5年ぶりに買収に踏み切る「ワタミ」コロナ禍で沈んだ居酒屋の復活が背景に

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居酒屋などの外食事業や、弁当を自宅に届ける宅食事業などを展開するワタミ<7522>が、5年ぶりに企業買収に踏み切る。

同社はシーフードや肉類の輸入や加工を手がけるシンガポールのLEADER FOODグループの3社を2024年1月15日に子会社化する。

2019年に飲食事業を手がける香港の合弁会社の株式を買い取り、完全子会社化して以来のことだ。

買収の背景には、2021年3月期に100億円近い営業赤字に陥ったものの、コロナ禍が薄らぐ中、外食事業をはじめとする全事業が赤字から脱却するとの明るい見通し(2024年3月期)がある。

国内外でのサプライチェーンの強化と海外への販路拡大を、今回の買収の狙いとして上げており、さらなる海外企業のM&Aの可能性もありそうだ。

ワタミモデルを世界に拡大

買収するのはLEADER FOOD、PREMIUM SEAFOOD SUPPLIES、LEADER FOOD INDUSTRIESの3社で、シンガポール国内で、シーフードと肉類の輸入、保管、加工、包装、供給事業を一貫して手がけている。

中核となるLEADER FOODの直近(2023年4月期)の売上高は2571万シンガポールドル(約27億7600万円)で、3社合わせた売上高合計は2866億5000シンガポールドル(約30億9000万円)だった。

いずれも黒字を確保しており、3社合計の当期利益は124万5000シンガポールドル(約1億3400万円)となっている。

ワタミは今回の買収によって、サプライチェーンの強化や海外販路の拡大に取り組むとともに、ノウハウを蓄積しワタミモデルを世界に広めていく計画だ。

外食事業も黒字化

ワタミは中国やアジアでの日本食市場の拡大を目的に、2016年に設立した香港の合弁会社を、2019年2月に完全子会社化した。その後、海外企業の買収が見込まれたが、2020年からはコロナ禍の影響で業績が悪化し、企業買収は影を潜めていた。

コロナ禍からの回復が日本よりも早い海外では、外食産業の業績が好転しており、海外事業に力を入れる企業が少なくなく、同社の今回の買収もこの流れに乗った形だ。

さらに、業績の回復が鮮明になっているのも後押しとなった。2023年3月期は3期ぶりに全体の営業利益が黒字転換したが、国内の外食事業は17億8000万円の営業赤字となっていた。それが2024年3月期には7億円の営業黒字に転じる。

また海外の外食事業も2023年3月期の6億1000万円の営業赤字から、2024年3月期は収支トントンにまで回復。さらに2023年3月期に損失を計上した農業事業とその他事業も赤字から脱する。

2024/3は予想

業績予想を2度上方修正

同社は2023年5月時点の業績予想を、2023年8月と同11月に2度上方修正しており、2024年3月期の全体の営業利益は2023年3月期(14億7400万円)の2.03倍の30億円に達する見込みだ。

営業利益はすでに2023年3月期に、コロナ禍前の2019年3月期(10億6200万円)を上回っており、海外市場を取り込むことでさらに伸びる可能性もある。次の買収はそう遠くはないかもしれない。

文:M&A Online

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