【阪急阪神ホールディングス】海外の不動産開発にM&Aも一役

今津線を走る阪急電鉄の車両

関西の大手私鉄である阪急電鉄や阪神電気鉄道などを傘下に持つ阪急阪神ホールディングス<9042>が、M&Aの動きを強めている。

コロナ禍の影響が薄らいだ2022年、2023年と相次いで企業買収を発表。2026年3月期を最終年とする中期経営計画の中でも、M&Aなどに備えた戦略投資枠を設けており、引き続きM&Aが実現する可能性は高そう。

同社は2006年に、村上ファンドが保有していた阪神電鉄株を買い取ることを目的に、阪急電鉄の持ち株会社である阪急ホールディングスが、阪神電鉄へのTOB(株式公開買い付け)を実施して誕生した企業で、M&Aとは縁が深い。

将来に向けどのような戦略を描いているのだろうか。

宝塚歌劇団など強い資産を保有

阪急阪神ホールディングスは、阪急電鉄、阪神電鉄、阪急阪神不動産、阪急交通社、阪急阪神エクスプレスの5社を中核企業とする持株会社で、グループ全体の事業戦略の策定などを行っている。

始まりは阪神電鉄の前身である摂津電気鉄道が創立された1899年。その後1907年に阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道が創立され、両社は関西を代表する大手私鉄して成長した。

この過程で両社には、強い資産が誕生した。1913年に結成された宝塚唱歌隊(現 宝塚歌劇団)、1935年に設立された大阪野球倶楽部(現 阪神タイガース)がそれだ。

阪神タイガースは2023年に18年ぶりにプロ野球のセントラル・リーグで優勝し、日本シリーズでも1985年以来となる38年ぶり2度目の日本一に輝いた。

一方、宝塚歌劇団は所属する25歳の劇団員が死亡した問題で、2024年に予定していた宝塚歌劇110周年記念行事を中止するなど厳しい状況にある。混乱は当分続きそうだが、再生を願うファンは少なくなさそうだ。

このほかにも1940年に阪神マート(後に阪神百貨店に改称)を、1947年に阪急百貨店をそれぞれ開業した。両百貨店はJR大阪駅前で販売合戦を繰り広げてきたライバル店であったが、現在はエイチ・ツー・オー リテイリングの傘下で阪急阪神百貨店として運営されている。


1年あまりで2件の企業買収を実施

阪急阪神ホールディングスは、M&Aで新規分野に乗り出した事例は少なく、2011年にソフトウェア開発のユミルリンクを子会社化した後は、コロナ禍の影響もあり企業買収は影を潜めていた。

それが2022年9月にインドネシアの大規模商業施設を所有する現地社を子会社化したあと、2023年12月には不動産、映画館運営のオーエスをTOBで子会社化すると発表し、1年あまりの間に2件の企業買収に踏み切った。

インドネシアの案件は、西ジャカルタにある大規模商業施設「セントラルパークモール」の所有権を持つPT CPM ASSETS INDONESIAを子会社化したもので、中期経営計画の中で掲げている海外不動産事業の拡大という目標の達成に向けた取り組みの一つと言える。

東南アジア地域では、すでに不動産事業に乗り出しており、2019年にジャカルタの複合施設「プラザインドネシアコンプレックス」などを保有、運営する現地事業体に出資した実績もある。

一方、オーエスの子会社化は、コロナ禍で収益環境が厳しさを増す中、グループの事業基盤を強固にするのが狙いで、子会社化後はオーエスの映画館運営事業をグループ企業である東宝に移管、集約する予定だ。

阪急阪神ホールディングスは、すでにオーエス株の22.16%(間接所有分を含む)を保有しており、残りの株式については2024年1月24日まで買い付けを行う。

このほかに2006年の経営統合後の主なM&Aとしては、2009年に実施した消費者金融業のステーションファイナンスの譲渡や、2015年のホテルで食器類の管理などを手がける宝塚ホテルサービスの譲渡、2019年のコンビニ、駅売店事業の譲渡などがある。

中期経営計画では海外不動産事業の拡大のほかにも、国内マンション事業の拡大や、短期回収型事業の拡大などを目標としており、今後こうした分野での動きが予想される。


4年間に6300億円を投資

その中期経営計画では2023年3月期から2026年3月期までの4カ年累計の投資や融資を含む設備投資額を定めている。

成長投資が3600億円、既存インフラの維持更新投資などが2400億円、戦略投資枠が300億円で、合計は6300億円に達する。

成長投資は国内外の不動産開発のほか、北大阪急行線の延伸、東京都千代田区のホテルグランドパレス跡地の開発、さらには阪神タイガースのファーム施設の移転などが含まれる。戦略投資枠はM&Aなどへの投資が、既存インフラの維持更新には鉄道施設やホテルの設備更新などが対象となる。

阪神タイガースの優勝などで上方修正

中期経営計画では業績についても、2026年3月期に営業利益1150億円、事業利益1180億円(営業利益に海外事業投資に伴う持分法投資益30億円を加えた額)という目標を掲げる。

この目標達成に向け、新たに始めた配信事業のほか海外不動産事業や分譲マンション事業の拡大、DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術で生活やビジネスを変革すること)の拡充などに取り組む。

さらに長期ビジョンの最終年である2031年3月期に向けて、分譲マンションや海外不動産などへの投資を一段と加速させるとしている。

足元の2024年3月期は、営業利益997億円(前年度比11.6%増)、事業利益1020億円を見込む。

国内旅⾏やホテル事業の宿泊部門が好調に推移しているほか、阪神タイガースの優勝などでスポーツ事業が好調だったことから2023年10月に、当初予想よりも営業利益を13.7%、事業利益を13.3%引き上げた。

売上高はコロナ禍前の2019年3月期(7914億2700万円)を大きく上回る1兆円(同3.3%増)を見込む。予想通りに業績が推移すれば、M&Aにも出番が回ってきそうだ。

文:M&A Online

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