「わたしにNISAはまだ早い…」変額保険を検討する35歳会社員、お金のプロはどう判断する?

新NISAが話題ですが、今月に入り「私にはNISAはまだ早いのでは?」と保険商品を検討しているというお客様からのご相談が相次いでありました。もしや同じように悩んでいる方もいるのでは?と想い、解説していきたいと思います。


保険のほうが安心?

金融機関で「NISA」口座を開き運用すると、その口座内で生まれた利益が非課税になり、この非課税メリットが一生続く、これがNISAです。通常運用利益にかかる税金は20.315%ですから、これがかからないというのはとても「おいしい」話です。

ポイントは、「投資」を自ら行うという点です。投資ですから、価値が上がることも下がることもあり、結果損をするかもしれません。また投資商品を自分で選ばなければならない難しさもあります。

坂田様(仮名)35歳男性会社員は、最近お子さんが産まれたこともあり、生命保険を検討されていました。保険会社の方より、「資産形成していますか?」と聞かれ、「NISAをやろうかなと思っているところです」と答えたそうです。

するとその方が「NISAは利益が出れば良いですけど、投資未経験の方にはやはり難しいのではないかと思いますよ。その点、変額保険であれば、保障もついているので安心して資産形成もできます」とオススメされたそうです。

坂田さんは、万が一亡くなったら1,000万円の保険金が運用の成果にかかわらず必ず受け取れ、さらに運用益が上がればその分保険金が増える点、不慮の事故などで障害を負ってしまったら、その後の保険料の支払は不要でかつ運用が継続される点、保険料が生命保険料控除となるので節税になる点、その保険を担保に貸し付けも受けられる点、保険で用意されている運用商品はどれも過去の実績が優秀で優れている点などが書かれたメモを筆者に見せてくれました。

そして「やはり、NISAより保険の方が安心かと思っているのですが、第三者の意見も聞かせてもらえませんか?」とおっしゃいました。

坂田さんのメモからは、パンフレットを一生懸命読み込み勉強された様子がよく分りました。また父親としての責任から、失敗はできないという決心も感じられます。

目的ごとに分解して考えてみる

まず、坂田さんが万が一亡くなった場合に遺族の生活を支えるための「死亡保険」としてこの商品を見てみましょう。亡くなったらその時の運用成果にかかわらず1,000万円が最低保証、さらに6%以上で運用ができれば保険金も増えていくとのことですが、そもそも生命保険として適切なのかという点です。

まず、生命保険としての適正な額を算出するためには、ねんきん定期便を元に遺族年金を試算し、それで万が一の生活費をまかなえるのかどうかを考えます。今回はこのプロセスについては割愛しますが、試算の結果死亡保険金としては3,000万円くらい必要だと分りました。

すると今提案されている変額保険で同額の保険金を準備しようと思うと、単純に見積もっても22,000円の保険料より3倍程度上がることになります。

ちなみにネットで簡単に見積もりができる保険会社で35歳男性、保障期間30年間の掛け捨てで、保険金3,000万円と検索をすると月の保険料が7,000円程度でした。

今度は資産形成という視点で見ていきましょう。坂田さんが提案を受けている変額保険の満期保険金あるいは解約返戻金は運用実績に応じて変動し、死亡保険金のような最低保証はありません。

また、毎月支払う保険料は全額が運用に回る訳ではなく、一部は生命保険の保険料に回ります。これはパンフレットにある0%で運用した場合の解約返戻金が参考になります。

坂田さんが持参された資料によると、0%運用で10年経過した時の解約返戻金は209万円と表示されています。20年後は412万円、30年後は619万円です。一方それぞれ支払った金額は264万円、528万円、792万円ですから、平均するとどうも1年あたり6万円程度解約返戻金の方が少ないことが分ります。すると実際運用に回っているお金は22,000円の保険料のうち17,000円程度なのかも知れません。

保険に関連する手数料は、保険会社によって異なりますし、年齢や性別によっても異なるのですが、坂田様の場合はこのように見当をつけてみました。

変額保険は資産形成と死亡保険がセットになっているわけですから、内訳としては運用に回るお金が月17,000円、1,000万円の死亡保障に回るお金が5,000円と分解できます。

すると死亡保険金3,000万円の生命保険を、月々7,000円の保険料で確保し、15,000円をNISAで運用をするというプランも比較検討してみるべきかも知れません。

運用成績はどうか?

では、変額保険で扱っている運用商品の方が優れているという点はどうでしょうか? パンフレットによると、日本の株式や世界の株式に投資をする投資信託が数種類準備されていて、それを契約者の方が自由に組み合わせて、また適時変更もしながら運用ができるようになっています。

やはりここも一方だけを良いと思ってみるのではなく、比較する必要があるでしょう。今回は、MSCIワールドインデックスという指数をベンチマークにしている変額保険の投資信託と同様の投資信託をNISAのつみたて投資枠からピックアップして比較することにします。

NISAにも様々な投資信託がラインナップされていますが、その中でも信託報酬が0.1%以下の複数のインデックスファンドの過去3年間年率リターンは20%強であることが分りました。坂田様は、変額保険の運用商品の過去の実績はまだ確認していないとのことでしたので、ひとつの判断基準としてお示ししました。

最後にNISAの投資は難しいのかという点で考えてみましょう。たしかに変額保険で選べる商品の数に比べるとたくさん有りますから、難しいといえば難しいでしょう。しかし、投資をしたことがないから、オススメされたもので運用してそれで良いというのもどうも違う気がします。

解説が長くなりましたが、変額保険は様々な機能がついている分、NISAで運用をするよりもコストが高くなってしまいます。従ってその機能がご自身にとって納得感があるのかどうかがポイントだと思います。

例えば将来のインフレリスクも踏まえ、終身保険を準備したいのであれば、変額型の終身保険というのは有効でしょう。あるいは、保険だからこその機能として、万が一認知症などになってしまった時に、代理人の方が保険契約を解約してその後の生活費に充てるなどといったことも考えられます。

坂田様は最後まで、一定の障害状態になった場合の保険料払込免除を気にしていらっしゃいました。死は100%の確率ですべての人に訪れますが、65歳までに亡くなる確率はぐっと小さくなります。ましてや65歳までに一定の障害状態に陥る確率はそれほど高くないのではないかと筆者は思います。

保険会社の方は、万が一の生活を守るためのお仕事をされているので、一般の人より「万が一」に敏感であるような気がします。だからこそ、様々なことに保険をかけるのだと思いますが、リスクへの対策には保険以外の備え方もあるのではないでしょうか。

今回はあくまでも坂田様のケースに限ってのお話ですが、投資についてはこれから学んでいきたいというお気持ちなのであれば、適切な保障を保険で準備し、人生のマイナスに備える。人生のプラスに向かう部分はNISAを活用するという方法でよろしいのではないかとアドバイスさせていただきました。同様のお悩みをお持ちの皆様のご参考になれば幸いです。

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