hide with Spread Beaver「ROCKET DIVE」新しい年にふさわしい90年代の名曲  今も前向きなメッセージが溢れている!hide生前最後のリリースになってしまった「ROCKET DIVE」

生きていくために不可欠な “勇気” が漲っている「ROCKET DIVE」

新しい年にふさわしい90年代の名曲として、hideの「ROCKET DIVE」を外すわけにはいかない。X JAPANとしてのキャリアを拭い去るような気迫とロックンロールをベースにした新たな試みは、当時のhideのイメージを大きく覆し、また、生きていくために不可欠な “勇気” が漲っている。

ソロワークとして8枚目、hide with Spread Beaver名義では初のシングルとなるこの曲は、世界的な成功を収めたX JAPANが解散を発表した翌年、1998年1月28日にリリースされている。この時のX JAPANの幕引きは97年12月31日の東京ドームにおけるラストライブ『THE LAST LIVE〜最後の夜〜』と同日の『第48回NHK紅白歌合戦』のステージだったから、ここから1ヶ月も満たないインターバルでのリリースだった。

X JAPANが、極限までエモーショナルで絢爛豪華とも言える己の美学を貫くエクストリームなバンドとしてのスタンスを崩さなかったことに対して、「ROCKET DIVE」は潔く、真っ直ぐだ。何かを突き抜けようとするタフさを持ち合わせている。また、それはYOSHKIの描く耽美的、退廃的なX JAPANの様式美とは真逆のスタンスだった。これをhideは解散のショックで落ち込むファンへのプレゼントとした。そこにはギタリスト、ミュージシャンとしてX JAPANという大きなパブリックイメージにとらわれない限りなく自由なスタンスでの活動を示唆しているかのような印象があった。

それはーー

 何にもないって事 そりゃあ
 なんでもアリって事
 君の行きたい場所へ 何処でも行ける

―― という歌詞にも顕著に表れている。

X JAPAN解散という大きな分岐点で叩き出したhideが叩き出したメッセージ

音楽面を紐解いてみると「ROCKET DIVE」は、これまで布袋寅泰が編み出してきたグラムロック的なテイストを継承しているとも思えるし、80年代にブームとなったビートパンク的なアグレッシブさを総括しているように思える。またhideのフェイバリットである米ロックバンド “KISS” のようなキャッチーさも感じられる。シンプルさが際立ち、ロックンロールの本質である “居ても立っても居られない性急さ” をマキシマムに体現していた。

さらにポップでキャッチー、そしてメロディアス。しかし、それだけではない。ベースラインには大きなうねりを感じて大海原を航海しているような印象を醸し出す。バンドのグルーヴも最高だ。「ROCKET DIVE」は前のめりに聴く者の心を躍らせる。世紀末へと向かっていったこの時代に、多くの日本人の背中を押し、新たな航海へと促した。

 何年待ってみても
 僕ら宇宙の暇人だろう
 君と胸のミサイル抱えて飛ぼう

果てしないほどのスケールの大きさと、極めて個人的な心情を交差させながら、“現状を打破して突き抜けていこう” という一貫したメッセージがストレートに胸に突き刺さる。しかし、このメッセージは、ともすれば “後先考えず、とりあえず突き進め” というティーンエイジャー特権の稚拙なアジテーションのように思われるかもしれない。

しかし、X JAPAN解散という大きな分岐点で、このようなメッセージを叩き出したhideの心情を考えると、それは苦渋の決断の中で前に進むには、ロックンロールの瞬発力に身を任せるのが最も効果的であるという結論だったようにも思える。hideはその先の荒野を見据えた。つまり、生きようとしていたのだ。

hide生前最後のリリースになってしまった「ROCKET DIVE」

hideはX JAPANのリードギタリストとして音楽面を支えるだけでなく、バンドのビジュアル面も担い、ロゴの考案もしている。X JAPANの成功はビジュアル系という独自性の高いジャンルを巨大化、産業化へと導いた。しかし、こういった背景も全て拭い去るような気迫が「ROCKET DIVE」には感じられた。全てを捨ててイチからスタートすることは何も怖くはない。いや、だからこそ、生きる意味があるのだというアティテュードを強く感じさせてくれる。結果的に「ROCKET DIVE」はhide生前最後のリリースになってしまったが、この時hideが生きてきた証とモチベーションは今も風化されることはない。

 新しい星が瞬く世界へ
 SAIL AWAY

そう! 新たな目標に向けて飛び立つのはいくつからでも遅くはない。リリースから四半世紀経った今も「ROCKET DIVE」は多くの人の背中をそうやって押し続けているのだろう。

カタリベ: 本田隆

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