「沖縄県民は自転車に乗らないよ」 反対が多かったシェアサイクル、事業が拡大している訳

シェアサイクル「CYCY(サイサイ)」のステーション(駐輪場)

 街で動物のサイが描かれた電動アシスト自転車を見かけませんか? 好きな駐輪場で自転車を借り、好きな駐輪場で返せるサービス「シェアサイクル」の車両です。県内でこのサービスを営む会社・プロトソリューションによると、2023年12月現在の台数は490台で、過去4年間で約6倍に増加。自転車に乗らないイメージがある沖縄県民に、シェアサイクルの習慣が広がってきています。(学芸部・又吉嘉例)

■自転車保有率は46位 「2世帯で1台」

 47都道府県中、46位の0.491台―。自転車産業振興協会の2021年調査による沖縄県の1世帯当たりの自転車保有台数です。1位の大阪府は1.356台で、自転車は「一家に1台」。沖縄は2世帯で1台持っているかどうかという数字です。一般的に自転車に乗らないとされる沖縄県民。車社会や温暖な気候、坂の多さ、塩害でさびやすいことなどが理由とされています。

 「車社会の沖縄に役立つような新しい事業を考えようというのが始まりでした」。プロト社でシェアサイクル事業を担当する平良武敏さんはそう説明しました。サービス名は「CYCY(サイサイ)」。シェアサイクルを広めることで「交通渋滞の緩和」や「二酸化炭素(CO2)の排出削減」、「地域観光産業の活性化」の三つのミッションの達成を目指しています。

「CYCY」をアピールする平良武敏さん

■コロナで観光客激減 3密回避に需要

 「そもそも沖縄の人は自転車に乗らないよ」。最初は社内でも反対の声が多かったそうです。その一方、国はITを使って鉄道やバスなど複数の交通手段を途切れなく利用できる次世代交通サービス「MaaS(マース)」の普及を進めています。地域や観光地での移動や、運賃の支払いを便利にする目的です。自転車は、バス停や駅から目的地までの交通手段になれます。「シェアサイクルでMaaS事業に挑戦したい」。そんな担当者の熱意もあって事業化は認められ、CYCYは2019年10月に産声を上げました。

 当初は観光客をターゲットに、本島中北部の観光地にステーション(駐輪場)を配置していました。しかし2020年3月以降、新型コロナウイルスが流行。観光客が激減した直後、方針変更します。「人口が多く、複数の交通がつながる那覇に展開しよう」。那覇市内にステーションを集中するに伴い、利用者も増え始めました。平良さんは「混雑したバスなど、移動時の『3密』を避けたいという需要があったのではないか」と話します。

「CYCY」の現状とシェアサイクルの効果やメリット

■スマホで手続き 15分100円

 CYCYはすべて電動アシスト自転車です。利用方法はまず、スマホにアプリ「HELLO CYCLING」をダウンロードして会員登録し、料金の支払い方法を設定。自転車を予約したステーションに行って、スマホ上で後輪のロックを解錠して乗車します。ステーションの場所や自転車の使用状況もスマホで確認できて、利用料は15分100円。平良さんは「学生でも使いやすい金額です」とアピールしました。

アプリ「HELLO CYCLING」上でロックを解錠して乗車する

■4年で6倍の490台に増加

 プロト社は那覇市や浦添市など6市町村と連携し、移動しやすい街づくりを進めています。宜野湾市の1カ所から始まったステーションは現在、9市町村に137カ所。自転車は490台あり、県内のシェアサイクルの台数の7割以上を占める最大手です。月平均で合計約1万5千回の利用があり、内訳は県民6割、観光客4割と分析しています。午前7~9時と午後5~9時の利用率が高く、「時間帯から通勤や通学で使っていると思う。県民にも存在が知られ、根付いてきたんじゃないか」と平良さん。

 ただ、課題もあります。「那覇にステーションを設置し、台数を投下すればするほど利用者は増えるが、需要に供給が追いついていない」。借りたい場所に自転車がなかったり、返したい場所に駐輪スペースが空いていなかったり。空車や満車をつくらないように、担当者は毎日ステーション間を回って、自転車を再配置しています。

アプリではステーションの空車や満車状況、使用可能台数などが確認できる

 事業自体も現在は将来の利益を見込み、資金を投入している段階だそう。平良さんは「地域貢献の意味で続けています。那覇市を中心にステーションと自転車を増やし、しっかり利用してもらいたい」と話します。当面の目標は千台。各コンビニや学校にステーションが置かれ、自転車が「県民の足」になり、交通渋滞が緩和される―。「そんな未来を生み出したい」と強調しました。

※2023年4月1日に施行された改正道交法により、自転車に乗る人のヘルメット着用が全年齢で努力義務となりました。乗車の際はヘルメットをかぶり、安全運転を心がけましょう。
 

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