【北九州銀行】日本で最も新しい地銀 ご当地銀行の合従連衡史

西日本シティ銀行の隣、博多駅東のビジネス街にある北九州銀行博多東駅支店

銀行はどうやってつくるのか。行名変更や合併によって新たに発足した銀行を除き、銀行のつくり方を体現して見せた最も新しい地銀が北九州銀行だ。同行ホームページのプロフィールには「北九州銀行は、山口銀行の九州域内の店舗を引き継ぎ、平成23年10月、新たに営業を開始した、北九州市に本店を置く唯一の地方銀行です。」と簡潔平易に示されている。

ここからわかるのは、2011年10月に山口銀行の九州域内の店舗を引き継いで設立した、ということ。そのつくり方を少し詳しく見ておきたい。

早ワザの吸収分割

銀行のつくり方としては、埼玉りそな銀行の設立と同様に、吸収分割というM&A手法を活用した。まず2010年10月、山口銀行などを擁する山口フィナンシャルグループ(YMFG)が、北九州金融準備という子会社を設立した。その約1年後の2011年9月に金融庁による営業免許の予備審査が終了し、北九州金融準備は北九州銀行に改称した。

改称と同時に、北九州銀行は銀行業の免許を取得する。免許の取得日は9月16日。そして北九州銀行は2011年10月に山口銀行の九州域内における事業を吸収分割し、10月3日に開業した。ちなみに、全国銀行店舗一覧の異動通知がなされたのは10月16日で、営業譲受けが行われたのは翌17日だった。

M&Aの手法の1つである吸収分割とは、ある会社が特定の事業を分割し、別の会社に承継する手法のこと。会社分割としては2種類あり、1つは新しく会社をつくって、その会社に事業を承継する新設分割という手法。北日本銀行では2010年10月に北九州金融準備という子会社を設立し、その子会社が北九州銀行と商号変更して山口銀行から事業を分割し譲り受けた。事業を分割する会社を新設したのとは異なるため、吸収分割ということになる。吸収分割には事業譲渡など他のM&A手法に比べて契約関係の移転手続きをシンプルに進められるメリットがあり、そのメリットを活かしたと言える。

23店舗からスタートし、現在37店舗に拡大

北九州銀行の営業は北部九州にあった山口銀行の支店23店舗からスタートした。貸出金残高は2011年度末の約7200億円から2022年度末には約1兆3500億円に増加。店舗網も無人店舗も含めて37拠点に拡大している。

10年あまり前の設立となれば、銀行の何もかもが新しいように思われるかもしれないが、そんなことはない。たとえば同行門司支店は横浜正金銀行の門司支店の建物である。かつて九州鉄道門司駅跡地に建設された横浜正金銀行門司支店は、その後、山口銀行門司支店として使われ、北九州銀行門司支店となった。

横浜正金銀行は外国為替の取り扱いを専門としていた特殊銀行である。この銀行の支店設置は門司港の国際性を反映し、「門司で当時の国際貿易のニーズに応える」という特別な期待が寄せられていた。確かに、門司は“九州のウォール街”、金融の中心地だった。明治中期から昭和初期にかけて、日本銀行西部支店をはじめ金融機関が門司に次々と支店を設けていた。その背景には、当初は下関に設置された日本銀行の支店が関門海峡の対岸と言える門司に移転したことがある。

また、当時の門司をはじめ関門地域が九州の石炭輸送の重要な拠点であり、中国・朝鮮、九州と本州間の物資輸送の要だったからでもある。今も門司港レトロと呼ばれる門司のレトロ建築群。多くの商社や貿易関係業者が関門地域に集中し、商業活動を展開していた。

そのほか、明治末期には官営八幡製鐵所が誕生し、北九州地域の工業化、繁栄によって資金需要が高まっていたことも背景の1つとしてあるだろう。かつての九州ウォール街・門司をはじめ、北九州の地域金融の役割は大きい。

文:菱田秀則(ライター)

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