二酸化炭素の少なさとオゾン検出がカギ 現在の技術での “第2の地球” の探し方

地球のように生命に適した環境を持つ惑星を見つける方法はいくつも提案されていますが、そのほとんどが現状の技術では困難な方法です。

バーミンガム大学のAmaury H. M. J. Triaud氏などの研究チームは、地球のような環境の惑星を見つける新たな指標として、大気中の「二酸化炭素の少なさ」と「オゾンの検出」を提案しました。これらは惑星の表面に大量の液体の水、そして大気中に酸素が含まれていることを示す強力な証拠であり、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」を駆使すれば観測可能であるとTriaud氏らは考えています。

【▲図: 惑星の表面に液体の水があるかどうかは、一般的に恒星からの距離に依存します。しかし、実際に液体の水が存在することを証明するのは困難です(Credit: NASA & JPL-Caltech)】

■表面の水と大気中の酸素は見つけるのが難しい

地球以外の天体に独自の生命はいるのでしょうか?私たちは今のところ、生命誕生の実例は地球のみしか知らないため、科学者は主に地球と似たような環境を持つ惑星を見つけることに取り組んでいます(※1)。地球と似たような環境と言っても様々な指標がありますが、多くの科学者は「惑星の表面に大量の液体の水があること」および「酸素に富む大気を持つこと」という条件を満たす惑星を捜索しています。液体の水と酸素は特に大型の生命にとって必須の物質です。

※1…深海や地中に微生物が見つかっていることから、地球とかけ離れた環境の惑星でも、微生物ならば地球外生命がいるかもしれません。しかし微生物より大型な、そして究極的には知性を持つ生命が地球とかけ離れた環境にいるかどうかは、現時点では科学というよりもSFの範疇になってしまうため、地球と似た環境の惑星を探すことに比べてあまり真剣には検討されません。

では、このような “第2の地球” とも言える環境を持つ惑星があるとしたら、現在の技術でそれを見つけることはできるのでしょうか?例えば、表面に存在する大量の水は湖や海として陸地の一部を覆います。水面は日光を反射しやすいため、惑星の自転にともなって瞬間的な反射光のフラッシュが発生するでしょう。このような光は土星の衛星「タイタン」では観測に成功しています(※2)が、地球から遠く離れた惑星からの反射光を観測するのは技術的に極めて困難です。同様に、大気中の豊富な酸素を観測するのも技術的に困難であることが分かっています。

※2…ただし、タイタンの表面に存在する液体は水ではなく、低温で液化したメタンです。

■二酸化炭素の少なさとオゾン検出が “第2の地球” のカギ

Triaud氏らの研究チームは、地球によく似た惑星である金星や火星との違いを比較し、地球のような環境を持つ惑星について現在の技術でも観測可能な指標を探索しました。

Triaud氏らがまず注目したのは大気中の二酸化炭素の少なさです。地球大気中の二酸化炭素は約0.04%に過ぎませんが、金星や火星はその9割以上が二酸化炭素で構成されています。この違いは、地球で大量の二酸化炭素を吸収する活動があったことを示しています。

地球で二酸化炭素を吸収するものと言えば植物が思い浮かぶかもしれませんが、二酸化炭素を最も吸収するのは海です。海は全世界の植物よりもはるかに多くの二酸化炭素を吸収します。また、プレートテクトニクスによって海水が地下深くまで引き込まれるため、二酸化炭素は岩石の形で閉じ込められます。これも死後の分解の過程で二酸化炭素を放出する植物とは異なる点です。

Triaud氏らは、地球の歴史を通じて海水が吸収してきた二酸化炭素の総量は、地球の90倍もの圧力がある現在の金星の二酸化炭素の総量に匹敵すると推定しました。つまり、もしも二酸化炭素が極端に少ない惑星が見つかった場合、その表面に膨大な液体の水が存在するだけでなく、地下から物質や熱を供給するプレートテクトニクスが存在する可能性もあるのです。ウェッブ望遠鏡はすでにいくつかの惑星の大気で二酸化炭素を見つけていますが、裏を返せば、二酸化炭素が見当たらない惑星も発見可能であることになります。

これに加えてTriaud氏らは、大気中にオゾンが検出されれば、惑星が地球に似た環境であることを示す別の証拠になると考えています。オゾンは酸素と紫外線の作用で生じる物質で、生命にとって有害な紫外線を遮断する能力があります。加えて、オゾン分子は酸素分子と比べて望遠鏡での観測によって発見しやすい特徴的なシグナルを示します。つまり、オゾンは酸素に富んだ大気の間接的な証拠となるでしょう。

■「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」で観測可能

Triaud氏らは、二酸化炭素が少ない一方でオゾンを含む大気を持つ惑星は、実際に地球と似たような環境を持つ惑星であると考えています。特に両者が揃っている場合は、もしかすると光合成による二酸化炭素の吸収と酸素の放出があり、植物が存在することを示しているのかもしれません。このため、以下の3段階に分けた太陽系外惑星の観測スケジュールがあれば、ウェッブ望遠鏡でもそのような惑星を発見することが可能であると考えています。

1. 約10回のトランジット (惑星が恒星の前を通過する現象) の観測。二酸化炭素はウェッブ望遠鏡によって検出しやすいため、二酸化炭素が豊富な大気ならば、この観測回数で検出できます。
2. 二酸化炭素が少ない大気を持つ惑星を中心とした約40回のトランジットの観測。ないことの証明はあることの証明よりも難しいため、より多くの観測データが必要となります。
3. オゾンの検出を目的とした約100回のトランジットの観測。検出しやすいとはいえ、オゾンの濃度ははるかに低いため、この程度の観測回数が必要となります。

加えて、研究チームは「TRAPPIST-1」の観測実績がこの検出方法のロードマップになると考えています。TRAPPIST-1は地球から約40光年離れた惑星系であり、いくつかの惑星で二酸化炭素が検出されています。TRAPPIST-1自体には地球と似た惑星はないかもしれませんが、他の惑星と観測データを比較するためのちょうどよい指標となるでしょう。

Triaud氏らは、パラダイムシフトとなるような何か大きな発見が数年以内にあるのではないかと期待しています。

Source

  • Amaury H. M. J. Triaud, et al. “Atmospheric carbon depletion as a tracer of water oceans and biomass on temperate terrestrial exoplanets”. (Nature Astronomy)
  • Jennifer Chu. “A carbon-lite atmosphere could be a sign of water and life on other terrestrial planets, MIT study finds”. (Massachusetts Institute of Technology)

文/彩恵りり

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