自動運転バスの実用化はいつ?実証実験を重ねる西鉄の現在のリアルな到達点と課題

自動運転――それが「いつか」訪れる未来であることは誰もが思っていることではないだろうか。しかし、市民生活の中で「いつ」「どのように」実装されるのかは、専門家にとっても回答が難しい問いだ。世界中でいち早く自動運転を成し遂げるための取り組みが続く中、西鉄は「自動運転バス」の実証実験を地道に重ねている。バスは自動運転の先駆けとなるのか。運転士がいないバスに乗って通勤、通学する日は、果たして、やってくるのか。

通常の運転と同等の安定感

福岡空港、一般車が入れない1.4キロメートルの専用道区間に入ると、バスの運転士はハンドルのそばのボタンを押して自動運転モードに切り替えた。

手をハンドルから離し、当然ながら、アクセルもブレーキも踏まない。

小雨がぱらつく中、自動運転バスは走る。時速は34キロ。カーブに差し掛かると、ハンドルが勝手に回る。まったくもってスムーズだ。対向車とすれ違う時は、ほどよく減速。「これが自動運転か!」と実感できるシーンは、残念ながら(?)皆無だった。それくらい安定した快適な走行なのだ。

福岡空港で2度目の実証実験に手応え

これは2023年6月から8月にかけて西鉄が行った実証実験に参加した際の率直な感想だ。福岡空港の国際線と国内線ターミナルをつなぐ連絡バスを自動運転で運行する実験は、今回が2度目。

前回、2022年春に実施した第1弾では軌道のぶれがほとんどない、安定した車両挙動を確認。今回は雨天時にも走行したほか、福岡空港のスタッフに実際に乗車してもらい乗り心地を調査するなど、当初の目的に沿った検証結果を得ることができた。ただし豪雨時においては、センサーが雨粒を障害物と誤検知し予期せぬブレーキ作動がみられるため、自動走行は実現できていない。

自動運転はバスだけでなく、トラックやタクシー、そしてもちろん乗用車など、様々な形態で研究や実験が進んでいる。どこが先に実用化するのかは何とも言えないが、中でもバスは経路が確定しているという点で実装に近い位置にあるという見方がある。

レベル4で乗務員同乗を目指す理由

今回は前回に引き続き、自動運転レベル2(部分運転自動化)での実験となった。また、北九州空港と最寄りの駅を結ぶ路線バスの自動運転化に向けた実証運行でも、自動運転レベルは2であった。「目指すのはレベル4での運行」と語るのは、西鉄の自動車事業本部・未来モビリティ部モビリティサービス担当課長の岩崎大介さんだ。

(岩崎さん)
レベル2は大型2種の運転免許を所持した運転士が主体の運転です。レベル4は加速、操舵、制動のすべてをシステムが担い、法的には運転士は不要ですが、実際は様々な技術的なハードルがあるため、まずは乗務員同乗型でのレベル4を目標としています。

西鉄が自動運転の研究・実験を行う最大の理由は深刻な運転士不足にある。過去20年間で、路線バスなどを運転できる大型2種免許保有者は約32%減少。「これから十数年の間に運転士が3割程度減る可能性がある」という2017年の時点での予測もある。

(岩崎さん)
運転士が高齢化していく中で、体力に不安が出てくるシニア層にとって、レベル4が実現すれば、かなりの業務負担軽減になります。もちろん、理想は完全な無人運転でしょう。しかし、現実的にはかなりハードルが高いのと、シニア世代の運転士に西鉄に残って頂きたいという意味でも、まずは乗務員同乗型のレベル4の実現を目標にしています。普段は運賃収受等の、いわゆる車掌業務を担ってもらい、いざという時、例えば豪雨や緊急車両の退避など自動運転での対処が難しい場面では、ハンドルを握って頂く、という姿をイメージしています。

第3弾以降は徐々に乗車対象を拡大し、「レベル4」での実証運行を目指す方針だ。

西鉄がプロジェクトに参画する真の意義

もちろん、課題は少なくない。中でも高い壁のひとつが、先程からも触れている「豪雨」だ。

実験で使用された車両は、いすゞの「エルガ」自動運転バスの国内第1号だ。定員79人の大型バスで、3次元地図と自車位置を照合するためのレーダー装置「LiDAR」のほか、信号の色や周辺の状況を検知するための各種カメラ、ミリ波レーダーやジャイロセンサー、GNSSアンテナなどを搭載している。

