NASA探査機「OSIRIS-REx」が採取した小惑星のサンプルを収めた装置、数か月かけて開封に成功

NASA(アメリカ航空宇宙局)の小惑星探査機「OSIRIS-REx(オシリス・レックス / オサイリス・レックス)」は2023年9月末に101955番小惑星「ベンヌ(ベヌー)」のサンプルを地球へと届けたものの、採集装置「TAGSAM」の2個の留め具が外れなかったために、サンプルの大部分が未回収のままとなっていました。

2024年1月11日、NASAはこの2個の留め具を外すことに成功したことを報告しました。これは新たな工具をイチから設計し直すことを含めた、大変な作業の結果です。この成果により、さらに多くのベンヌのサンプルを、汚染のない状態で入手できるようになるでしょう。

【▲図1: 新たに設計・製造された工具を使って、グローブボックス越しにTAGSAMを開封することを試みている様子(Credit: Robert Markowits (NASA-JSC))】

■「OSIRIS-REx」は独自の方法でサンプルリターンに成功

2016年9月に打ち上げられたNASAの小惑星探査機「OSIRIS-REx」は、小惑星「ベンヌ」のサンプルを採集して地球へ輸送することをミッションの目的としていました。同じく小惑星のサンプル採取を試みたJAXA (宇宙航空研究開発機構) の小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」と似ていることから、日本では “米国版はやぶさ” と言われることもあります。

ただし、OSIRIS-RExのサンプル採集の仕組みは「はやぶさ」や「はやぶさ2」とは大きく異なります。「はやぶさ」と「はやぶさ2」の場合、小惑星の表面に向けて弾丸 (プロジェクタイル) を発射することで舞い上がったサンプルを筒(サンプラーホーン)で採集する形式でした。これに対し、OSIRIS-RExではロボットアームの先端に取り付けた採集装置が小惑星表面に接触した瞬間に窒素ガスを噴射し、舞い上がったサンプルを装置内部に納める形式でした。サンプルが入った採集装置はロボットアームから切り離され、サンプル収容容器に収められた後で地球に帰還しました。

【▲図2: サンプル収容容器から取り出されたTAGSAMの画像。サンプルの一部はTAGSAMからはみ出ていますが、大部分はTAGSAMの中にあると考えられています(Credit: Erika Blumenfeld & Joseph Aebers (NASA-JSC))】

小惑星の表面に接触した瞬間に採集するという仕組みから、採集装置は「TAGSAM(Touch-And-Go Sample Acquisition Mechanism、直訳すればタッチ・アンド・ゴー・サンプル収集機構)」と名付けられています。TAGSAMを収めた帰還用カプセルは2023年9月24日にアメリカのユタ州にあるユタ試験訓練場に着陸。同月26日にはNASAのジョンソン宇宙センターのクリーンルームへと収容され、ここからTAGSAMの開封作業へと入る予定でした。

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■サンプルを収めた「TAGSAM」の封印が解けないトラブルが発生!

ところが、開封作業中に問題が発生しました。TAGSAMの蓋を封印する35個の留め具のうち、2個がどうしても外れなかったのです。地球由来の物質がベンヌのサンプルを汚染して科学研究に悪影響を及ぼす懸念を最小限にする必要があるため、TAGSAMは狭いグローブボックスの内部で取り扱う必要があります。また、工具自体の破片や付着物、磁気などがサンプルに影響を与えないようにするため、グローブボックスでは事前に設計・製造の上で許可された工具のみが使用を許されます。ところが、あらかじめグローブボックスでの使用が許可されていた限られた形状の工具では、この2個の留め具を外すことができなかったのです。そのため、開封は2023年10月中旬から中断していました。開封する方法が開発されるまで、TAGSAMはOリングとテフロンバッグで密封され、グローブボックスを満たす窒素の気流から遮断されていました。

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【▲図3: 専用のピンセットを使って塵状のサンプルを取り出している様子。サンプルは汚染を避けるためグローブボックス内にあり、この中では限られた形状の工具しか使えません(Credit: (NASA-JSC))】

一応、留め具を外すことができた部分には隙間ができたことから、合計70.3gのサンプルをピンセットやスコップで取り出すことができています。この量だけでもOSIRIS-RExミッションの目標採集値である60gをすでに超えていますが、ロボットアームの動きから推定されたサンプル採集量は約250gであり、さらに多くのサンプルが取り出せないまま眠っている計算になります。

■新たな工具をイチから設計・製造し開封に成功!

【▲図4: TAGSAMの封印を解くことに成功したキュレーションチームのメンバー(Credit: Robert Markowits (NASA-JSC))】

この問題に対処していたジョンソン宇宙センターのキュレーションチームは2024年1月11日、TAGSAMの2個の留め具を外すことに成功したことをNASAの公式ブログで発表しました。先述の通り、TAGSAMはグローブボックス内に収められており、狭い空間内で扱える工具が必要です。また、工具は汚染が最小限となる基準を満たさなければなりません。

チームは基準を満たした外科用の非磁性ステンレス鋼を使用して、新たな工具をイチから設計・製造しました。そしてこの工具がTAGSAMを破損させたりサンプルを汚染させたりすることなく留め具を外すのに必要なトルクを得られるかどうか、本番を想定したリハーサル環境で何度もテストを重ねました。長いテストとリハーサル期間を経た後、開封作業は1月10日に行われました。

ジョンソン宇宙センターでこのチームを率いるNicole Lunning氏は、この成果を次のように述べています。

“The curation team showed impressive resilience and did incredible work to get these stubborn fasteners off the TAGSAM head so we can continue disassembly. We are overjoyed with the success.”

「キュレーションチームは見事な粘り強さを見せ、我々が分解作業を続けられるよう、これらの頑固な留め具をTAGSAMのてっぺんから外すというびっくりするような仕事をしてくれました。私たちはこの成功に大喜びしています。」

■全てのサンプルが公開されるのはもう少し先

開封の妨げとなる留め具を外すことには成功したものの、TAGSAMを完全に分解するための作業がまだ少し残っているため、サンプルの完全な回収はもう少し先となります。また、全てのサンプルがすぐさま研究に回されるのではなく、回収されたサンプルのうち70%は今後数十年に渡って室温またはマイナス112℃の環境で保管されます。これは、将来的な技術革新で新たな分析技術が開発された時に備える措置です。

キュレーションチームは2024年春の後半に、全てのサンプルのカタログを作成・公表する予定です。

Source

  • Rachel Ann Barry. “NASA’s OSIRIS-REx Team Clears Hurdle to Access Remaining Bennu Sample” (NASA OSIRIS-REx Mission)
  • Erin Morton. “NASA’s OSIRIS-REx Achieves Sample Mass Milestone”. (NASA OSIRIS-REx Mission)
  • Abbey A. Donaldson. “NASA’s Bennu Asteroid Sample Contains Carbon, Water”. (NASA)

文/彩恵りり

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