電車内で水産の街をアピール 銚電が「漁網電車」を運転!?【レポート】

漁網電車は仲ノ町ー外川間を往復。銚子の海をイメージした澪(みお)つくしカラーに塗装され、ヘッドマークも付けます(筆者撮影)

ぬれ煎餅にまずい棒、自主制作映画、お化け屋敷電車、電車サウナと次々に飛び道具を繰り出す千葉県の銚子電気鉄道(銚電)。2024年に放つ一の矢は、その名も「漁網電車」です。

2023年は北海道の釧路港に抜かれて2位になったものの、2022年まで12年連続で漁獲量全国トップだった銚子港の海産物を資源化した観光列車ですが、そこは銚電、ひとひねりして地場産業の漁網にスポットを当てたのがミソ。2024年1月12~14日に、国内外のインフルエンサーを招く2泊3日のモニターツアーが実施されました。

走る電車内でプレゼン

経営環境は依然として厳しいものの、「観光・銚子」の看板を背負う銚電。普通の観光イベントだとなかなかマスコミに載りませんが、電車内や駅を会場にすれば、本サイトをはじめとする鉄道系のニュースやコラムで取り上げられます。

銚電は地元の行政や観光業界、商工業などと定期的に情報交換の場を設けており、その中で漁網電車のアイディアが生まれました。

水産の街・銚子には、多くの関連産業あります。もちろん、鉄道もその一つ。銚電も1984年の貨物営業廃止まで、終点・外川に近い外川漁港から海産物などを国鉄に連絡輸送していました。

今回取り上げる漁網も銚子特有の産業ですが、表に出る機会は多くありません。技術継承や人材確保のリクルートに苦心します。

そこで1900年に創業、120年を超す歴史を誇る地元の名門・森幸漁網と銚電が知恵を出し合って漁網電車を企画。車内を「プレゼンテーションのステージ」に仕立てました。

漁網電車車内。固定テーブルを取り付けて資料や商品を並べられるように工夫します(筆者撮影)

1月13日に漁網電車として臨時運転されたのは、京王帝都電鉄から四国の伊予鉄道を経て2016年に銚電入りした3000形電車(2両編成)。本物の漁網で装飾。網を縫い合わせて大きな網をつくる仕立て作業などを実演しました。中吊り広告枠はイワシやサバ、サンマ、キンメダイといった銚子産の魚の写真で埋め尽くしました。

車内で実演された魚網の仕立て作業。銚子で盛んな近海巻き網漁では、網を縫い合わせて東京ドーム一周分ぐらいの大きな網をつくります(筆者撮影)
途中から漁協関係者が乗車。水揚げされたばかりの鮮魚をお披露目しました(筆者撮影)

網棚、救助網 鉄道と網の関係は?

ここで中休み。鉄道と「網」の関係は? 最近は、ほとんど金属製パイプやガラス、アルミのパネルに代わってしまいましたが、車内の荷棚は、今も「網棚」と呼ばれます。

もう一つ、鉄道が普及し始め明治や大正時代の話ですが、路面電車の前面下部には金属や木製の枠に網を張った「救助網」が取り付けられたこともありました。

鉄道と漁網の共通点。日ごろからのメンテナンスが重要ということかも。最近の漁網は多くがポリエチレンやポリエステルの樹脂製ですが、一日で破れてしまうことも。仕業点検が欠かせません。

そして、そろって力を入れるのがリサイクル。森幸漁網は廃棄された漁網を再加工、東京都や愛知県の専門メーカーとタイアップして、シャツやストラップ、小物入れなどに再生します。

銚電とJR東日本 MaaSでつながる

話を戻して、モニターツアーに参加したのは全部で約30人。中心は日本各地や台湾から銚子にやってきたインフルエンサーです。

神奈川県在住で、空気演出家/空気デザイナーを名乗る青木あるさんに感想をうかがいました。「ツアーや漁網電車への乗車で、銚子のさまざまな魅力を知ることができました。銚電はファン注目の鉄道会社ですが、地場産業を巻き込むことで、鉄道に興味のない方にもご乗車いただけるのでは……」。

そして、同じ鉄道業界からのメンバーがJR東日本。銚電とJRは、本サイトで紹介させていただいた「銚電100周年記念バトンリレー号」を2023年7月に共同運行するなど、WINWINの関係を築きます。

JR東日本からは地元・千葉支社(成田統括センター)のほか、本社マーケティング本部の戦略・プラットフォーム部門からもマネージャークラスの社員が銚子入り。JRと銚電は、交通の情報基盤・MaaSの一環としてデジタルスタンプラリーを共同展開します。

台湾の鉄道ファンを呼び込め!

銚電が今後、海外向けプロモーションで力を入れるのが台湾で、今回も台湾から来日したインフルエンサーが参加しました。

台湾に、日本の鉄道に親しみを覚えるファンが多いのは良く知られた話。台湾の国鉄に当たる台湾鉄路管理局(台鉄)は、JR四国や京浜急行電鉄など、日本の鉄道会社20社以上と姉妹鉄道の縁組みを結びます。

銚電が台湾からの訪日客を増やそうと、2023年7月に取締役に迎えたのが大湾文子(おおわん・あやこ)さん。日本やアメリカの大学で学んだ後、台湾の国立大学の大学院に進学。日台の双方向交流に力を発揮します。

新型電車の銚子入りは未定

ラストは、本サイトをご覧の皆さまが今、一番気になりそうなニュース。銚電は2023年8月、南海電気鉄道の2200系電車の譲受を発表していますが、新車(2両)の到着や営業運転はいつになるのか。

2024年1月現在、現車は銚子に未着。柏木亮常務にうかがったところ、「そう遠くない将来ですが、今のところはっきりした日程は決まっていません」と、予想通りの回答が帰ってきました。

南海2200系は、今回漁網電車として運行された3000形以来8年ぶりの新車両。具体的な発表があれば、本サイトでもご紹介させていただきたいと思います。

記事:上里夏生

© 株式会社エキスプレス