そうした高精度のセンサーが正常に機能してこその安全な自動運転なのだが、激しい雨によって誤動作する可能性が高まる。

2023年12月に北九州空港~最寄り駅(約10km)で行った公道実証走行では、さほど激しい雨でなくとも、トラックの水しぶきに反応しブレーキがかかる場面が頻発したほか、雪の日は雪粒に対し、そのような反応が強くみられたという。

(岩崎さん)
たとえば国内に小型のモビリティをレベル4で運行しているケースはあります。これは運行しているルートが観光地であることもあって、「豪雨だったら運休すればいい」という割り切りができるから。一方で私たちが目指しているのは普通の路線バスの自動運転化で、かつ通勤、通学や空港アクセスなど、日常生活やお仕事の足として使ってもらうイメージ。となれば、「雨が強いから運休します」というわけにはいきません。

自動運転の実証実験に西鉄が参画している意義は、こうしたリアルな問題点を指摘できるところにある。自動車メーカーやベンダーの立場だと、「大雨などは例外として捉えればいい」と考えるのが妥当だろう。

しかし、西鉄のように街のインフラとして日々、バスを運行している事業者の生の声は違う。自動運転バスが真に市民の足となるために、社会的な役割を持ったバス事業者の意見を開発の段階から取り入れることができる価値は大きい。

アライアンスを組むメーカーらと、いかにして豪雨問題をクリアするのか。これからの自動運転バスを考える上で、一つの着目点であることは間違いない。

全面専用道路化する福岡空港は実装間近なのか?

では、実際、我々市民が自動運転バスに乗車できるのはいつ頃なのか。

海外では、アメリカのサンフランシスコや、中国では北京など各都市で自動運転タクシーが実用化している。ただし、いささか加熱気味の感は否めず、事故が多発しているという報道もある。

(岩崎さん)
私たちは責任ある公共交通機関として、「リスクと隣り合わせの実験や運行」は絶対に手がけることはありません。あくまでも安全が最優先です。無人タクシーについては先行していた地域でも事故やトラブルからセーブがかかっているのが実情だと思います。自動運転バスは一歩ずつ、着実に、実装化に向けて前進していきます。

実証実験の舞台となった福岡空港の連絡道路は、現在、一部、一般道を走行しなければならないが、近い将来、全面専用道路になる計画がある。これが実現すれば、自動運転バスの導入はぐっと現実的になるのでは?

(岩崎さん)
確かにそうですね。豪雨の問題は残っていますが、好条件が整うことは事実です。ただし、技術面、安全面だけでなく、コストの問題もあります。自動運転バスの車両の価格は当然高くなりますし、仮に車内無人化を実現できても遠隔監視が法的にマストで、それでコストが今より下がるのかどうか。また、関係機関との協議の行く末なども含めて変数が多く、現時点で確定的なことは言えないのです。

公道の路線バスの自動化となると、さらに難易度が上がる。

(岩崎さん)
たとえば信号機にもリアルタイム情報を取得する機器を設置して、その情報をバスに送ればシステムの精度が高まります。しかし、そうした設備投資を一企業が担えるのかどうか。当然ながら警察との協議も慎重に進めていく必要があります。

自動運転の実装にはクリアすべきテーマが数多く横たわっている。それらを一つひとつ、地道に解決していった先にこそ、新しい交通の姿があるのだ。サスティナブルな公共交通に寄与する自動運転の社会実装のために、西鉄はこれからも研究と実験を継続していく。

岩崎 大介さん

西日本鉄道株式会社
自動車事業本部 未来モビリティ部 モビリティサービス担当課長

2007年、西日本鉄道株式会社に入社。自動車事業本部にてダイヤ作成や事業計画、賃金制度等を担当したのち、秘書室や経営企画部を経て、2022年4月より自動車事業本部未来モビリティ部へ。AIオンデマンドバス、九州MaaS、自動運転バス等に携わっている。

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