途中はまったく気にならないのだ。森雪之丞が作った楽器から出るサウンド。パーカッションみたいに心地よくリズムを作る!

楽曲でここまで、ブルース・リーの名言 “考えるな、感じろ”、という名言を思い出す楽曲はない。そんななか、しっかりと聴こえてくるメッセージ。

 世紀末だって過ぎれば昨日さ
 愛に憑(とりつ)いた
 悲しみも消える

ーー 布袋の力強い歌声に、スコーンと気持ちが明るくなる。

今日を生きろよ、生きればわかるさ。元気になりたいとき、ここぞという勝負どきは、景気づけにこの1曲。

「乾杯! とりあえずビール」のノリで、「乾杯! とりあえずバンビーナ」なのである。世界にはびこる憂鬱を壊せ。

ウーッ、レッツゴー!

カタリベ: 田中稲

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