建築デザインや工業デザインについて詳しい方なら「バウハウス(Bauhaus)」という名を聞いたことがあるだろう。現代の建築や工業製品のデザインの基本、モノ作りの哲学のルーツは20世紀初頭にドイツで開校したこのアートスクール(美術工芸学校)にある。今回はこの学校で学び、20世紀を代表する建築&工業デザインの巨匠となったスイス人、マックス・ビル(1908〜1994)がデザインした「ユンハンス」の最新モデルを紹介する。
現代の建築や工業製品は、機能とは関係のない装飾がほとんどなく、すっきりとしたデザインが基本になっている。このスタイルの背景にあるのが、当時「ワイマール共和国」という名前だったドイツに、わずか14年間(1919~1933年)だけ存在した伝説のアートスクール、バウハウスだ。デザインの基本的哲学、デザイナーを育てる基本教育は約100年前から存在し、この学校で生まれたものだ。
いささか簡略化し過ぎではあるものの、バウハウスが打ち立てた現代の建築や工業デザインの基本思想、モノ作りの哲学を凝縮したのが「フォーム・フォローズ・ファンクション(形態は機能に従う)」という、バウハウスの校長であり、伝説の建築家&工業デザイナーだったミース・ファンデル・ローエの言葉だ。
時計の世界には、バウハウスのデザイン哲学から生まれた傑作がある。それがドイツの時計産業の中心地、シュヴァルツヴァルト地方にある「ユンハンス」の「マックス・ビル」シリーズ一連の製品だ。ユンハンスは以前紹介した「」と並ぶ名門である。
ユンハンスの本社所在地、シュランベルクのあるシュヴァルツヴァルト地方は木工が盛んで、17世紀にカッコウ時計(鳩時計)の開発をきっかけに時計産業が栄えた。写真は1898年にユンハンスが製造していたウォールクロック(ユンハンス本社のアーカイブより)
「マックス・ビル by ユンハンス」は、ウォールクロック(1956〜57年)と腕時計(1962年)の定番コレクションだ。加えてたびたび限定モデルも作られてきた。最近では2019年に、バウハウス誕生100周年の記念モデル「マックス・ビル by ユンハンス オートマチック」が発売され話題になった。
左)1959年、デザインスタジオでのマックス・ビル。手前に置かれているのが、彼がユンハンスで最初にデザインしたクロック。今も同じデザインの製品が製造されている
右)2019年に登場したホワイト文字盤の「マックス・ビル オートマチック バウハウス」
そして2023年10月、このモデルの新バージョン「マックス・ビル オートマチック バウハウス」が発売された。文字盤はホワイトからブラックに変更。無駄な装飾を削ぎ落としたシンプルで上品な表情に、精悍さと落ち着きがプラスされ、ホワイトの文字盤とはまったく違ったテイストに仕上がっている。
左)マットブラックを基調にしたクールな色使い。ブラック文字盤で抜群の視認性を誇る
右)ケースバックはバウハウスの校舎をモチーフにしたデザインで、ムーブメントの姿や動きも楽しめる
とはいえ、いずれのカラーも魅力的で甲乙つけ難く、どちらを選ぶかは悩ましいところ。ただどちらを選んでも、飽きが来ない、いつまでも愛用し続けることのできる名作であることは間違いなさそうだ。
JUNGHANS / ユンハンス
マックス・ビル オートマチック バウハウス 28.6万円(税込)
SPEC
- ケースサイズ:38 ㎜
- ブラックPVD加工SSケース、自動巻き、パワーリザーブ約38時間、レザーストラップ、5気圧防水
- ユーロパッション TEL:03-5295-0411
Text : Yasuhito Shibuya